05
「なに、1人の子どもに皆やられた?」
「はい、すみませんシコンさん……。とても強くて、私達の持ってるポケモンを全部使っても歯が立ちませんでした……」
シコンと呼ばれたのは、まだ若い暗い紫色の髪の男性だ。
したっぱ達と服装は同じだが、彼らよりも位が高いらしい。
「全く……。まあしかたない、特徴は?」
「はい、髪は黒でやや長め、黒のトレーナーに灰色の長ズボン、インナーとショルダーバッグは紺色でした」
したっぱが、シコンに邪魔をした少年の特徴を伝える。
「……なんか、リョウジみたいだな」
後を追ってきて物陰でかがんで様子をうかがっていたアキトが、その特徴をライバルに当てはめ、つぶやく。
「今回の彼らの目的は、相変わらずポケモンを奪うことなのかな?」
同じく物陰でシンヤが話しかける。
「……っぽいな」
アキトは、それだけ返すとすっと立ち上がった。
「アキト君?」
「シンヤ。したっぱがさっきポケモンがみんなやられたって言ってたよな? つまり今戦えるのは多分あのシコンってやつだけだ」
アキトの言いたいことは分かった。
幹部の実力は分からないが、こちらは2人だ。確かにチャンスかもしれない。
最悪やられたとしても、どちらかのポケモンに人を呼んでもらえばいい。
「……分かった、行こう」
2人は顔を見合わせ頷いて、シッコク団達の前に飛び出した。
「シッコク団、今すぐこの街から出ていけ! じゃないと許さないぞ!」
「オレのサンダースも許さないぜ!」
「……なんだい、君達は? ……って、君はアキト君かい?」
シコンはため息まじりにこちらを見たが、アキトを確認してたずねた。
「ああ、そうだ! オレはコキヒタウンのアキトだ!」
「ぼくはこのコクボウタウンのシンヤ!」
アキトが名乗りを上げたため、シンヤもつられて名乗り上げる。
……シンヤってこの街の出身だったのか。
「スミレやアオフジから話は聞いているよ。僕はシコン、彼らと同じシッコク団の幹部だ」
シコンも、2人に合わせて自己紹介をする。
「さて、この街から出れば見逃してくれるなら出たいけど、何度も邪魔してくる少年と、以前一度僕の部下達がやられた少年の実力は見ておきたい。
ゆけっ! シャンデラ!」
彼らは口元に手を当てて考えるようにつぶやいてから、ポケモンを出した。
「ならこっちは……行け! フローゼル!」
「行くんだ、ルンパッパ!」
相手はゴーストタイプとほのおタイプを併せ持つポケモン。2人は、有利なみずタイプのポケモンを出した。
「……シャンデラ、フローゼルにシャドーボール!」
「かわしてアクアテールだ!」
シャンデラの放った影の球。フローゼルはそれをジャンプでかわして、そのまましっぽを叩きつける。
「もう一度シャドーボール!」
「ねっとう!」
シャンデラは耐えて再び影の球を放とうとしたが、同時にルンパッパも熱く煮えたぎった水を放つ。
シャンデラは倒れたが、フローゼルはまだ戦えるようだ。
「やはり、さすがに2対1はきついな……。戻れ、シャンデラ。ゆけっ! ブルンゲル!」
次に出したのは、みず・ゴーストタイプのブルンゲルだ。
「戻れ、フローゼル。行け!サンダース!」
「ルンパッパ、ギガドレイン!」
「ブルンゲル、ギガドレイン!」
2匹は互いの体力を吸収しあう。だがブルンゲルには効果が抜群、対してルンパッパは普通だ。
「サンダース、10まんボルト!」
そして出てきたサンダースの電撃で、ブルンゲルは倒れてしまう。
「……ふむ、これ以上手のうちを晒したら、後々不利になるかもしれないな。戻れ、ブルンゲル。ゆけっ! ゲンガー!」
そして3匹目を繰り出す。
「サンダース、シャドーボール!」
「ゲンガー、かわしてくろいきり!」
サンダースは早速影の球を飛ばしたが、宙に浮かれてよけられてしまう。そしてゲンガーは、口から周囲を覆う黒い霧を吐いた。
「くっ、なにも見えない!」
「戻れ、サンダース! 行け! ピジョット!」
「みんな、早く引き上げよう!」
「羽ばたいてくろいきりを晴らしてくれ!」
シコンの声とともに騒がしい足音が続き、ピジョットが起こした風で霧が晴れた時にはすでに彼らの姿は無くなっていた。
「戻れ、ピジョット。……しかたないか。さあ、戻ろうぜ、シンヤ」
「うん、そうだね」
もうここに用はない。2人は、カナエのところに戻ることにした。