01
「ふわ〜ぁ、よく寝た……」
ホントによく寝た! 久しぶりに自分で起きた気がするけど、まあ気のせいだろ!
ベッドから出て日光を浴びながら思いきり伸びをして、頭をかきながら時計を見た。10時。……10時?
「……10時?」
あらためて口に出して、時間を確認する。
部屋を見渡してみたが、案の定幼なじみの姿が見当たらない。
いつもはカナエが起こしてくれるのにな……。
……昨日は遅くまで特訓してたから、気を使ってくれたのかな。
なんて考えてるとドアが開いて、意識はそちらに向いた。
「あ、アキト、起きてたんだ。おそよう」
入ってきたのはカナエだった。
「ああ、おはよ……、おそよう」
うーん、まだちょっと眠い……。
「あはは、アキト寝起きでしょ?」
「え? ああ、いや、だいぶ前から、起きてた……ぜ?」
カナエは口元に手を当て笑っている。ホントは寝起きだけど、なんとなく意地を張ってみることにした。
「ウソ〜」
「い、いや、ウソじゃないよ」
カナエはなおも笑っている。
……なんで分かるんだ!?
「口元」
「え?」
言われて触ってみると、少しざらざらする。……ああ、分かった。
「よだれ、ついてるよ」
彼女は今日一番の笑顔でそう言った。今日は始まったばかりだけど。
「カナエ。このことはダイスケに言わないでくれよ」
……いや、まあ知られてもいいんだけど、なんだろう、からかわれるだろうって考えるとなんとなくむかつくんだよなあ。
「さあて、どうしよっかな〜」
彼女は、両手を後ろ手に組んで楽しそうに近づいてきた。
「そうだな〜。なら1つ! 条件があります!」
そしてオレの目の前に人差し指を立ててそう言った。
「……して、その条件とは」
「ふふふ……」
「なんだよその含み笑いは」
「それは!」
「それは!?」
「今度わたしのお買い物に付き合ってもらうことです!」
なぜか満面の笑みで言うカナエ。さっきのを越えたな。……っていうか、え? それだけ?
「……いや?」
アキトがあっけにとられていると、彼女は嫌だと思われたのかと思い、不安そうな顔で彼を見つめた。
「あ、いや、いやじゃないけど……。それだけでいいのか?」
断る理由もないけど、……溜めたわりには、拍子抜けだな。
「だって、まずダイスケに内緒にする意味が分からないもん」
「まあ、オレもそう思う」
ホントになんでか分からないけどちょっと悔しいんだよな。
「ふふ、けど、よかった! 約束だよ!」
「ああ、もちろん」
オレが笑顔に戻ったカナエの頭に手をポンポンとして言うと、カナエはくすぐったそうな、けどどことなく嬉しそうな反応をとった。
できればしばらく反応を見てたかったけど、早く準備しなきゃダイスケについさっきまで寝ていたのがバレてしまうかもしれない。頭に置いた手を名残惜しいけどどけて、ドアに近づいてドアノブに手をかけた。
「じゃあ、顔を洗ってくるよ」
「分かった! じゃあわたしはアキトの……朝? ご飯を準備しとくね」
「ああ、ありがとう。 ……って、今、朝が疑問系じゃなかったか?」
「え!? き、気のせいだよ!」
「なんだ、気のせいか」
「そうそう」
いや、絶対朝にクエスチョンマークがついてた。……まあ、いいけど。
オレは笑いながらならよかった、と言って、手首をひねってドアを開け、部屋から出た。