01
「なんで……おれはあいつに勝てないんだよ! 今まで同じように過ごしてきて、同じ日にポケモンもらって! 同じ日に旅に出て、特訓だってした! なのに、なんで!」
アキト達から離れたダイスケは、人気のない場所に腰を下ろし、悔しそうに地面を殴りながら叫んだ。
だがやはり、答えは帰ってこない。
「あーっ! くっそ! しかもさっきのおれ、負けてキレただけみたいで、かなりだせえしよお!」
しかし言った後に、まあ、確かに間違っちゃいないけどよ、と自分にツッコミを入れる。
「……はあ。しかも相性が有利で負けるなんて、ありえねえよ……」
と言いながら両手で顔を覆って泣きそうになるのを抑えていると、ニョロボンがボールから勝手に出て来た。
「……ニョロボン、どうしたんだ?」
出て来たニョロボンを見ると申し訳なさそうになにか言っている。
そして首を振ってダイスケになにかを言った後、目つきをきりっとさせた。
「……悪い、まったく分かんねえ」
そういうと、ニョロボンは驚いたようなリアクションを取った。
「けど、次を負けねえ! ってのは伝わった。ありがとな、ニョロボン」
ダイスケは言いながらニョロボンの頭を撫で、ニョロボンも嬉しそうに笑う。やっぱりあってたか。さすがおれの相棒。
「それと、さっき負けたのはおれのせいだからな、気にすんなよ。じゃあ、戻れ」
おそらくニョロボンは負けたのは自分のせいだ、ダイスケは悪くない、というような反応をするだろうから、ダイスケはすぐにボールに戻した。
「……はあ。……けど、おれ最強トレーナーになれんのかな。アキトには勝てねえし、アキトに何回も勝ってるリョウジ、1回勝ってるシンヤとかもいるのによ……」
だが、ニョロボンを戻したダイスケは、また弱気に戻ってしまった。
よほど、幼なじみに3連敗したことがこたえているようだ。
「……ずっと夢だった、最強のポケモントレーナー。……けど、もうあきらめた方がいいかもな……!? いってえ!!」
一度戻したニョロボンが再度出て来たことに驚いていると、背中に衝撃を受けた。
「なにすんだ、ニョロボン!」
かくとうタイプのニョロボンに背中を叩かれ、ジンジンと痛むのをさすりながら言うと、ニョロボンににらまれた。
どうやら怒っているらしい。
「なに怒ってんだよ……」
いや、理由は分かっている。自分が夢を諦める、と言ったことに、自分のふがいなさに怒っているのだ。
「お前だって分かんだろ……! 世界には……。いや、このトウシン地方だけにだって、強いやつはかなりいるんだ……。
……おれには、無理だ……!」
そして再び両手で顔を覆い、ふと、彼のことを考える。
「……いつ、差がついたんだろうな。おれと、アキト……」
昔から彼と自分は同じ夢を抱き、スタート地点も同じだった。同じ道を旅して、同じジムに挑み。それで大した差が付くことはない、はずが、自分は一度も勝てないでいる。
そして今、自分はそんな彼に差をつけられたことにより、夢をあきらめかけている。
同じく連敗している、アキトと違って。
「……アキトはすげえよな。負けても負けても、また挑んで……。あきらめねえんだもんな」
本当は、薄々気付いていた。自分とアキトの差が、少しづつ開いていくことを。しかしそれを認めきれず怒鳴って飛び出したが、やはり、認めざるをえないようだ。彼の強さと、根性を。
「そういや、あいつは昔っからそうだったよなあ。バカで、あきらめなんて知らなくて、負けず嫌いで……」
それは昔から変わらなかった。
……おれもあきれるレベルのバカだった。ほんと、あいつは変わらねえな。
「……ニョロボン」
落ち込んで夢を諦めたかと思えば幼なじみを回想し、かと思えばいきなり自分の名前を呼んで、ダイスケの気の変わる早さに、ニョロボンは彼がこういう人間だと分かってはいたが、少し戸惑っている。
「最強トレーナーは無理かもしれないし、負けんのは怖い……。けどやっぱ、せめて1回はあいつに勝ちたいよな」
ニョロボンではなくどこか遠い場所を見て言うダイスケ。彼は自分の実力に限界を感じ、先を行く幼なじみに、自分との差を認めていた。
だがそれでも、せめて昔から一緒だった彼に追いつきたい、彼に一度だけでも勝ちたい、という想いはあった。
しかし、ニョロボンはそれだけでは納得していないみたいだ。
「……はは、夢をあきらめるな、って言いたいんだろ、分かってる。おれだって、最強のトレーナーになれたらいいな、とは思う。けど……おれは、アキトみたいに強くはねえんだ」
彼の言葉に、ニョロボンはもうなにも言えなかった。
「さあ、戻るぞニョロボン。アキトにあやまんねえと。……戻れ、ニョロボン」
ニョロボンは何か言おうとしていたが、ダイスケは構わずボールに戻し、ポケモンセンターへと向かった。