02
「今度こそ……! 今度こそ勝つぞ、アキト!」
「……ああ。今回も負けないぜ、ダイスケ! 行け! サンダース!」
やはりどこかおかしい。まるでリョウジに対する自分のようだ。が、今はバトルに集中しなければ。アキトは雑念を払い、勢い良くモンスターボールを投げた。
「出番だ、ベロベルト!」
2匹のポケモンが姿を現す。2人はこのタイコウシティのバトルが出来るほどの広さの場所で、向かい合っている。
「……ダイスケ?」
カナエも、なんだかいつもバトルする時とは、少し様子が違うような……、と、少し違和感を感じたようだ。
「……まあきっと、気のせいだよね」
だが彼女も先ほどのアキト同様、気のせいと思うことにした。
「サンダース、10まんボルト!」
「たたきつけるだ!」
サンダースは強力な電気を放つが、ベロベルトは痛みをこらえて接近し、長いベロを武器のように振り下ろした。
「かわして10まんボルトだ!」
アキトが言ったのとほぼ同時にサンダースの体が動く。
高くジャンプして、再び電気を放った。
「たたきつける!」
これなら舌は届かないだろう、とたかをくくっていたサンダースだが、ベロベルトの舌はよく伸びる。サンダースの胴に、舌が勢い良く叩きつけられた。
「もう一発!」
そして地面に叩きつけられたところへ、再び舌が叩きつけられる。
「サンダース!?」
かなりのダメージを受けて片膝をついたサンダースだが、なんとか歯を食いしばって立ち上がった。
「よし、決めろ! 10まんボルトだ!」
「ベロベルト!」
サンダースがその場で放った電気は、ベロベルトに直撃した。蓄積したダメージに耐えきれず、ベロベルトは倒れた。
「まじかよ……! ……戻れ、ベロベルト! 出番だ、ナッシー!」
彼が次に出したのは、ナッシー。先ほど進化させたポケモンの1匹だ。ヤシの木のような見た目をしている、くさタイプとエスパータイプをあわせ持ったポケモンである。
「へへ、ダイスケ! サンダースはナッシーの弱点をつける技を2つも覚えてるんだぜ? 行け、シャドーボール!」
「うるせえ! エナジーボールでむかえうて!」
「サンダース!」
ナッシーが自然のエネルギーを集めて放った緑色の球にサンダースの放った黒い球は押しきられ、直撃してしまう。
すでにギリギリだったサンダースはそれに耐えれるはずがなく、倒れてしまった。「ありがとなサンダース、ゆっくり休んでくれ。へへ、なかなかやるな、ダイスケ!」
「いいから早く次を出せよ!」
「あ、悪い……。……。行け! カビゴン!」
サンダースを戻しながら話しかけると、怒鳴られた。いつもなら調子に乗ったような言葉を返されるはずだ、と戸惑い、だが急かされたため考えるのはやめて、カビゴンを出した。
「よし、行くぜカビゴン! ほのおのパンチ!」
「ウッドハンマーだ!」
拳に炎を纏わせて殴りつけるカビゴン、対してナッシーは硬い胴体を叩きつけてきた。力負けしたカビゴンは、それを食らってしまう。
だがカビゴンはもう一方の拳にも炎を纏わせ、思いきり殴って反撃した。
ナッシーは先ほどのウッドハンマーの反動とともにそれを食らった。
「ちっ、もう一回ウッドハンマー!」
「受けとめろ!」
再び向かってくるナッシーの攻撃を、カビゴンは両手で防ぐ。
「かみくだく!」
そしてナッシーの体を抑えて思いきりかじりついた。カビゴンからの攻撃はどちらも効果が抜群。攻撃の反動もあり、ナッシーは倒れた。
「あー、くそ! 戻れ、ナッシー!」
「ダイスケ!」
「なんだよ!」
苛立った様子でポケモンを戻す彼に、アキトは厳しい声を浴びせた。ダイスケは、やはり激しい口調で返事をする。
「……ダイスケ。その……。少し、落ち着けよ。そんな風に言いながらポケモンを戻したら、自分に言ってるんじゃないかって勘違いしちゃうかもだろ?」
「……分かってる。出番だ、ニョロボン!」
彼の勢いに少し萎縮してしまったが、彼も自覚があったらしく語気を弱めた。
「カビゴン、のしかかりだ!」
「ばくれつパンチ!」
気を取り直して指示を出す。カビゴンが体全体でのしかかりニョロボンを下敷きにするが、ニョロボンも負けじとつぶされたまま腹に渾身のパンチを食らわせる。
「げっ、まずい!? か、カビゴン!」
さすがはかくとうタイプ、一瞬だがカビゴンの重い体が持ち上がった。しかもばくれつパンチはかくとうタイプのわざ。ノーマルタイプのカビゴンには効果が抜群で、さらに当たれば必ず相手を混乱させる効果がある。アキトは思わずぎょっとしてしまう。
「もう一発だ!」
「カビゴン!? ……ありがとう、カビゴン。ゆっくり休めよ」
カビゴンはなんとか耐えたが、すぐさま2発目を食らってしまい、さすがに耐えれず倒れてしまった。
「……よし、行け! ウインディ!」
お互い残りは1匹だ。アキトは汗をリストバンドで拭ってからボールを軽く上に放り、キャッチして勢いよく投げた。
「やっぱウインディか。来いよ! 絶対勝つ!」
「ああ、行くぜ! しんそく!」
ウインディが進化して新しく覚えた技、しんそく。ウインディは目にも留まらぬほどの速さで突進をした。ニョロボンは避けようと跳んだが、ウインディも跳んで攻撃を食らわせた。
「なっ……! はええ!」
「アイアンテール!」
ダイスケがしんそくの予想外の速さに驚いている間にも指示を出す。
ウインディはジャンプして硬いしっぽを振り下ろす。
「ハイドロポンプ!」
だがウインディは、その技が当たる前に、ニョロボンが激しい勢いで放った大量の水に飲まれてしまう。
「ウインディ、大丈夫か!?」
さすが進化しただけあり、威力もニョロゾのころより上がっている。空中に居たため高く上げられたウインディにアキトが焦りながら必死に声をかけると、辛そうにしながらも歯を食いしばり、なんとか着地した。
「1発じゃ倒せねえか……。ならメガトンキックだ!」
「かわしてかえんほうしゃ!」
追撃に来たニョロボンの攻撃をかわしたウインディは、激しい炎を浴びせる。
「よし、決めるぜ! フレアドライブ!」
さらに続けて炎の鎧を纏って思いきり突進を食らわせた。
後方に飛ばされたニョロボンは、そのまま倒れた。
「……戻れ、ニョロボン。……。……くそ! くそ……! なんでだよ……!」
「ダイスケ……? あ、おい!」
「うるせえ、ついてくんな!」
ニョロボンをボールに戻したダイスケは、それを握りしめて震えていたが、アキトが声をかけたところで走り出してしまった。ダイスケは彼が追ってこようとしたのが分かり怒鳴りつけて、そのまま去ってしまった。
「……ねえ、アキト。どうしよう……?」
「……」
カナエが不安げに駆け寄ってきて、顔を覗き込んでくる。だが、アキトはなにも返せずそのまま立ちつくしている。
彼もどうしたらいいのか分からないらしい。
「……負けて悔しかったのかな。……ねえ、アキト、ポケモンセンターに行こうよ」
「……けど、オレ……」
「きっと今は機嫌が悪いだけ、そのうち帰ってくるよ。それより、戦ったポケモンを回復させなくちゃ。ポケモントレーナーの義務だよ。ほら、行くよ!」アキトは自分のせいだと気に病むだろう。確かにそうかもしれないが、だとしてもこれは真剣勝負をした結果だ。彼はなにも悪くない。それに、このままここにいてもしかたがない。ダイスケを探すのも大事だが、バトルで疲れたポケモンの回復も大切だ。
そう思ったカナエは、彼に励ましの言葉をかけて、ぐずっている彼の腕を掴んで引っ張った。
「……ああ。……分かった」
自分が彼になにかしたのか、考えて思いつくのはバトルに勝ったことくらいだ。彼に会ったらなにを言えばいいのか……。なにも浮かばないが、確かにポケモンの回復はしなければいけない。そう思って、気が晴れないまま彼女に腕を引かれてついて行った。