01
「行くぜカナエ! ルールは3対3、特訓とはいえ手は抜かないぜ!」
「もちろん! わたしもアキトより弱いけど、真面目にやるよ!」
「よし、行け! ブイゼル!」
「行って、デンリュウ!」
広い場所に移動した2人は、適当な距離で向かい合いポケモンを出した。
レベル差があるとはいえ、未進化のブイゼルと最終進化のデンリュウでは分が悪いか。
「よし、ブイゼル! アクアジェット!」
「デンリュウ、でんきショック!」
ブイゼルは水を纏いかなりの速さで突進し、デンリュウの放った電気を避けつつ技を決める。
「かみなりパンチ!」
「かわしてアクアテールだ!」
デンリュウが続けて放った技もブイゼルにはジャンプでたやすく避けられ、さらに水流を纏ったしっぽを叩きつけられた。
「も、もう1回かみなりパンチ!」
「しまった、大丈夫かブイゼル!」
カナエは慌てながらも指示を飛ばし、なんとかデンリュウは攻撃を当てることに成功する。効果は抜群、ブイゼルは後方に飛ばされてしまう。
「やった!」
「ブイゼル、接近しろ!」
だがブイゼルは受け身を取り、すぐさまデンリュウに向かう。
「え、ウソ!? 効果は抜群なのに!」
「カナエ、指示!」
向かってくるブイゼルに対しなんの指示も出さないカナエをデンリュウは困惑した表情で振り返り、見かねたアキトが注意した。
「あっ……! かみなりパンチ!」
「アクアテール!」
彼女はハッとしたように指示を出し、アキトもすぐにそれをする。
デンリュウの振るう拳を跳んでかわしたブイゼルは、そのまま水平にしっぽを叩きつけ、デンリュウは倒れる。が、直後ブイゼルの体に電気が走り、かなりのダメージを食らいながらもやる気のある顔が、つらそうなものへと変わった。
「しまった、せいでんきか……!」
これはデンリュウの最後っぺなのだろうか。どうやら相手から触れられた時、その相手が麻痺することがある特性、せいでんきが発動したらしい。
「……ごめんなさい、ありがとう、デンリュウ。ゆっくり休んでね」
だがカナエはそのことに気付いていないらしく、デンリュウをボールに戻し、それをベルトにセットして別のボールを出した。と、同時に、麻痺していたブイゼルの体が突如光を放つ。
「ブイゼル、進化か!」
その光はじょじょに形を変えながら大きさを増し、ある程度に達するとそれは収まった。
が、やはり光が晴れても、ややつらそうな顔なのは変わっていない。
「よし、やったなブイゼル! ……いや、フローゼル!」
アキトの声に、フローゼルはガッツポーズで返した。麻痺がつらいのは変わらないが。
「フローゼル。うみイタチポケモン。
漁師町に多く見られ、溺れた人を助けたり、取った獲物を運んでいる」
図鑑を取り出し説明を聞いたアキトは、すぐにポケットに戻した。
「行って、キルリア!」
カナエが2匹目のポケモンを出す。
「キルリア、マジカルリーフ!」
「フローゼル、れいとうビームで迎え撃て!」
キルリアの放った葉っぱに対し、フローゼルは冷気の光線を放とうとする。……が、フローゼルの体が痺れ、その動きが止まってしまう。
そうしている間に葉っぱはフローゼルを切り裂き、効果は抜群、フローゼルは倒れてしまった。
「ありがとな、フローゼル。ゆっくり休めよ。よし、行け! カビゴン!」
「き、キルリア!?」
アキトがフローゼルを戻しカビゴンを出した直後に、キルリアも光を放つ。
どうやらキルリアも進化するらしい。
2人が見守る中光は形を変えていき、それが収まると見違えた姿が現れた。
「わあ、やったね! えっと……」
「サーナイト。ほうようポケモン。
サイコパワーで体を支えているため重力を感じていないらしい。トレーナーを守るために命を懸ける」
「へへ、まさに主君を守る騎士だな」
「ふふ、かっこいいね、サーナイト」
カナエの言葉に、サーナイトは少しうつむき照れたような仕草を見せた。
「さて、バトルに戻るぜ! カビゴン、ほのおのパンチ!」
「サーナイト、よけて!」
どすんどすんと大きな足音で接近してくるカビゴン。
サーナイトはその拳が振り下ろされるのを見て、慌てて横にかわした。
「もう一度だ!」
「サーナイト!」
カナエの心配とは裏腹に、サーナイトはそれも下がってかわす。
「すごいよサーナイト! ねんりき!」
「のしかかりだ!」
サーナイトに弱い念力を送られてやや顔をしかめるカビゴンだが、構わずそのままのしかかる。
「う……。こんな時はどうすれば……」
「カビゴン、もう一度のしかかりだ!」
彼女が考えている間にも、アキトは指示を出す。
カビゴンは一度体を持ち上げて、再度全体重をぶつけた。
「さ、サーナイト!?」
さすがに2回は堪えたようだ。カビゴンが体をどかすと、サーナイトは目を渦巻きにして倒れていた。
「うう……。ありがとう、ゆっくり休んでね、サーナイト。
行って、クサイハナ!」
「うっ……。慣れたけど、相変わらず強烈な匂い……」
彼女はサーナイトを戻し、クサイハナを出す。
その匂いはやはり強烈で、何度も嗅いで少しは慣れていたカナエとアキトも、カビゴンですら顔をしかめている。
「戻れ、カビゴン! 行け! ガーディ!」
とにかくタイプ相性は普通だがカビゴンを戻し、有利なガーディのボールを軽く上に放り、キャッチして投げた。
ガーディが姿を現す、と同時に苦しそうな声を出す。
やはり匂いがきついらしい。
「がんばってくれ、ガーディ! かえんほうしゃ!」
「クサイハナ、よけて!」
クサイハナは弱点ということもあり慌てて走る。
だがガーディは薙ぐように炎を放ち、クサイハナはそれをまともに食らってしまう。効果は抜群、クサイハナは一撃で倒れた。
「クサイハナ!」
「うーん、少し手を抜いた方が良かったかな……」
カナエは慌ててクサイハナに駆け寄って抱き起こし、アキトは少し申し訳なさそうに頭をかくが、ガーディがどう、すごいでしょ! と言った感じで得意げに駆け寄ってきたので、かがんでえらいぞー、などと褒めながら頭を撫でる。
「よし、カナエ!」
「はい、師匠!」
頭をぐりぐりと押し付けて甘えてくるガーディをひとしきり撫で、アキトは立ち上がり彼女に声をかけた。
彼女は、クサイハナを撫でながらそれに快い返事をする。
……師匠か、いいな。
「まずはポケモンセンターに戻って回復と、ダイスケがいるかどうかの確認をしよう、弟子よ」
「そうですね、師匠! 早く行きましょう!」
「うわわ! ひっぱるなあ!」
クサイハナをボールに戻すとカナエはすぐに立ち上がり、アキトの腕を掴んで走り出した。