03
……そして、冒頭に至る。
「ズバット、ちょうおんぱ!」
リョウジの指示を受けたズバットが、アキト達には聞こえない特殊な怪音波を発した、その場で唯一聞き取れたポッポが、混乱状態になってしまった。
「しまった!?」
「ブレイブバード!」
アキトが戸惑っているが、彼は構わず指示を出す。
ズバットは翼を折りたたみ、ポッポに向かって突撃をする。
「ポッポ、でんこうせっか!」
先に攻撃を食らわそうとしたアキトだが、ポッポは混乱しているせいで地面に向かって突撃してしまい、さらにズバットの攻撃まで食らってしまう。
「ポ、ポッポ!?」
ズバットは攻撃の反動を受けたが、ポッポのダメージはそれよりも大きい。
「くっ……! 頼む、ブレイブバード!」
「でんこうせっか!」
今度こそ、と彼がポッポを信じて指示を出したが、リョウジがそれに被せるように指示を出す。
今度はズバットが目にも留まらぬ速さで突っ込み、それを食らったポッポは力無く地に落ちた。
戦闘不能だ。
「……ごめんな、ポッポ。ゆっくり休んでくれ。行け、サンダース!」
彼はポッポを戻して、二匹目のサンダースを繰り出す。
が、出てきたサンダースは思いきりあくびをしている最中であり、油断しきった姿を皆に見せてしまった。
そしてあくびが終わり不満あり気な顔で自身のトレーナーの顔を見る。
それもそうだ。相手が普通のトレーナーなのに、バトルに出されたのだから。
「ご、ごめんサンダース。けど、頼むよ!」
「アキト……」
アキトが情けない顔で両手を合わせ頼むと、サンダースはやれやれ、といった表情で構えるが、ダイスケは呆れ顔になって彼を見ている。
「ズバット、戻れ。出て来いイシツブテ!」
そしてリョウジもポケモンを戻し、二匹目を繰り出した。
「サンダース、シャドーボール!」
「受け止めろ!」
サンダースがイシツブテに向け影の球を放つが、イシツブテは両腕を交差させその球を防御する。
「じしん!」
「かわしてシャドーボール!」
反撃に出たイシツブテが両腕で思い切り地面を叩くと、周囲に衝撃波が広がった。
だがサンダースはそれを跳んでかわし、空中から放った影の球を今度こそ浴びせた。
「空中では身動きが取れない、いわなだれだ!」
しかしイシツブテはすぐに持ち直し、大きな岩を何発も投げつける。
「サンダース!?」
避けられない。サンダースは、なすすべなく食らってしまった。
「じしん!」
さらに、その攻撃で体勢を崩したサンダースが落下した瞬間に再び衝撃を起こし、避ける間もなく直撃してしまう。効果は抜群、サンダースはその一撃で倒れた。
「……ありがとうサンダース、ゆっくり休んでくれ」
……オレのポケモンは、あと1匹だ。けど、オレはこいつを信じてる!
「どうする? もう勝敗は見えているが、まだ続けるか?」
「当たり前だ! オレは最後まであきらめない、絶対に勝つ! 行け! ガーディ!」
彼がサンダースをねぎらいボールに戻した直後、リョウジが馬鹿にしたような口調で尋ねてきた。だが、アキトはそう返して3匹目、ガーディのボールを軽く上に放り、キャッチして勢い良く投げた。
「……諦めの悪いやつだ。イシツブテ、いわなだれ!」
リョウジは少しの間を置いて言うと、すぐに指示を出した。
「ガーディ、アイアンテールだ!」
アキトも負けじと指示を出す。
イシツブテが大きな岩を何発も投げつけるが、ガーディはそれらを避けて接近し、イシツブテに硬いしっぽを叩きつける。効果は抜群、先ほどのダメージもあり、イシツブテは後方に飛ばされて倒れた。
「よし!」
「戻れイシツブテ。出て来いズバット!」
彼はイシツブテを戻し、最初に出したポケモン、ズバットを繰り出す。
「ズバット、ブレイブバード!」
「ガーディ、かわしてひのこだ!」
ズバットが翼を折りたたみ突進するが、ガーディはジャンプでそれをかわし空中から小さな炎を背中に浴びせる。
「続けてかえんぐるま!」
更に体勢を崩したところに炎を纏い突進する。
「でんこうせっか!」
だが、ズバットは技の速さを利用して攻撃を逃れた。
「ヘドロばくだん!」
そして距離を取り、口からヘドロの塊を放つ。
「跳んでかわせ!」
「ブレイブバード!」
ガーディはそれを跳んで回避するが、ズバットは再び翼を折りたたみ突進する。
……へへ、だと思ったよ!
「リョウジ、こいつは空中でも使える技があるんだぜ! ガーディ、アイアンテール!」
ガーディに突進が当たる寸前に、ズバットの背中に硬いしっぽが叩きつけられる。ズバットも、その攻撃を食らって倒れた。
「チッ、戻れズバット」
彼は2体をダメージを与えられずに立て続けに倒されたからか、ズバットのモンスターボールを見ながら舌打ちをした。
「どうだリョウジ! これでお互い残り1匹、勝負はまだ分からないぜ!」
「言ったはずだ、勝敗は見えているとな。出て来いエレキッド!」
どうにか無傷で2匹を倒したが、彼は焦りを見せずに3匹目、前回アキト達が歯が立たなかった相手、エレキッドを繰り出した。
「エレキッド……! ガーディ、アイアンテールだ!」
「受け止めろ!」
ガーディが接近し軽くジャンプして水平に硬いしっぽを振るうが、エレキッドは左腕でそれを防御した。
「かみなりパンチ!」
そしてもう一方の腕に電気を纏わせ、ニヤッと笑いその拳を叩きつける。
「くっ、ひのこ!」
「横に避けてクロスチョップ!」
ガーディが攻撃を食らい後方に飛ばされながらも小さな炎を撃つが、エレキッドはかわして両腕を振り下ろした。
「ガーディ、かわして思い切りジャンプだ!」
だが体勢を立て直したガーディは間一髪後ろに下がってそれを避け、高く跳躍する。
「行け! かえんぐるま!」
「受け止めろ!」
ガーディは空中で炎を纏い、技に落下の勢いをつけエレキッドに突進する。
エレキッドは両腕を交差させ防御しようとしたが、受けきれずに食らって体勢を崩してしまう。
「よし、かみつく!」
ガーディはその隙を逃さず、思い切りエレキッドの腕に噛みついた。
「上に放り投げろ! 空中じゃあ避けられないぜ、ひのこ!」
「避ける必要は無い、でんこうせっか!」
そしてガーディはエレキッドを上に投げ小さな炎を撃とうとするが、エレキッドは落下の勢いをつけて素早い攻撃を決め、ガーディは体勢を崩してしまう。
「くそ! あいつ、やり返しやがったな……!」
ダイスケはそれを先ほどのガーディの攻撃と重ね、悔しそうに言った。
お互いにやり返したが、どうやら彼の方が一枚上手だったようだ。
「終わらせろエレキッド、かみなりパンチ!」
「ガーディ! かわせぇ!」
だが体勢を立て直す間もなく、先ほどのそれより激しく電気を纏った拳を叩き込む。
「ガーディ!?」
「……フン」
ボロボロになりながらも、ガーディは歯を食いしばって痛みをこらえ、なんとか立ち上がった。……だが、体力が尽きたらしく、すぐに倒れてしまった。
「ガーディ……」
アキトが呼びかけてもピクリとも動かない。誰がどうみても、戦闘不能だ。
「戻れ、エレキッド」
「……ありがとう、よくがんばったな、ガーディ。ゆっくり休んでくれ」
ガーディに駆け寄りしゃがんで抱き上げると、もうしわけなさそうに見上げてきた。アキトは優しく微笑みながら頭をなで、モンスターボールに戻した。
「アキト、負けちゃった……」
ガーディを戻したアキトは立ち上がったが、うつむいている。
「やっぱり、強い……!」
オレだって、強くなったのに……!
「バッジを手に入れたとはいっても、やはりこの程度か」
「っ……!」
うつむき拳を握りしめる彼に、リョウジの言葉が突き刺さる。なにも、言い返せない。
「……アキトは、違う」
「……カナエ?」
幼なじみを見る。彼女は、怒りを抑えながら続けた。
「アキトは、あなたと違って負けた相手をバカにしたり、負けたポケモンに舌打ちしたりしない。だから、今はまだ無理でも、いつか絶対あなたに勝つよ!」
「そうだ、お前みてえな嫌味野郎なんかにゃ負けっぱなしじゃねーよ、こいつは!」
「カナエ、ダイスケ……」
2人が、オレのかわりにリョウジに言ってくれている。
「フン、ずいぶん仲のいいことだ」
アキトを見ていられなかった2人はリョウジに食ってかかるが、彼はそれを鼻で笑い、3人に背を向けた。
「……リョウジ。次は勝つからな!」
「ああ、せいぜい頑張るんだな」
2人が言ってくれたんだ、オレもなにか言わないと! アキトが彼の背に叫ぶが、リョウジは振り向きもせずに嫌みを返して、立ち去ってしまった。
「リョウジ……! くそ、絶対あいつに勝ってやる!」
「アキト……」
残されたアキトは、悔しさで肩を震わせている。
幼なじみの2人は、今まで見たことのない彼の姿に、なにも言葉が出なかった。