十九話
夜のサンヨウシティは妙に怪しげだった。少なくともカノコタウンよりは恐ろしい。
「裏道とかなんかいそうだ……ね」
街灯に照らされる道を歩きすすめるミコト、そしてその腕にぴったりとくっついているヴァイン。
「タジャ〜……」
「もしかして、暗いの怖い?」
ヴァインは頷いた。
「そうか。じゃあモンスターボールに入っててもらっても――」
ミコトがそう言いかけると、ヴァインは更に強い力で腕にしがみついた。嫌でも離れるつもりはないようだ。
「だったらいいよ」
歩き続ける。
『夢の跡地』に入った。街灯などもちろんない。一層暗くなる、はずだが、そうではなかった。奥の方から漏れる光によって、辺り一帯が照らされていた。
――何かがおかしい。ミコトもヴァインも気がついていた。だが、なぜすぐ近くのサンヨウシティに住む住民が気づかないのか。それとも、気づいていて放っているのか。どちらにせよ普通でないことは間違いなく、二人は無視することなどできなかった。
そしてこの人物にとっても、それは同じ。
「……あの、なにをしているんですか?」
ミコトはおずおずと女性に話しかける。女性は、『夢の跡地』周辺の草花を集めては試験管に入れている。傍から見れば変人だ。しかし身なりはきちんとしている。手入れが行き届いた紺色のロングヘアーは、髪留めでまとめられているわけでもないのにきちんとまとまっていた。白衣を着ているため、科学者だろうということがわかる。
「……あっ、ごめんなさい! 邪魔だったかしら?」
「い、いえ別に。邪魔というわけでは」
「そう? ならいいわ。で、何?」
「いやだから、何をやってるんですか?」
女性は、ミコトがそう尋ねたことに気づくと、すくっと立ち上がり、白衣についた砂を叩き落し、かけているメガネを指でくいっと上げた。
「もちろん、データの採集よ!」
と言って苦笑する女性。
「……って言うと自分の欲しか考えてないように聞こえるけどね。『夢の跡地』の異常事態。何が起きているか調べているに決まってるじゃない」
その言葉にミコトの表情が堅くなる。
「やっぱり異常なんですか、これは」
「ええ。ワタシの知る限りでは、こんなこと初めてね」
手元のバインダーを確認しながら、女性は言った。
「……そうだ、自己紹介が遅れたわね。私はマコモ、研究者よ。よろしくね」
「あ、僕は――」
ミコトも名乗ろうとしたそのとき、
むううん 悲しげな声が、奥の方から聞こえてきた。
「この声は……!」
「知ってるんですか!?」
マコモは頷いた。
「ムンナというポケモンの鳴き声よ! 何かあったのかしら?」
その言葉に、ミコトはいてもたってもいられなくなった。
「間違いなく問題があったんだ! 行きましょう!」
「ええ!」
マコモとともに、奥の方へ走っていった。