十八話
昼過ぎ。ミコトとヴァインは、サンヨウシティに辿りついた。
「結構長かったね〜」
「タジャ〜」
「とりあえず、ポケモンセンターに行こうか」
これまでかなり戦ってきたツタージャのHPはかなり減っている。体力の回復が先だろう。
「タジャ」
というわけで、まずはポケモンセンターに行くことにした。
三十分後。
「ツタージャは、すっかり元気になりましたよ!」
回復が終わった。ヴァインはモンスターボールの中にいる。
「ありがとうございます」
ボールを受け取ると、早速出した。元気に出てくるヴァイン。ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ちょっと無理し過ぎかもしれないですね。結構戦ってきたでしょう?」
「ええ、まあ」
「だったら、今日一日は戦わないようにしてください」
――できないんだったらしてます。そう反論したかったが、する気にもならなかった。
「……はい、わかりました」
ミコトは仕方なく頷いた。
* * *
ポケモンセンターの一室を借り、そのベッドになだれ込むミコト。
今日、特に何かをした覚えはないのだが、
「疲れた……」
ミコトは何故か、疲れを感じていた。目を閉じてしまえば夢の中に潜り込んでしまいそうだ。
「タジャ?」
ヴァインは戦ってきたはずだが、まったく疲れを見せない。部屋に来るまでにもぴょこぴょこ跳ねていた。
「その元気が羨ましいよ……」
ついにミコトが枕に顔を埋める。重たい瞼は徐々に降りていった。
「おやすみ……」
* * *
着替えもしないまま眠ってしまったミコト。それに寄り添うように、ヴァインは眠っている。
午後九時頃。唐突に、ミコトは起き上がった。
「…………タジャ?」
もちろんヴァインも気付く。ゆっくりとミコトの瞳が、ヴァインを捉えた。それはまるで機械のような目だった。
「タジャ!?」
「ああ、驚かせてごめん」
――これは別モノだ、ミコトではない。ヴァインは直感的に悟った。
「タジャタジャ、タージャ!?」
ミコトに対し、お前は誰だと、ベッドから飛び降りてヴァインは尋ねる。
「……?」
ミコトは首を傾げるばかり。ポケモンの声が聞けるようになったわけではないらしい。ベッドから降りるミコト。
「タジャっ……」
もう一度問いかけようとしながら後ずさりするヴァインにミコトは腕を伸ばし、優しく掴んだ。
「怖がらせたんだったらごめん」
同じ声、同じ口調、同じ表情。それはヴァインを安心させる。だが異なる瞳、異なる気配。この二つが、ヴァインを不安に陥れていた。
「一言で言うなら、『似て非なり』……かな」
『似て非なり』。ちょっと見たかぎりでは似ているが、実際は全く違うということだ。
「とりあえず、そう怖がらないで」
手を離すミコト。
「この街に来てから、胸騒ぎが止まらないんだ」
そして立ち上がってその無機質な目で、窓の外を見た。静寂に包まれた夜のサンヨウ、その先にある『夢の跡地』。そちらをしっかりと見据えていた。
「今から行こうと思うけど……一緒に来る?」
服も鞄も昼間活動していたときと同じ状態だ。強いて言うならば多少のシワがついているくらいで、外に行こうと思うならばそのまま行ける格好をしていた。
ミコトではない別モノ。だが部屋にひとり残されるのも嫌だ。
「……タジャ」
ヴァインは頷いた。