十六話
朝は得意だ。体はだるいけど、寝不足ではない。
――朝は苦手だ。夜、ちゃんと寝れていないから。
昼は好きだ。明るくて元気になれる。
――昼は嫌いだ。明るくて動きづらい。
夜は嫌いだ。真っ暗だから、何も見えない。
――夜は好きだ。真っ暗だから、何も見えない。
失敗作から生まれた、
正反対の人格。
彼がそれに気づくのは、いつになるだろうか。
* * *
翌朝の六時半、ミコトは目を覚ました。
「ふぁぁ〜あ……おはようヴァイン」
「タージャ」
すでにヴァインは起き上がって体操をしていた。
「やっぱり体がだるいや……なんでだろ」
数年前からずっとそうだった。朝はきちんと起きられても、体が休まっていないのだ。
「……ま、いっか」
いつもこんな感じで流している。原因はわかっていない。
「ヴァイン、ラジオ体操?」
「タジャっ」
ヴァインは頷く。彼にとっては、アララギ、ポカブ、ミジュマル、チラーミィとラジオ体操をするのが、毎朝の日課となっていた。だから確実に、六時には起きているのだ。
「じゃあ、明日からは起こしてくれない? 一緒にやろうよ」
ミコトにはそんな日課がなく、毎日六時半に起きて、顔を洗っていただった。
ヴァインは頷いた。
「さーてとっ」
朝八時。着替えや朝食を済ませ、彼らはポケモンセンターをあとにした。
「とりあえず、サンヨウシティに行ってみる? 新しい発見があるかも」
ヴァインは目を輝かせた。『新しい発見』という言葉が魅力的だったのだろう。
「よし、決まりだね」
「タジャタージャ!」
すぐに走り出すヴァイン。
「あっ、ちょっと待ってよ!?」
ミコトは、急いでそのあとを追った。
ミコトとヴァインは二番道路に出た。段差や曲がり道など、一番道路に比べたら入り組んだつくりになっている。
「草むらを歩くときは気を付けなきゃね」
「タジャ」
ヴァインは頷いた。草むらにいる野生ポケモンを驚かさないように、ゆっくり進んでいく。走ると野生ポケモンたちが驚いて襲ってくることがあるからだ。
草と草のあいだからチョロネコが見える。ふとNを思い出した。彼もチョロネコを連れていた。そしてNは、チャンピオンを超えると言っていた。
「チャンピオンを超える、か」
――違う。ボクはチャンピオンになりたいんじゃない。チャンピオンを超えたい。 チャンピオンになるのとチャンピオンを超えるのは、全然違うことらしい。チャンピオンに勝てばチャンピオンより強い――つまり、超えられる。チャンピオンに勝てば、チャンピオンになれる。ミコトもスバルと同じで、チャンピオンを超える=チャンピオンになる、と考えているのだ。だからNの考えは、よくわからない。
「タジャ?」
ヴァインがズボンの裾を引っ張ってきた。
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてて」
「タジャタージャ」
ミコトはNやトウヤと違って、ポケモンの言葉がわからない。だが、そんなんじゃだめだと、喝を入れようとしているのかもしれない。
「……ありがとう、ヴァイン」
「?」
ヴァインは首をかしげる。
「いや、なんでもないよ。……行こうか!」
「タジャッ!」
彼らの旅は、まだまだ始まったばかりだ。