七話
「はぁあ……」
肩を落としながらミコトは家を出る。
それと同時に、マメパトが一斉に飛んでいった。
「なんでこんなことに……」
そもそもベルが言い出すからじゃ、とブツブツ愚痴を言う。
『タジャっ』
それを彼の足元で聞いていたヴァイン。嫌になったのか、少しとんで膝の裏に軽く頭突きをする。つまりは小柄なポケモンなりの膝かっくんである。
「うわあっ?!」
ミコトはバランスを崩してしまい、どてんと尻餅をついた。
「と、突然何するのさ?!」
『タージャ』
ぷいっとそっぽを向く。ポケモンの言葉がわからないミコトは首をかしげるばかりである。
とそこに、
「ん? あれ、ミコト?」
ミコトの知り合いであろう人物が近づいてきた。少し金色が混じっているような翡翠に近い緑髪で、大人っぽい青年であった。
「旅に出るって言ってなかったか?」
ほら、と言ってミコトに手をさしのべる。
「あ、ありがとうトウヤ」
トウヤと呼んだ青年の手を取って立ち上がる。
この青年・トウヤは、ミコトの
義弟である。明らかにミコトよりも年上に見えるが、戸籍上では弟だ(というかトウヤ自身が自分の年を知らない)。
ちなみに
義兄であるはずのミコトを呼び捨てにするのは癖で、どう気を付けても呼び捨てになってしまうのである。
「何でこんなとこで尻餅なんか――って、ポケモンか?」
ヴァインの存在に気付いたトウヤが屈む。
「なあなあ。何でミコトはこんなところで尻餅ついてたんだ?」
『タジャタジャ、タジャタージャっ! タジャ、タジャタジャ?』
「そっか。確かにそれは嫌になるよな〜」
『…………タジャ?』
「え? ああ、わかるぜ。生まれつきなんだけどさ」
『タジャ〜』
トウヤは人と変わっている。
苗字が carvonado になる前、戸籍がなく、それまではヤグルマの森で野生ポケモンたちとともに、野生ポケモンと変わらない生活をしていた。
外見も一般とは異なっている。髪色は珍しい緑。それも、翡翠にも近いような、金色が混じっているような感じの。
そして何よりも違うのは、ポケモンたちの声が聞ける事だ。彼には、トウヤには、ポケモンたちの言葉がわかる。ヴァインが首をかしげてトウヤに尋ねていたのはそのことである。
「ミコト」
「何?」
「膝かっくんは自業自得だぞ」
「え?」
「だって、真下で愚痴を聞くとか誰だって嫌じゃねえか。な?」
『タジャ』
「う……そりゃまあ、そうだけど……」
図星をつかれて気まずそうな顔をするミコト。
「だから自業自得」
『タジャ、タジャ』
腕を組み、うんうんと頷くヴァイン。
「反省してるか?」
『タジャタージャ?』
「はい……反省してます」
いつの間にかミコトは正座状態だ。これはミコトの癖で、叱られ始めると無意識で正座になってしまうのである。
「ならいいや。ほんじゃミコトと名前知らないポケモンよぉ」
「ん?」
『タジャ?』
家の取っ手に手をかけ、これから旅に出る1人と1匹にトウヤはこう言った。
「
Best wish! 」
「……うん!」
『タジャ!』
応援に意気込んで、彼らはアララギポケモン研究所へと急いだ。