四話
『タージャっ♪』
「よく頑張ったね、ヴァイン! お疲れさま!」
ヴァインはバトルが終わるなり、ミコトに飛び付いた。
『ミジュミジュ……』
「お疲れさま。ミジュマルも頑張ったね。負けちゃったけど、いい経験になったと思うよ」
ベルは壁の側で伸びるミジュマルを抱えあげた。
「ミコト……あなた、凄いトレーナーになれるんじゃない?」
そして、素直な感想をミコトに告げた。
「えぇ? そんなことは……」
「ううん。なれるよ。私、そんな気がする」
にっこりとミコトに笑いかけるベル。その笑顔は、まるで天使のようだった。
「…………ねぇ、2人とも?」
ずっと黙っていたチェレンが口を開く。
「「何?」」
「周りをみれば?」
言われてみてハッとし、部屋を見回す。
ベッドはぐちゃぐちゃ、箱も潰されて、観葉植物のプランターは倒れている。オマケに、本棚の本が凄いことになっていた。……何故かWiiとパソコン、それからテレビは壊れていなかったが。
「うわあ! な、なにこれ!?」
「ここまで酷くなるなんて思ってなかった……」
ベルは普通に驚きの声を漏らすが、ミコトは膝を床について気を落としている。
「ポケモンってすごーい! こんなに小さいのに! 私、ポケモンに出会えてよかった!」
跳び跳ねて感激するベル。しかしミコトの様子を見て、
「……あっ、ミコト、ごめんね」
謝罪の言葉を付け足した。
「ううん、いいよ別に……拭き掃除と洗濯とちょっとした片付けをするだけだから……」
そういうミコトだが、膝は着いたままである。
「……まったく。しょうがないな、君は」
呆れつつ、ベルとミコトの間にチェレンが入る。
「ほら! 傷ついたポケモンの回復をしてあげるよ……」
そう言ってチェレンは、ミジュマルを回復させた。
『ミジュ!』
ミジュマルは復活した。
「ミコトのポケモンも元気にしてあげないと」
『タジャ?』
同じようにヴァインも回復させる。
それを見たベルは何かを思いついたように2人から遠ざかった。
「ねえねえ! チェレンもポケモン勝負してみたら?」
そして再び鬼の提案をする。
「ベル! 君は鬼なの!? いや、ボクにはもう鬼にしか見えないよ!」
「今度こそ大丈夫。チェレンは詳しいから、私のようにしっちゃかめっちゃかにすることなく上手に戦えるでしょ!」
「でも!」
勿論、チェレンも反対の筈。ミコトはそう願った。
しかし、
「勿論……! 僕の知識があればこれ以上部屋を汚すわけないし」
「え? チェレン、もしかして……」
「なにより、君たちだけでポケモン勝負を楽しむのはフェアじゃないよね」
「もしかしなくてもやる気満々!? ほんとにやめてよもう!」
ミコトは裏切られた気分になった。
「というわけで相手してもらうよ」
そう言ってチェレンはミコトから少し距離をとり、ポカブをモンスターボールから出す。
「さあ、僕たちの初めてのポケモン勝負。……僕が君の強さを引き出すからね、ポカブ!」
『カブゥ?』
「あぁもう……どうにでもなれ……!」
『タジャ……』
新人トレーナー・ミコト vs チェレン、開幕。