十話
「それじゃ、次のステップに進みましょうか。ポケモンと出会う方法を教えるから、1番道路に来てね!」
そういってアララギは、研究所から出て行った。
「……あっ、あたしたち……」
ぼーっと図鑑を眺めながら、ベルが口を開く。
「博士に頼まれたから、冒険してもいいんだよね?」
それはどこか不安で、しかしどこかワクワクしたような言い方だった。
「自分のやりたいことを探しても……いいんだよね?」
「ああ」
ベルの問いに、しっかりとポケモン図鑑を見据えているチェレンが答える。
「図鑑を完成させながらなら、好きなように旅すればいい」
「……うん!」
その答えを聞いて、ベルは顔を上げた。
「なんだかすっごくワクワクしてきた! ねえミコト、チェレン。二人は……パートナーのポケモンたちと、なにするの?」
「僕のことについては聞くまでもないだろ?」
「あはは、そうだね」
チェレンの目標。それは、
「ポケモンチャンピオンになるのが夢、だもんね!」
そう。ポケモントレーナーの頂点に立つ、ポケモンチャンピオンになることだ。
「二年前からの夢だったんだ。きっと……いや、僕は、絶対に……!」
二年前。カントー地方という、遠い異国の地で、ロケット団が悪事を働くという事件が起きた。にもかかわらず、無事にポケモンリーグ――ポケモントレーナーの頂点を決める試合は行われた。ロケット団騒動が解決したからだ。
ロケット団を壊滅へと導き、さらにその年のポケモンリーグで優勝した天才トレーナー、レッド。
そんなレッドを超えるほど強くなるのが、チェレンにとっての
理想なのだ。
「……ようやくポケモントレーナーになれたんだ。他のトレーナーとの実戦を重ねて、強くなるよ」
改めてここに誓を立てるチェレン。
「…………ポケモンチャンピオン、かあ」
ミコトは上の空で、つぶやいた。
「どしたの、ミコト」
「ううん、なんでもないよ」
ベルに指摘されハッとし、意識を元に戻す。
「ね。ミコトは? ミコトは何か、目標あるの?」
「そうだなあ……」
ミコトは少し考え、こう答えた。
「ない、かな。今のところは。でも、図鑑を埋めながら探すのも悪くないよね」
「いいと思うよ」
「だよね」
どこか気が合う二人だ。
「あたしもそうしよっかなー……。ミコトと同じで、チェレンみたいに目標があるわけじゃないから……」
頭の後ろで手を組むベル。
「絶対、って羨ましいなぁ」
「そうかい?」
「うん」
「ま、いいんじゃない? 価値観は人それぞれだっていうし。じゃ、ボク先に行ってるよ?」
「あっ! ミコト待ってよお!」
* * *
「あっ、やっぱりまだいたのね!」
研究所を出ると、そこには。
「お、オカアサマ……」
ミコトの母がいた。
「博士の話はどうだったの?」
チェレンが説明をする。
「――ポケモン図鑑の完成をお願いされたんだ!? すごーい!!」
歓喜する彼女に疑問を抱いたミコトは、小さな声でチェレンに尋ねた。
(ポケモン図鑑完成の依頼って、そんなにすごいことなの?)
(ミコト、感覚鈍ってるんじゃない……?)
(失礼な)
「……なーんてね」
突然ケロッとした顔になるミコト母。
「じつはママ、その話はすでに知っているんだけどね」
そう言ってあらかじめ肩にかけていたカバンから、何かを取り出した。同じものが三つだ。
「というわけで。あなたたち、このタウンマップを持って行きなさいな」
ミコトは最新式のタウンマップを手に入れた。
「はい、チェレン。そしてベルも」
「大切に使います」
「あ、ありがとうございます!」
チェレンとベルも、しっかり受け取った。
「それから。ミコトの部屋はあたしが片付けておくから、チェレンとベルは気にしなくていいのよ。……ねっ、ミコト?」
「………………はい…………」
ミコトは必死に涙をこらえる。
「それにしてもポケモンって、本当にすごいのね! こーんなに可愛いのに、部屋を吹き飛ばすほどの、とんでもないパワーを秘めているんだもの! そんなポケモンと一緒なら、どこに行くのだって安心よね!」
モンスターボールに戻らずに彼らの腕の中で抱きかかえられている三匹のポケモンたちは、『どんなもんだい』と胸を張った。
「あなたたちのパパやママには、あたしから伝えておくから!」
ベルの肩がぴくりと動いたが、ミジュマル以外は誰も気づかなかった。
「ポケモンだけ、じゃなくて。イッシュ地方のすてきなところ……いっぱい、いーっぱい見つけて、ステキな大人になるのよ!」
ありがたい言葉なのか、なんなのか。それはわからないが、ミコトは飽き飽きしていた。
――こんな話を聞いてる暇なんて、正直ないんだけどなあ……。
「タウンマップを使えば、自分がどこにいるのかわかる……これは嬉しいね」
渡されたタウンマップにはGPSがついているため、自分の位置情報がわかる。とても便利だ。
「じゃ、1番道路に行こうか。博士が待ってる」
「あっ、待ってよお。ミコトも早くね」
そう言ってさっさと二人は行ってしまった。
「……まったく、二人共せっかちなんだから……のんびり行けばいいのにね、ヴァイン」
ヴァインは頷いた。
* * *
1番道路に行こうとすると、その手前で二人が待っていた。
「ミコト! こっちだよ!」
ベルに言われるまま、二人のあいだに入るミコト。
「……どうしたの?」
「ベルが『旅をはじめるなら最初の一歩はみんな一緒がいい』って」
「ベルらしいね」
「えへへっ」
ベルは抱えていたミジュマルを降ろした。
「ポケモンたちも合わせて、みんなで一緒に1番道路に踏み出そうよ!」
よく見ると、チェレンもポカブを降ろしている。ミコトも、ヴァインを地につけた。
「 OK 」
「じゃ、行くよ!」
「せーのっ!!」