七話 目標と旅路
彼は悩んでいた。
《う〜ん……隙、隙かあ》
「あら。そんなに頭を抱えて、どうされたんですか?」
《……君、いつからいたの?》
彼は眉間に皺を寄せる。
「ついさっきからです」
《せめてノックくらいしてよね》
「申し訳ございません。ところで、何を悩んでらっしゃるんですか?」
《うん、ちょっとね。君こそ、どうして来たの?》
彼は尋ねた。
「いえ、とくには。ただ、イーブイたちが指定の場所に行ったと、報告に来ました」
《そう。ご苦労様。別に必要ないけどね、その報告》
彼は邪魔だと感じる。
《用事が済んだなら出てってよ。考え事の邪魔》
「まあ、随分冷たいんですね」
《僕にも悩みがあるんだよ》
「やはり、彼のことで?」
《そう、奴のことで。むしろそれ以外にないよね》
「だったら
私、アドヴァイスを差し上げられるかも」
《必要ないよ》
「そんなことありませんわ。一人で悩むよりは何倍もよい案が浮かぶと思いますが」
《いいから。用事がないならもう帰ってよ》
「……わかりました。失礼いたします」
彼はイライラしていたので、締め出した。
「一人じゃ淋しいくせに一人になりたがりなんだから、困りものね」
◎
9月1日。ムックルが鳴いている。
「ツカサ、なにやってるの? 早くしてよー」
「ちょっと待って」
ツカサは準備に手間取っているようで、かれこれ10分はアリサを待たせていた。
「まったく、昔から用意周到過ぎて時間がかかるんだよね」
「仕方ないよ、兄さんだもん。多分あれは一生変わんないよ」
双子は呆れている。一方当の本人はというと、
「ノート、財布、手紙、それから……」
何度も確認をしていた。
ふと
あるものが目に入る。
「……これも持っていくか」
それだけは丁寧に、慎重にカバンへと入れた。
「悪い、遅くなったな」
しばらくして、ツカサが玄関に出てきた。
「遅いよ! 何やってたの?」
「準備だ、準備」
「昨日のうちにやっててよ!」
まったくもう、とは言いながらも、アリサは笑顔だった。
「それじゃ、気をつけてね」
アズサはいつもの優しい顔で言った。
「うん、行ってくるねっ」
アリサは走り出した。
「え、ちょっと待てって! 行ってきます!」
ツカサも慌ててそのあとを追った。
「行ってらっしゃーい!」
大きく手を振るアズサ。
ツカサの夢は、何かを守れるようになること。
アリサの夢は、トップコーディネーター。
そしてアズサの夢は――ポケモンのための医師になること。
こうして三人は、別の目的へと走り出した。