四話 搜索と捕獲
八時十八分。あと二分で予鈴が鳴る。
だというのに、アリサは外に出ていた。
「ツカサー! どこー!?」
これでお分かりだろう、ツカサを探しているのである。
「チヨコ、そっちは!?」
「ダメ、見つかんないわ」
もちろん一人ではない。チヨコにも協力をしてもらっていた。
「一体どこに行っちゃったのっ」
「アイツはいつもそんなもんじゃない。早く見つけないと予鈴がなるわ! 急ぎましょ!」
「わかってる!」
二人とも時刻は知っている。それでも教室に戻ろうとはしなかった。
ツカサを見つけるまでは戻らない。そう、決めているから。
◎
一方当人はというと、
「……この辺りか」
学校の裏門付近にいた。
そして、何かを待ち伏せしていた。
――そろそろ、
犯人が出てくる頃だ。彼の緊張は限界にまで達していた。
キーンコーンカーンコーン……
予鈴がなった。
と、同時に、校舎から何者かが出てくる。
そして、沸点に達した。
「どぅおるぁああああああああああああああ!!」
「ぐぉぶぉおおおっ!?」
彼は感情のままに走り、殴った。
木や電柱に止まっていたムックルたちが、一斉に飛び立った。
◎
……ぅおるぁあああああぁぁぁ……「!!」
先に反応したのはアリサだった。
「今の!」
「ええ、間違いないわ!」
彼女らの意見は一致した。そして、同時に走り出す。
「ツカサは校舎裏っ!」
そして数分後。
「――で、顔も見ずに殴ったのね?」
「はいすみませんでした許してください」
「許せることじゃないよこれ……」
ツカサは正座、チヨコはその前に仁王立ち、そしてアリサは倒れている男とツカサを呆れた目で見ていた。
彼は、感情のままに出てきた人物の腹を殴った……その人物の顔も見ずに。
しかしよく見ると、その人物は彼らが通う学校の教頭だったのだ。
「教頭先生殴って『すみませんでした』で済んでたら私も殴ってるわよ」
「今のは問題発言だと思うよ!?」
「冗談よ」
「冗談に聞こえないから困るんだけど……」
はあ、とアリサは溜息をつく。
「でもまあ、先生が問題用紙を持ち出しているのは事実なんだけどね」
そう言って教頭が持っていたカバンの中の紙を一枚取り出した。一番上に堂々と太字で『
Pokemon Trainers School Kotobuki Graduation examination』と書いてある。
「……アリサ、それ俺たちが見ていいものじゃないと思うけど」
「……………………あ」
気づくのが遅かった。
「どどどどどどどうしよう!? 殴ってすみませんでしたより重いよね!?」
「私たち落とされちゃうのかしらそんなの絶対嫌何のために頑張ったのよポケモンチャンピオンいいえポケモンマスターになる夢はどうな」
「二人とも……というか、主にチヨコ落ち着け!!」
一匹のイーブイが、電柱の上から四人を見下ろしていた。
閑話休題。
「さて、どうしようか」
いつの間にかツカサは腕組みをして立っている。
「正直に話すしかないでしょ」
「だよな……でも、」
――正直に話したところで許してもらえるかどうか。それは、ツカサにすら解けない難題だった。
「取り返しのつかないことしちゃったもんね……特にテストは」
「これで落とされたらアリサのせいよ」
「わかってるよ」
どことなく暗い面持ちのアリサ。無理もないだろうと、ツカサは思っていた。
「……とりあえず、話しに行くとして。ツカサ、まずあんたが先生を殴ったってことを謝罪するべきよ。元はと言えば、あんたが確認もせずに殴ったのが悪いんだから」
「否定できねえ」
「問題用紙のことはそのあと話しましょ。許してもらえるかはわかんないけどね」
さっきとは違い、冷静に意見するチヨコ。
「それじゃ、行こ。もうそろそろ本鈴がなると思うし」
とアリサが言ったところだった。
キーンコーンカーンコーン……
本鈴がなった。
「ほらね」
「私たち、遅刻決定ね」
「それはいいから」
とりあえず職員室に行こうということになり、彼らは重い足を動かした。
◎
「「「すみませんでしたっ!!」」」
ここは校長室。「職員室じゃなくて校長室の方がいいと思う」というチヨコの一言により、行き先が変更したからだ。
この場にいるのは、四人と一匹。ツカサ、アリサ、チヨコと、優しそうな初老の女性――現校長。そして椅子に座った校長の隣に、コロトックがいる。
彼らはすべてを話し、そして頭を下げていた。
「…………」
校長は厳しい目で、黙って彼らを見ていた。
が、
「……フフッ」
突然笑顔になった。
「三人とも、頭を上げてください」
促されるまま顔をあげる。
校長は、ツカサの目を見た。
「遠藤君。まずは人に手をあげてしまったことを反省しなさい。例えどんな悪い人でも、暴力はいけません。……
前にも、言ったことがあるはずですよ」
「…………はい」
コロトックだけはチヨコが苦い顔をしたことに気づいたが、今はどうでもいいだろう。
「……そして、試験のことですが」
これだ。彼らが一番心配していたのは、このことだ。彼らの顔が引き攣る。
「そんなに心配しなくてもいいですよ。安心してください」
校長はにっこり笑い、そして言った。
「あなたたちははじめから
合格だったんですから」