3‐8
「なんだって!?」
ここはプクリンのギルド。そこに、新たな情報が入ってきた。
ガタン、という音とともに、彼は立ち上がる。椅子は倒れこそしなかったものの、大きく揺れた。
「『キザキの森』が……!?」
驚いているのは、このギルドの親方・プクリンの(自称)一番弟子で、トレジャータウンでは(自称)一番の情報屋であるペラップ――ではなく、プクリンだった。
「ええ、間違いないかと……」
報告しているのがペラップだ。つい先程入った情報で、しかも『キザキの森』の住人だったポケモンの証言。かなり信憑性のある情報だった。
「それは誰が言ってたの?」
プクリンもいつになく真剣な表情をしていた。ペラップも苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「……ウォリーです」
彼はさらに驚いた。この『イスティオ大陸』に置いて、その名を知らぬポケモンはほとんどいないというほど、有名な名だ。
エンペルトのウォリーは、プクリンのギルドが生み出した凄腕探検隊チーム『ウォーター』の一員だった。カメックスのナギとエンペルトのウォリーが二人だけのチームを組み、次々と依頼をこなし、様々な秘境を開拓してきた。しかしそれが数年前、解散した。それは大陸中に衝撃を与えた。なぜ解散したのか、それは本人たちしか知らない。師であるプクリンですら聞いていなかった。
「そっか……だったら、間違いないね」
プクリンが絶対的信頼をおいている者はギルドの弟子たちを含め、この世界では数えるほどしかいない。ウォリーはその一人だった。
「はい。今朝、ようやく意識が回復したそうで。開口一番に言った言葉だと」
ペラップのこの言葉に、プクリンは違和感を覚えた。
「ちょっと待って。今まで寝たきりだったの?」
トレジャータウンの診療所といえば、ギルド内にあるものだけのはず。なのに今まで、意識不明の状態でどこにいたのだろうか。
「親方様も、トレジャータウンに住むガルーラは知っていますよね?」
プクリンは頷く。
「その方に聞きました。昨晩のことらしいんですけど、倒れていたそうです。それもトレジャータウンのど真ん中で」
誰かが手当した跡があったとガルーラは証言している、とペラップは付け加えた。ペラップが様子を見に行ったところウォリーはガルーラの家で、包帯まで巻かれ、ベッドに横たわっていた。
「ねえラード、ボクも行っていいよね? 看病。できることなら診療所に連れてきたいんだけど……」
「看病は構いませんが、移動は厳しいかと。少し動かすだけで傷が痛むと、ウォリーは言っていました」
「ラードならそう言うと思ったよ」
椅子に座りなおすプクリン。
「……ウォリーが大怪我、かあ」
俯いたまま、呟く。
「敵はどんなポケモンだったんだろう? 強かったんだろうなあ」
その瞳は――憎悪に溢れていた。
「……仇討ち、したいなあ」「へ? 親方様、何かおっしゃいましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
顔を上げるとそこには、いつものプクリンが戻ってきていた。
「じゃ、ボクはウォリーの看病に行くけど。ラードも来る?」
「そうします」
ペラップは羽を羽ばたかせた。
☆☆☆☆
――ここは、どこだろう。確かオイラは……ああ、水に流されたんだっけ。もしかして、勢いで死んじゃったのかなあ。……こんなところで死んじゃうなんて、いやだなあ。せめて不思議な模様の秘密を解き明かしたかったなあ。
……なんか温かいなあ。……………………………………………………温かい?
カイが目を覚ますとそこは、地中から湧き出した湯のたまり場――温泉だった。
「わ、わあ!?」
バシャッという音とともに足がつく。ここは温泉のようだ。湯はカイの肩辺りまである。
「おお、目が覚めおったか」
少し遠い場所から声が聞こえた。そちらの方を見ると、そこにはコータスが佇んでいる。
「突然、お主たちが空から降ってきてのお……ついさっきのことじゃったか。それはそれは驚いたもんよ」
コータスの言葉に、カイは疑問を抱く。
「空から……?」
「そこのじいさんが言うには、そうらしいで」
後ろから聞きなれた声も聞こえてきた。この声はヒトカゲだ。振り向くと彼は、腕組みをして温泉の縁に座っていた。
「ヒトカゲ! よかった、お前も無事だったんだな!」
「当然のこっちゃ」
何かがあったらしく、いかにも納得がいかないといった顔をしている。
「……どしたの? なんか不機嫌そうに見えるけど」
カイは気になり尋ねるがヒトカゲは、
「別に何もないで」
ぶっきらぼうにこう答えるだけだった。
首をかしげるカイに、近づいてきたマンキーがこう言った。
(あいつ、岩に背中を打ち付けたみたいだ。怪我はしちょらんみたいけんどね)
(ああ、なるほどね)
「ところで」
不意に、コータスは口を開いた。
「お主たち、どこからきなすった」
威厳のあるゆっくりとした口調だ。カイはこの質問に答えようとしたが、先に口を開いたヒトカゲに遮られてしまった。
「『滝壺の洞窟』、とでも言ったらええかな。えーっと……」
ヒトカゲは肩にかけていたカバンを漁り、地図を取り出すとそれを広げ、調査をしていた滝を指した。
「ここや、ここ。探検してたんやけど、奥ぅにある仕掛けで流されてしもてな」
「なんと! お主たち、そんなところから流されてきたのか!?」
「そういうことになる、のかな」
これにはコータスだけでなく、他のポケモンたちも驚いているようだった。
「それは大変じゃったのう。温泉でゆっくり疲れをとってから、帰りなされ」
「ええの?」
地図を丸めながら、ヒトカゲは尋ねる。
「もちろんじゃ」
「じゃあ、そうさせてもらうよ! ありがとう!」
「おーきに」
こうして二人は、ゆっくりと疲れをとって帰ることにしたのだった。
「あー、背中痛いわ」
「大丈夫?」
「問題あらへんやろ。骨も折れてへんようやし」