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「ここやな」
トレジャータウンを出発して小一時間後。カイトヒトカゲは、『秘密の滝』と呼ばれる、今回の調査対象にたどり着いた。
「うっわー……」
その滝を見上げて感嘆の声を上げるカイ。水タイプのカイが声を上げるほど、その滝は大きかった。
「こりゃ打たれたらひとたまりもないね、ヒトカゲ」
「せやなあ。オレが入ったら終わりやな」
冗談のようにいうが、冗談ではなかった。どれほどの高さかは検討もつかない。幅も、プクリンのギルドが二つ入ってしまいそうなほどだ。
「で、調査って言われてもね……ただの滝にしか見えないんだけどなあ」
二人は、滝の目の前にある崖のような場所から滝を見ている。カイはその崖を行ったり来たりして、別の角度から滝を見ようとしている。ヒトカゲはただ真正面からじっと見つめているだけだ。
「ヒトカゲ。じっと立ってるだけじゃ何も分かんないよ」
そんな様子に腹が立ったのか、若干刺を含んだ言葉を発するカイ。だが滝の音で聞こえていないのか、それとも聞こえていないのか、その場に座り込むヒトカゲ。
「ちょっとヒトカゲってば。聞こえてる?」
「ド素人は黙っとれ」
ヒトカゲはそう言い捨てると、もう一度集中して滝を見つめた。
滝の上の方は霧がかかっていてよく見えない。だが、遥か高い場所から流れ落ちるということは勢いからわかる。そしてどこまで落ちていっているか、それも霧が邪魔をしていて、わからない。
ヒトカゲは
唸った。この先に何があるかはなんとなく理解した。それを更に調べるには、突入するしかない。だがもし突入して失敗したら、この滝の藻屑となるのは間違いなかった。どう突入するか、それが問題だ。
「なあカイ」
「ん?」
「この先に行くんやったら、どうしたらええと思う?」
カイは、座り込んでしまったヒトカゲに、多少ながら憤りを感じていた。適当な返事を返す。
「とにかく動くことかな」
しかしこの適当な返事は、ヒトカゲにヒントを与えた。
「動く……はっ、そうや!」
そう叫んでバッと立ち上がるヒトカゲ。カイは肩をびくっと震わせる。
「ど、どうしたの?」
「カイ。あの滝につっこむで」
「…………はぁあぁあぁあ!?」
目をまん丸にして叫ぶカイ。
「なんや。変なこと言うたか?」
「いいいいいいいいやだって、この勢いだよ!? 突っ込むなんて正気じゃないよ!! 死んじゃうって!!」
「大丈夫や」
「何を根拠に!?」
「オレの勘や」
カイはヒトカゲの発言に開いた口がふさがらないといった様子だ。
「ま、自分が
来ーひんのやったら置いてくで」
ヒトカゲは、その場から数歩後ろに下がる。突っ込む気満々なようで、助走をつけようとしていた。カイはその様子を見てうろたえる。
「えちょ、ちょっと待ってよ、置いてかないで」
一人で残されるのは嫌だと言う。
「せやろ? やったら連れもて行こや」
ヒトカゲはこれまでに見せたこともない笑顔をカイに向けた。
「つ、つれも……?」
カイは内容が理解できないらしい。が、ヒトカゲはそんなのお構いなしにカイの腕を引っ張る。
「ほな、こっち来ーや」
強制的に数歩下がっていくカイ。
「いや、未だ行くとは……」
「助走くらいは自分でつけえよー? そーせんとほんまにワヤになってまうでー」
ヒトカゲはカイの腕からぱっと手を離す。わずかにバランスを崩した。
もうここまで来てしまっては、仕方がない。
「じゃ、じゃあオイラの合図で走るからね。勝手に走り出さないでよ!」
今度はカイが、ヒトカゲの腕を掴んでいる。
「わかった」
ヒトカゲは頷いた。カイは目を閉じ、数回深呼吸をする。
そして、覚悟を決めた。
「……よし」
目を開き、まっすぐと滝を見据えた。
「イチ、ニの、サンで走るからね」
カイが提示すると、
「おう」
ヒトカゲが応える。
「イチ……」
ふっと息を吐き、息を吸う。
「ニの……」
足を踏ん張らせた。互いの目を合わせ、頷いた。
「サンっ!!」 地面を蹴る。
しっかり助走をつけて、二人は滝に飛び込んだ。