3‐10
「――と、言うわけだからさ。君たちにも応援を頼みたいんだ」
ある日の夕方のことだった。
ルイスに呼び出されたあたしたちは、今度の遠征の話を聞いていた。
彼曰く、近々遠征をするらしい。
彼曰く、戦力が足りないかもしれないらしい。
彼曰く、遠征での助っ人が必要らしい。
と言うわけで、抜擢されたのがあたしたちだ。
「どうかな?」
変わらない軽い口調と崩さない笑顔。あたしは、そんなこいつが苦手だ。
苦手な理由その一。いつも笑顔だ。なぜこんなにいつもにへらとしていられるんだ、と思ってしまう。
苦手な理由そのニ。いざとなったら結構強い。卒業試験の時は、少し手こずっちまったし。
だからこそ、疑問を抱く。なぜそんなルイスがいるのになんで戦力不足になったりするのだろうか。
「どうしてあたしらの力が必要なんだよ? 強いじゃん、ルイスはさ」
「うーん」
ルイスは少しだけ考えると、こう答えた。
「なんとなくかな♪」
なんとなくで勝手に仕事をもって来ないで欲しい。こっちにもしなければならないことが溜まっているというのに。
「どうする、ピカチュウ?」
あたしの隣にいたレオが尋ねてくる。
なんであたしに訊いてくるんだよ。自分でも考えろ。頭ん中すっからかんじゃん。ふざけんな。口に出して言ってやろうか、と思ったが、流石に抑えた。
「うーん。正直、あたしははちょっとなあ……いろいろあるし。リオルはどうしたい?」
「え、僕? 僕はどっちでもいいかなって――痛い痛い痛い痛い!!」
納得のいかない返事が返ってきたので遠慮なく腕挫十字固を決めてやった。
「サポートしたいのかしたくないのか自分の意見を主張しろ!」
なるべく言葉に熱を持たせないようにする、というのは難しい。
「したい! したいです! 言ったから離してぇ!」
あたしは返事を聞いてパッと手を離す。
――だって遠征楽しかったし……。
マジか。
正直、断ろうと思っていた。これは勘だけど、そろそろヤバい気がする。アイツらとの合流もできてないし、どうしたものだろうか。
ていうか今どこだよ。遅いわ。
「うーん、二人の意見が合わないんじゃなー」
ルイスのその言葉も、頭には残らない。右耳から入って左耳から出て行った。
確かに遠征は行きたい、冒険は嫌いじゃないから。でもそれより、今はもっと大事なことがある。今後、こいつらが安心して遠征できるようにするには、そっちが最優先だ。
「あ、そうそう。伝え忘れてたけど、今回の遠征先は――」
考え事をしているあたしの頭には、どんな言葉も残らない自信があった。しかしその自信は、続いた言葉によって打ち砕かれる。
「――『霧の湖』だよ」
驚いた。
あたしも、そしてレオも。
『霧の湖』……アイツの言っていたことが正しければ、というか絶対正しいんだろうけど、そこには
アレがある。偵察くらいはできるかもしれない。
「それも踏まえて、考えて欲しいんだけど」
ならば、答えはもう決まったようなものだ。
一息ついて、あたしは言った。
「わかった、協力する。いいね、リオル」
レオは黙って頷いた。