2‐11
「オレはヒトカゲ……探検隊『ソラ』のメンバーや!」
「た、探検隊『ソラ』? ハッ、聞いたことないな。もしかして
新米か?」
スリープは鼻で笑った。
「なんにせよ、お前らみたいに貧弱なやつらが10人集まろうが俺は倒せない! お前、こいつらみたいになりたくなかったら帰れ!」
「誰が帰るかい! 疲れたんやでここまで! 手ぶらで帰れるかっちゅーねん!」
そう叫びながらも、ヒトカゲは一歩一歩前に進んでいる。
その途中でリコを見つけた。
「……遅かったみたいやな」
リコの近くでさっとしゃがみ、脈をとるヒトカゲ。
「でも、生きてはおる」
そして立ち上がると、ハルキを見た。
「よう頑張ったな、お前。エスパータイプ苦手やろ」
「苦手とか関係ねえよ」
「そか」
ヒトカゲはハルキに背を向けた。
「お前は休んどき。あとはオレがやったる」
ヒトカゲがそう言うと、彼らの周りにシールドのようなものができた。
「これは……」
「攻撃を一切通さん壁や。『やどりぎのたね』よりも頑丈なモンやで」
足に力を入れるヒトカゲ。
「……せやな。レベルや弱り具合からして、5秒で倒せるやろ」
「何……!? 調子に乗るなよ!」
一秒。
「『ねんりき』!」
二秒。
スリープが『ねんりき』を放った方向には、もうヒトカゲの姿がなかった。
「こっちや」
三秒。ヒトカゲはスリープの後ろにいた。
「言い訳は、あとでな」
四秒。
「なにっ――」
五秒。
ドオオオォオオォオン!! ものすごい爆音と爆風がその場を襲ったが、ハルキとリコ、そしてルリリは、シールドのおかげで助かった。
「あいつは!?」
煙が晴れるとそこには、
「どうや? 約束通り、5秒で倒したったで」
にっと笑ってピースをするヒトカゲと、目を回して倒れているスリープが、そこにいた。
☆☆☆☆
「賞金ハ、ギルドニ送ッテオキマス。アリガトウゴザイマシタ!」
「サア、クルンダ!」
「トホホ……」
しばらくして、スリープは駆けつけた保安官によって連行された。
「ふぅ〜! なんかええ気分や!」
ヒトカゲは思いきり伸びをしようとして諦めた。倒れてしまったリコを担いでいるのを忘れていたのだ。
「なあなあ。自分ら、オレンのみは持ってへんの?」
「どっかで落としちまった」
「なんやそれ」
「ルリリ!」
搭乗口側から、誰かが登ってきた。ルリリより一回り大きいが特徴はあまり変わらない。ルリリの進化系、マリルだ。
「お、お兄ちゃん!」
このマリルが兄のようだ。姿を見るなり、ルリリはマリルに飛びつき、泣き出した。
「うわあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!! おにいちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!! 怖かったよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ルリリ、大丈夫か? 怪我はないか?」
「ひっぐ……大丈夫、どこにも怪我はないよ」
「ホント? よかった! 本当によかった!!」
――まあ、リコは重症だけどな。ハルキは口に出さず、密かに思った。ハルキも傷だらけではあったが、『こうごうせい』で回復した。おかげでなんとか歩けている。
しかしオレンのみがない今、リコに回復手段は存在しない。一度トレジャータウンに連れて帰るしかないのだ。
「これも、みなさんのおかげです! このご恩は忘れません。ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
マリルとルリリは、ぺこりと頭を下げた。
「いこうか、ルリリ」
マリルはすたすたと先に行こうとするが、
「あ、ちょっとまって!」
ルリリがそれを引き止めた。
そしてハルキに近づき、ぼそっとこう言った。
(かっこよかったですよっ)
「ほぇ?」
「それだけです」
にこっと笑い、そしてマリルのもとへ走っていくルリリを、ハルキはぼーっと眺めていた。
「どうしたのルリリ」
「なんでもないよっ」「なんや自分。隅におけんなあ」
ヒトカゲはにやにやしながらハルキを見ていた。
「なんだよ! その気持ち悪い笑みやめろよ!」
「…………わかれへんの?」
「何が!」
「…………あの子もかわいそうやなあ」
「だから何がだよ!?」
☆☆☆☆
「こぅらぁ! 何をやっとるかこんな時間までしかも勝手にぃ!!」
ギルドに帰ってきたヒトカゲを待っていたのは、ペラップの怒声だった。
「みんな腹を空かせて待ってるだろがぁ!」
「んなこと言うたってなあ……せや、怪我人がおんのや! さっさ治療したって!」
そういってヒトカゲは、背負っているリコを見せる。
「……それを先に言え! チリーン! 怪我人がいるから、看てやってくれ! ヒトカゲは診療室まで運べるか?」
「当たり前や。……あ、せやせや。もう一人怪我人おるで」
そう言ってヒトカゲは、ハルキを差し出した。
「ポッチャマよりはだいぶマシやけど、苦手なエスパータイプのポケモンと戦ったあとや。ちゃんと治療はしとかんとな」
「わかったわかった、診療室に連れていけ」
「おおきに。そういうことやから、ついてき」
ハルキはヒトカゲについていくしかなかった。
ヒトカゲは、診療室のベッドにそっとリコを降ろした。
「これは結構重症ですね……オレンのみとオボンのみを持ってくるので、ちょっと見ててください」
チリーンはせかせかと診療室をあとにした。
「結構広いな」
「当たり前やろ。いつ誰が怪我して運ばれるかわかれへんからな。このへんで診療室っちゅーたらここしかあらへんし」
「ふーん」
ハルキは診療室を見渡す。
「……せや、自己紹介が遅れてしもてるな。オレはヒトカゲ、名前はない。よろしゅー」
「俺はハルキ。今はフシギダネなんだけど、もとはニンゲンで――」
「はぁ!? ニンゲンやて!?」
「へ!?」
ヒトカゲの声に驚くハルキ。
(…………それ、冗談とかやないんやな?)
急に声を潜め、ヒトカゲはハルキに尋ねる。
(あ、ああ。冗談じゃねーよ。本当にニンゲンだったんだ。本名は如月晴樹っていうんだ)
(そうか……)
急に考え事を始めるヒトカゲ。
(どうしたんだ?)
(あんまり話さん方がええで、それ)
(それって……俺が本当はニンゲンだってことか?)
(当たり前や! ホンマに信頼できる奴にしか教えたらあかんで)
(は、はあ……)
あまり意味がわからなかったが、とりあえず承諾することにした。
「お待たせしました! オレンのみとオボンのみ、持ってきましたよ!」
ちょうどチリーンが戻ってきた。チリーンはすぐに、薬の調合を始めた。