2‐10
トゲトゲ山、F4。そこに、外部からのポケモンがいた。
片方はフシギダネ。状態異常にする技≠ェ厄介だ。
もう片方はポッチャマ。あれほどの威力がある『泡』や『つつく』はかつて見たことがなかったと、山のポケモンたちは証言している。
「だぁーっ! まだいんの!?」
「ハルキ! 今そっちに『風おこし』が!」
「うおおおおおっ!? 危ねぇ!」
――だが、そんな彼らも手こずっているようではあった。
トゲトゲ山に入ってから、既に二時間が経過していた。現在7階だ。
「ふう……なんとか倒せたねー」
「そーだな。疲れたー……
PP大丈夫か……?」
「あ、それだったら。さっき拾った『PPマックス』があるけど」
「さんきゅ」
カイはリコから渡された瓶を受け取り、鶴を使って器用に蓋を開けた。
「もうそろそろ頂上だと思いたいんだけど……お腹もすいてきたし」
「んぐ、んぐ……」
「ちょっと、聞いてるの?」
「……ぷはっ。聞いてるっての。『PPマックス』飲みながら返事なんてできっかよ」
「それもそっか」
リコはバッグの中からりんごを取り出し、かじる。
「ここで食うのかよ」
「お腹空いたし?」
バトル以外では結構のんびりとしている。そんなに急ぐ必要もないからだ。
「ハルキ。ご飯食べたら、まだまだいけるよね?」
「もちろん。そういうリコこそ大丈夫なんだろうなっ」
「心配無用だよ」
こんなことを言い合えるのは、今のうちだ。
☆☆☆☆
一方、チーム『ソラ』側。
ビッパによる施設説明は続いていた。
ここは、ちょうど中間の十字路だ。北に向かえばプクリンのギルド、東に向かえばダンジョン、南に向かえば海岸、そして西に向かえばトレジャータウンだ。
ルビーは十字路の中心から北西側にある水飲み場を見た。
「あそこにあるのは水飲み場。井戸水でゲス」
「井戸水っていいよね。夏は冷たいし」
「それにおいしいでゲス! あっしは冒険で疲れたとき、ギルドに戻る前にこの井戸水をちょこっと飲んでるでゲス」
「へぇ〜」
と、正直どうでもいい話をしたあと、
「じゃあ、トレジャータウンに行くでゲス」
ルビーは一口井戸水を飲んで、西に向かった。
少し歩くとそこには、賑わう商店街のような小さな町があった。
「ここがポケモンたちの広場・トレジャータウンでゲス」
ルビーがトレジャータウンの説明をしようとしたところで、カイが口をはさんだ。
「トレジャータウンのことならオイラもわかるよ。ヒトカゲは?」
「まったく」
「そっか。それじゃあ説明するね」
そしてルビーを置いて説明を始めた。長いので割愛する。
「――とまあ、だいたいこんな感じかな」
「なかなか詳しいでゲスね。それなら安心でゲス」
ルビーはうんうんと頷いた。
「じゃ、一通り準備が出来たら、あっしに声かけるでゲス。そしたらお尋ね者を選ぶの、あっしも手伝うでゲスよ」
「ありがとう。ルビーって優しいんだな」
「そ、そんな……照れるでゲスよ……ぽ……」
素直に褒められるのは苦手なようだ。
「あっしはギルドの地下一階で待ってるでゲスよ」
そう言ってルビーはギルドに戻っていった。
「……ほな、いこか」
「そうだね。オイラ、どんな道具があるのか見たいから、カクレオンのお店に行ってみたいな」
「お、ええな」
というわけで、まずは双子のカクレオンが営業する店に行くことにした。
☆☆☆☆
トゲトゲ山9階。
「もうそろそろ頂上じゃないかなあ」
ハルキとリコは、のんびりと頂上を目指していた。ハルキの返事はない。
「どしたの?」
「なんかさ、すっげえ。
嫌ーな予感がするんだよな」
「当たったことあるの? その嫌な予感って」
「ここまで嫌な予感がしたの初めてだからわかんね」
「うっわぁ……」
「なんだよそれ。
酷えの」
と軽口を叩いているが、昨日空耳と言って流した悲鳴のことも含めて、本当に嫌な予感がしていた。
―――きゃああああああっ!?――― 間違いなくあれは、リコの悲鳴だ。
さらに、さっきただの夢と言って流した悪夢のこともあった。
―――言うことを聞かないと……痛い目に合わせるぞ!―――
―――た、助けてっ!―――
―――『サイコカッター!』―――
―――きゃああああああっ!?―――
―――リコーーーーっ!!――― あの夢の場所は、なんだかこの山に似ていた。
もしこの嫌な予感が的中して、さらに悪夢と同じようなことが起こり、リコがこの空耳と同じ悲鳴をあげたら……考えただけで背筋が凍った。
「大丈夫だよ。予感なんて大抵当たらないって、おねえちゃん言ってたもん」
「大丈夫かそれ」
「おねえちゃんはウルトラランクの探検隊だよ? 大丈夫に決まってるじゃん!」
リコは胸を張る。
「だといいけどな……」
それでもハルキは疑ってやまなかった。
そしてその予感は、的中することになる。
☆☆☆☆
「……
嫌な予感がする」
同じ頃。トレジャータウンで、同じ予感を感じているポケモンがいた。
「え、突然どうしたのヒトカゲ」
そう、ヒトカゲだ。
「ごっつ嫌な予感がするんや。今すぐ駆けつけんと間に合わへんくらいの悪いことが起きてまう予感が……」
「気のせいだよ、予感なんて大抵当たらないって兄ちゃん言ってたし。それにその予感が当たってたとしてもオイラたち見習いだから、勝手なことはできないよ」
カイは気のせいだと言っている。しかし、自分の勘は大抵当たる……。
「……いや、あかん。そんな規定守っとられへん。オレ、行ってくるわ!」
ヒトカゲはカイの忠告も聞き入れず、走り去っていってしまった。
「ちょ、ちょっと!? ど、どうしよう……」
カイはその場であたふたするしかなかった。
☆☆☆☆
「あれ? 行き止まり……」
ここはトゲトゲ山頂上。そこに、二匹のポケモンがいた。水色で体も尾の先も丸く小さなポケモン、ルリリと、カレー色のポケモン、スリープだ。
「ねえ、スリープさん。落し物は? 落し物はどこにあるの?」
ルリリはつい先日、大事なものをなくしてしまった。その話をスリープにしたところ、トゲトゲ山付近で見たと言う。それで探しに来たのだ。
しかし……、
「ゴメンな」
スリープはルリリに謝った。
「落し物は……ここにはないんだよ」
「……えっ?」
「実はお前のことを……騙してたのさ」
「ええっ!?」
そう。実はこのスリープ、賞金がかかったれっきとしたお尋ね者なのだ。
「……お兄ちゃんは?」
ルリリには兄のマリルがいた。マリルも一緒にいたはずなのだが、途中ではぐれてしまっていた。
「お兄ちゃんは、あとからすぐ来るんでしょ?」
「いや。お兄ちゃんも来ないんだ」
「そ、そんな……」
ルリリの足が竦む。
「それより、ちょっと頼みがあるんだ」
スリープは一歩前に歩み出る。
「お前の真後ろに小さな穴があるだろう?」
ルリリは恐る恐る後ろをみた。確かに小さな穴がある。ルリリくらいの大きさなら入れるだろう。
「あの穴の奥には……実は、ある盗賊団が財宝を隠したんじゃないかという噂があるんだ」
その盗賊団も、小さな穴なら良い隠し場所になるとでも思ったのだろう。
「ただ、俺の体じゃ大きすぎて、穴の中には入れない。だから……小さいお前をここに連れてきたというわけさ」
竦むだけでなく、震えてきた。
「大丈夫。言うことさえ聞いてくれれば、ちゃんと返してやるからよ」
もう一歩前進するスリープ。
「さあ、行くんだ!」
ルリリは一歩後退したが、それに合わせるようにスリープも一歩前進してくる。
「穴の中に入って……財宝をとってこい!」
「お……お兄ちゃーん!!」
幼いルリリには怖すぎた。一瞬の隙をみて逃げ出そうとするが、
「こっ、こら! 待て!」
すぐに回り道をされてしまう。
「まったく! ちゃんと返してやるって言ってるだろ!?」
スリープの目が怪しく光った。
「言う事を聞かないと……痛い目に合わせるぞ!」
「た……助けてっ!!」
「
まてっ!!」
そこに、二匹のポケモンがやってきた。
☆☆☆☆
――急げ、時間がない!
ヒトカゲは走り続ける。その速さは、ヒトカゲという種族が出せるスピードではない。ウィンディの『神速』級だった。
尋常ではない嫌な予感。これは、前にも感じたことがあった。以前ほどではないが、それでもそれに匹敵しかねない。
被害者が出ることだけはなるべく避けたい。そんな思いで走り続けた。
そしてようやく――トゲトゲ山にたどり着いた。
「……ここやな」
一度立ち止まって、上を見上げる。
爆音が聞こえてきた。
「なんやて!?」
――まずい!
ヒトカゲはさらにスピードを上げて、山を登り始めた。
☆☆☆☆
「まてっ!!」
「だ、誰だ!」
スリープは慌てて振り返る。するとそこには、フシギダネとポッチャマがいた。
――そう、ハルキとリコだ。
「その子から離れろこのロリコンが!」
突然ハルキはスリープに罵声を浴びせる。
「ロ、ロリコンだとぉ!?」
「そうとしか考えらんねーだろうがこの場合! 怯えてんじゃねーか!!」
「何をしようとしたかわからないけど、私が来たからにはその悪事も終わりだよ!」
強気で言葉を投げかける。スリープの怒りのボルテージはどんどん上がっていく。
「もしかしてお前ら……探検隊か!?」
「ちげーし!」「ちがうよ!」
「じゃあなんでここが!」
「偶然だよ!」
本当に偶然だったが、ここは別に『偶然だ』とは言わなくてもいいところだ。sleepも呆れてしまい、ぽかんとしている。
「……ま、まあいい。偶然だろうがなんだろうが、俺に出会ってしまったことが運の尽きだったな」
「何?」
「ここで俺に出会った……つまり、ここがお前らの墓場だ!」
スリープは目を怪しく光らせた。
『催眠術』だ。
「ふにゃあ……?」
「リコ!?」
ちょうど目を合わせてしまったリコは、その場に崩れ落ちた。
「ハハハハ! お前のパートナーも頼りないな!」
「んのぉ……」
ハルキの怒りのボルテージも上がっていく。
「『タネマシンガン』!」
ハルキは怒りに任せて、未完成の『タネマシンガン』を放った。
「当たるか!」
スリープは種を全て交わす。特性『予知夢』で全てを把握してからの回避だ、当たるわけがない。
「もう一回だ!」
今度は考えて『タネマシンガン』を打つハルキ。量はさっきより多いが、スリープ本体は狙っていなかった。狙っていたのは――ルリリのまわりだ。
「えっ?」
「時期に『宿り木の種』が成長してお前を守ってくれるから、そこを動くなよ!」
その言葉と同時に、芽が出た。ルリリとの距離は大体半径1mくらいで、円状に並んでいた。宿り木はどんどん成長し、やがて分厚い壁となった。
「よそ見をしている暇があるのか!? 『念力』!」
「ぐあっ!」
『念力』がハルキを締め付ける。草タイプと同時に毒タイプを併せ持つフシギダネにとって、エスパータイプの『念力』は辛かった。
「ぐ……『タネマシンガン』!」
「またか?」
スリープは『念力』を解き、タネマシンガンを交わす。
しかし次の瞬間、
ドォン!「な!?」
爆発がおき、スリープはそれに巻き込まれてしまった。
「へへ……『タネマシンガン』の種の中に3つくらい、『爆裂の種』を紛れ込ませてたんだ」
そしてまた別の場所でも、爆発が起きた。
おまけに、新しい芽が地面から出てきた。
「ついでに『宿り木の種』もな!」
「クッ……」
スリープは膝をついたが、すぐに立ち上がる。
「お前、結構体重重いだろ? 転んだらひとたまりもないはずだぜ」
「それがどうした! 『ねんり』――」
「の前に『草結び』!」
ハルキは、伸びかけの宿り木を全て結び、たくさんの草の輪を作った。
「こけたら痛いぜ〜! これで迂闊に動けねえよな! 『はっぱカッター!』」
「のわぁ!?」
飛んでくる『葉っぱカッター』を避けたくても、足元にある無数の草の輪が気になってうまく避けられない。
「もう『念力』はさせねえ!」
「ついでに私も起きたよ!」
いつの間にか、リコが隣にいた。
「おお、やっとかよ!」
「すごいじゃんハルキ、もうこんなに技≠使いこなせるだけじゃなくて、戦略までしっかりたててる!」
「だろ!? 結構考えたんだ!」
「『念力』!」
「ぐっ!」「きゃっ!?」
二人は『念力』に締め付けられた。
「何がもう『念力』はさせねえ、だ! 隙だらけじゃないか!」
駄弁っている暇などなかった。
「……そうだ、こうしよう」
スリープはハルキにかけていた『念力』の拘束を解く。
「うっ!」
地面に叩きつけられたように倒れこむハルキ。まだ立てるが、結構ギリギリだ。弱点であるエスパータイプの技を二度も受けてしまえば当然だろう。
「この場所から動けなくとも、俺には攻撃する術がたくさんあるんだ。例えば……」
スリープの周りに念の刃が現れた。
「こんな風にな! 『サイコカッター!』」
☆☆☆☆
「こんな風にな! 『サイコカッター!』 」
「きゃああああああっ!? 」
「リコーーーーっ!! くそっ、『葉っぱカッター!』」
ハルキはがむしゃらに『葉っぱカッター』を繰り出すが、あまりの『サイコカッター』に打ち消されてしまう。とくせい『新緑』で強化されているとはいえ、まだまだ実力の差があった。
リコは拘束を解かれ、そして倒れた。
「おいリコ、しっかりしろ!!」
返事はない。
「ハハハハハ!! さあ、次はお前の番だ!」
「畜生っ!」
「させへんで!」
ドォオオオン! さっきの『爆裂の種』の爆発とは比べ物にならなかった。
煙幕が晴れるとそこには、大きなクレーターが出来ていた。
「な、何者だ!?」
視線は、頂上へと続く一本道に向けられていた。
そこには、たった一匹のポケモンがいた。
「オレはヒトカゲ……探検隊『ソラ』のメンバーや!」