2‐9
「――っていう夢をさ、見たんだよ」
「ふぅん」
一方その頃。
結局寝付けなかったハルキと目が覚めたリコは、朝食をとっていた。
そして夢の話を打ち明けたのだが、
「疲れすぎでしょ」
この一言によって流されかけてしまう。
「でも、妙に
現実感があってさあ」
もしかしたら正夢になるんじゃないか、という言葉を言いかけて飲み込んだ。
「正夢なんじゃないか、って言いたいの?」
だが言いたいことはバレていたらしい。
「……もし正夢なんだったら、私は絶対そうならないようにする」
「普通そうだろ。ボッコボコになんかされたくねえよ。
……まあ、変な性癖を持つ奴はそうじゃねえけど……」
「ん、何か言った?」
「いいえ何もっ」
ハルキは目をそらす。
と、とあるものが――とある山が視界に入った。トゲトゲしている。
「なあリコ。あの山、なんていうんだ?」
「ふぇ?」
蔓でその山の方を指し示すハルキ。リコはその方向を見ると、
「ああ、あれは『トゲトゲ山』だよ」
と答えた。
「トゲトゲしてるでしょ」
「そのまんまだな」
「そういうところ結構多いよ? 『リンゴの森』とか『海岸の洞窟』とか」
――『海岸の洞窟』といえば、アイツ今どうしてるかな。ふとリコの脳に、臆病な幼馴染の顔がよぎった。
「別にそんなに急ぎじゃないし行ってもいいけど? 力試しがてらに」
「悪くねーな」
うんうんと頷き、
「よし、行こう『トゲトゲ山』。せっかくだし今日中に着けるように行こう」
と決めてしまった。
「まあ、トレジャータウンよりは近いし……普通に歩いても午前中には着くと思う」
「それじゃ決まりな」
こうして二人は一度進路を『トゲトゲ山』に変更し、力試しをすることにした。
――まさかこれが、これこそが夢道だとは知らずに。
☆☆☆☆
「で、ふもとまで歩いてきたわけだが」
一時間後。彼らは『トゲトゲ山』のふもとにいた。
「なんか、特に敵が出そうな感じはないな」
「油断禁物、ダンジョンでは何があるかわかんないからね」
そう言いながら、バッグの中身を確認する。
「食料は大丈夫そうだよ。相当のことがなければ底をつくことはないんじゃないかな」
「よし」
意気込み、そして突入。
「いくぜ!」
突入したはいいものの。
「うげっ、またムックルにドードーかよっ!?」
飛行タイプのポケモンたち、つまりハルキの弱点が生息していた。
「こんなの聞いてねえし!?」
「私だって知らなかったよ! まさかニドリーナが生息してるなんてぇええええっとぉおおっ!」
リコは間一髪でニドリーナの『毒針』を避ける。
「
危なぁい」
「ニドリーナも苦手なんですけど」
ニドリーナ・ニドリーノは毒タイプ、つまりこちらもハルキの弱点である。
しかも彼らの特性は『毒の刺』といって、物理攻撃をするとたまに毒状態になってしまう。食料の温存のためにも、それだけは絶対に避けたい。
「仕方ない、ムックルとドードーは俺が何とかするからニドリーナを頼むぜ!」
「なんで!?」
「俺ニドリーナに有効な技≠ネんて『痺れ粉』と『眠り粉』くらいしかねぇから! ほか草タイプの技か物理系だから!」
毒タイプに対し、草タイプの技≠フ効果は今ひとつ。そして毒タイプには、毒タイプの技≠ェ効かない。しかも『体当たり』などの物理系も使えないとなると、ハルキにとっては圧倒的に不利な相手だった。
それに比べてリコは『泡』などの特殊技――つまり、相手に触れずともダメージを使える技を使うことができる。ハルキより幾分マシだろう。
「仕方ないなあっ! そっちこそ飛行技でやられたりしないでよ!」
「わかってるっつーの!」
……彼らは気づいていない。フシギダネという種は草・
毒タイプだ。つまり、フシギダネのハルキに毒タイプの技は効かない。それに気づくのはこの戦闘が終わってからになるのだが、それもまた、別の話。
☆☆☆☆
「おーい! ビッパ! ビッパ!?」
一度呼んだだけでは姿を見せず、つい二度呼んでしまうペラップ。
「はいーっ!」
下、地下二階から声が聞こえた。それから数秒して、とあるポケモンが姿を現す。茶色の四足ポケモン、ビッパだ。
「はあはあはあはあ……お呼びでしょうかー!」
「おおビッパ♪ お前もこいつらのことは知ってるよな?」
「もちろんでゲス。最近入った
新入り……あっしの後輩でゲスね?」
「そうだ。広場にこいつらを案内してやってくれ♪」
「はい、了解でゲス!」
カイとヒトカゲを置いて話を進めていくペラップとビッパ。
ようやくペラップは説明をはじめる。説明とは言っても、
「こいつはビッパ、弟子の一匹だ。今の話を聞いていただろう? ビッパの言うことをちゃんと聞いて行動するんだぞ」
こんな簡単なものだが。
「じゃあな♪」
この一言だけを残して、ペラップはさっさと戻っていってしまった。
「あっしはビッパ。……でも、これは種族名でゲス。本当の名前はルビー。できれば、そっちで呼んでほしいでゲス」
改めて自己紹介をするビッパ、もといルビー。
「種族名だとわかりにくいでゲスからね」
「そっか、わかったよ。オイラはカイ。よろしく、ルビー先輩!」
満面の笑みで挨拶をするが、その様子を見たビッパは泣き出してしまった。
「え、え!? どどどどうしたの!?」
突然の出来事に慌て出すカイ。
「先輩なんて呼ばれたの、初めてで……嬉しいんでゲス……でも、ちょっとこしょばいから先輩はつけないでいいでゲス。ぐすんっ」
涙を拭うルビー。
――ありがとうジラーチ。願い事、かなったでゲス。
「じゃあ、案内するでゲス。ついてくるでゲスよ」
こうして、ルビーによる施設案内が始まった。
まずは、プクリンのギルド・地下二階だ。
「えーと、まず……」
降りて右手の方を見て、ビッパは言った。
「ここはグリェードさん……グレッグルさんがいるんでゲスが……実は何やってるのか、あっしにも謎なんでゲスよ……」
「な、なんか怖いね?」
「後ろの壺をいつもいじってるみたいなんでゲスが……よくわかんないでゲス」
続いてもっと奥の方を見て、
「こっちに行くと食堂があるでゲス」
今度は左奥を見る。
「こっちに行くと弟子たちの部屋があって――」
そして、手前――真左を見た。
「ここが、親方様の部屋でゲス」
そう言ったあと、ルビーはカイとヒトカゲを見た。
「ここまでは大丈夫でゲスか?」
「うん、おっけー」
「オレもかまへんで」
「それじゃあ、ギルドの外を案内するでゲスね」
二人は頷いた。