2‐8
―――言うことを聞かないと……痛い目に合わせるぞ!―――
―――た、助けてっ!―――
―――『サイコカッター!』―――
―――きゃああああああっ!?―――
―――リコーーーーっ!!―――「うわぁあああああっ!?」
ハルキは目を覚ました。まだお天道様は登っていない。彼にしては珍しい。
彼は二枚の絵を見たような夢を見た。一枚目の絵は、カレーのようなポケモン――確かあれはスリープという種族だったか――が青くてまんまるいポケモン、ルリリを脅していた。もう一枚では、そのスリープと自分たちが戦っていた。どう見てもこちらが劣勢。嫌な夢を見てしまった。
「寝たくねぇなあ……」
寝てしまえば夢の続きが始まるかもしれない、ならば寝ない方がいい。彼は寝ることが何よりも好きだったが、そう判断して起き上がった。
――そういえば、昨日聞こえた悲鳴が夢に出てきたな。
ふと彼は思い出した。昨晩聞こえた悲鳴と夢の中での悲鳴は、完全に一致していたことに。同時に、変だなとも思った。どうしてーーいや、気にしないでおこう。気にしてはならない、違う、気にしたくない。気にしなければならない。
そんな葛藤の末、結局彼が眠りにつくことはなかった。
そして、翌朝。
「おきろおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――――! 朝だぞおおおおおおおおおおおおおおお――――――――!!」
「起きとるわアホ! じゃーあしい!」
――両方ともうるさいです。
プクリンギルドではいつもと変わった怒声が響くことになったのだが、それはまた別の話となるのである。
☆☆☆☆
『みっつー! みんな笑顔で明るいギルド!』
「さあみんなっ♪ 仕事にかかるよ♪」
『おお―――っ!』
各々が各仕事に取り掛かる中、『ソラ』だけは動かなかった。
「さて。今日は何をするんだろう?」
「さあなあ」
と話をしながらウロウロしていると、
「オマエたち」
ペラップに話しかけられた。
「またウロウロしているな」
――いやはいそうですがなにをすればよろしいのでしょうか。
口に出そうとしたところを思いとどまるカイ。口に出してしまえば確実にめんどうになると判断したからだろう。
「あたりまえやん、仕事がわからへんもん」
が、ヒトカゲはためらいもなく言ってしまう。
「…………」
その様子にペラップはしばし黙るが、
「こっちにきなさい」
流すことにしたのか、歩いて地下一階に上がっていった。カイとヒトカゲも、そのあとをついていった。
プクリンのギルド地下一階。以前にも説明したが、二つの掲示板がある。
今日もその掲示板の依頼を受けるのだが、昨日とは少し違う。
「あれ?」
カイがその異変に気づいた。
「昨日は確かあっちの掲示板だったよね?」
そう。昨日は左側の掲示板の依頼を受けた。だが、今日は右側の掲示板の前にいる。
「そうだ♪ 今日はこっちの仕事をやってもらうよ♪」
「あっちと何が違うん?」
誰もが抱く、率直な感想だった。
「よく見るのだ♪」
だがペラップは昨日と違い、疑問への返答をしない。仕方がないので、二人は掲示板をよく観察してみた。
「……あっ!」
すると、昨日と違う点をもう一つ見つけた。
「いろんなポケモンの絵が貼ってある!」
昨日受けた文章だけのものとは違い、文章とともにポケモンの絵が描かれていた。
「みんなかっこいいなあ! 有名な探検家なのかなあ」
「……確かに、絵だけやったらかっこええけどな。文章読んでみい」
「へ、文章?」
カイは掲示板に近づき、目を細めた。あまり視力は良くないらしい。
「…………ペラップ。これ、もしかして……全部お尋ね者なの?」
「そうだ」
――全然かっこよくない!!
これも、誰もが抱くであろう素直な感想である。
「皆悪いことをして指名手配されてる奴らだ。それ故、彼らには賞金がかけられている」
つらつらとお尋ね者について述べるペラップ。
「だから、捕まえればお金がもらえるんだけど……でも、凶悪なポケモンが多いからねえ。みんな手を焼いているんだよ」
「それをオイラ達が捕まえろっていうの?」
カイは身震いさせ、弱音を吐いた。
「そんなの絶対無理だよう!」
そんなカイを見、ヒトカゲは呆れてしまった。
――ギルドに入る前のあの威勢はどこに行ってもうたんやろなあ……。
そしてペラップは、こういった。
「ハハハッ♪ 冗談だよ、冗談♪」
「へ? あ、じょ、冗談?」
「悪いポケモンって言ってもいろいろいるからね♪ 世紀の極悪ポケモンもいれば、ちょっとしたコソドロもいるって感じで、ほんとピンキリだよ♪ 極悪ポケモンを捕まえろだなんて、お前たちに言えるわけないじゃないかっ♪ ハハハッ♪」
ちょっとからかったというだけのようだ。カイは胸をなでおろすが、ヒトカゲはどこか不満そうな顔をした。
「世紀の極悪って、どれくらいなん?」
「う〜ん、あんまりいないから、ワタシもよくわからないけど……それはもう悪い奴を指すんだと思うよ」
「ふぅん」
不満そうな表情は変わらない。
「まあともかく、この中から弱そうなやつを選んで懲らしめてくれ♪」
ペラップは簡単にそう言うが、カイにとってそれは至難の業。
「うぅっ……」
なぜならば彼は、今世紀最大の――臆病者なのだから。
「でも、弱いと言っても、悪いポケモンに変わりないんだよな? そんなやつと戦うなんて……オイラ怖いよ……」
俯いてブツブツと弱音を流れるように吐き出すカイ。
「これも修行のうちだ♪」
「うぅぅ……」
こんな彼の様子を見ていたヒトカゲは、
「…………はぁ」
しびれを切らしたのか、わざとらしいため息をついた。
「カイ」
諭すような口調で、カイの名を呼び、
「せやなあ……例えば、この依頼や」
ピッと、ヒトカゲがとある依頼を指差した。モンジャラを逮捕し、盗まれた『あなぬけのタマ』を取り戻すこと。それがこの依頼の成功条件だ。
「このお尋ね
者は、必ず『湿った岩場』にいるって、わかっとるんやで。なら、なんも怖いことないやろ。絶対でるってわかっとるんやから」
「でも」
「けどな?」
カイの言葉を遮り、ヒトカゲは言葉を続ける。
「ダンジョンには、暴走してもうて自我を忘れたポケモンやって、少なからずおる」
脅すような、威圧感のある声だった。
「そんなポケモンたちは、なんの前兆もなしに、こちらの事情お構いなしに襲いかかってくるんや。いつどこで襲ってくるか全くわかれへんやつらに比べたら、いつどこで襲ってくるかわかっとるお尋ね者のほうが、十倍ましやろ」
これもダンジョンの
いろはか、それともただの脅しか、はたまた経験談か。
――確かに、親方様の言うとおりかもしれない。ペラップは、そう思った。こいつは、変わったやつだ。
「――コホン」
ペラップはひとつ、咳払いを入れた。
「まあいくら弱いとは言え、戦うにはそれなりの準備が必要になるな」
しばし考え、妙案を思いついたように声を上げた。
「うん、誰かに施設を案内させるか」
そして、とある一弟子を呼んだ。
「おーい! ビッパ!」