2‐7
「イテテ……」
「や、やられた……」
ドガースとズバットは、完全に伸びきっていた。ドガースに至っては殴られただけなのだが、そこに触れてはいけない。
「くそう、こんな奴らに負けるとは……」
「負け犬の遠吠えはええから、さっさと真珠返してくれへん?」
ヒトカゲは彼らの元に歩き、目線を合わせるためにしゃがむ。一瞬ビクっとするドガース。軽いトラウマになってしまったのだろうか。
「ヘッ。これは返してやるよ」
そんなドガースに気づかなかったズバットは、フラフラになりながらも立ち上がり、乱暴に真珠を投げた。
「わっ……ととと」
投げられた真珠をキャッチするカイ。
「ケッ。まぐれで勝ったからって、いい気になるなよな!」
「覚えてろ!」
ピュー。
そんな効果音がぴったりだろう。ドガースとズバットはそそくさと逃げていった。
「なんやねんあいつら」
「ハハハ……まあとりあえず取り返したし、帰ろうか」
「せやな。気にしとってもしゃあないわ」
こうして、探検隊『ソラ』は、初めての依頼を見事に成功させたのだった。
☆☆☆☆
ギルドへと戻ると、そこではバネブーが待っていた。
彼らは
戦利品をバネブーに返した。
「あ、ありがとうございます!」
念願の真珠が戻ってきてバネブーは興奮しているようだ。
「ワタシ、この頭の上の真珠がなかったせいで、ここ最近もう落ち着かなくて……そこらじゅうピョンピョン跳ねまくり! おかげでこのようにアザだらけになりました……」
苦笑しながらも最近の話をするバネブー。
「見つかってよかったなあ」
「はい。でも、こんな心配も今日からなくなります。本当にありがとうございました!」
そう言ってバネブーはヒトカゲに、タウリン、リゾチウム、ブロムヘキシン、更に2000ポケも渡した。
「わわっ! に、2000ポケ!? こ、こんな大金もらっちゃってもいいの!?」
2000ポケという大金を見て驚くカイ。この世界では、2000ポケでもかなりの金額なのだ。その為6000ポケもする技マシンはかなり高いことになるのだが、それはまた別の話だ。
「どうぞどうぞ。真珠に比べたら、安いもんですよ」
ニコニコと心から嬉しそうなバネブー。本気で渡すようだ。
「では」
そしてバネブーは、その場から去っていった。
2000ポケもの大金を貰ったカイは、バネブー以上に興奮していた。
「ヒトカゲ! オイラたち、いきなり大金持ちだよ!」
「せやなあ。もちろん貯金やで」
「解ってるよ!」
その
お金の行く末を相談していると、
「オマエたち、よくやったな♪」
そこにペラップが介入してきた。
「喜んでいるところ悪いが……お金は預かっておこう」
そう言って、ヒトカゲの手から2000ポケを奪う。
「えっ!?」
「な、何すんねん!?」
「ほとんどは親方様の取り分だ♪ オマエたちには……このぐらいかな♪」
そう言ってヒトカゲの手に渡されたのは、
「ええ〜っ? 200ポケしかもらえないの!?」
2000ポケの十分の一の金額が渡された。200ポケでは、オレンの実とリンゴが二つづつ買える程度だ。
「酷いよー!」
カイは嘆く。しかしペラップはそれに追い討ちをかけた。
「これがギルドのしきたりなんだよ。我慢しな♪」
「うぅ……」
「まあ、しゃあないか……」
二人は、納得せざるを得なかった。
一時間後だろうか。
「みなさーん! おまたせいたしましたー♪」
心地よいソプラノの声が、プクリンのギルド地下二階に響く。
弟子たちの夕食準備を担当するチリーンの声だ。
「食事の用意ができました♪ 晩御飯の時間ですよー!」
『わあ―――――――!』
弟子全員が食堂になだれ込んだ。相当腹を空かせているようだ。
それはもちろん、カイも例外ではない。初めての依頼で慣れていないというのに、特訓をさせられたのだから。
グミやリンゴを流れるように腹に入れる。成程夕食の時にみんなの勢いが凄いのはこういうことなのかと、カイは解った気がした。
☆☆☆☆
丁度同じ頃。ハルキとリコはというと。
「よし。じゃあ今日はこのへんで休憩な」
「おっけい、賛成。ちょっと疲れちゃった」
ずっと西に進んでキザキの森を出てから、更に西に進んでいた。
「今どれくらいだろうな?」
「うーん、わかんないなあ。流石にそこまでは」
「そっかー……」
その場に座り込むリコ。今晩は野宿をするようだ。
「はいハルキ、リンゴ」
「おっ、サンキュー」
リコはハルキにリンゴを手渡した。
ハルキは自らのツルを使い、器用に受け取る。
――ハルキのツルがリンゴに触れた、その時だった。
「っ……」
ハルキの足取りがふらつく。
リンゴに、正しくはリコの翼にツルが触れた瞬間、目眩がしたのだ。
「えっ、ハルキ? どうしたの?」
「ちょっと目眩が……」
なんとかその場に踏みとどまるが、目眩は続く。
そして、次の瞬間。
―――きゃああああああっ!?――― はっきりと聞こえたのだ、この悲鳴が。
聞こえた直後に、ハルキの目眩は収まった。
この悲鳴は、確かに……。
「ハルキ、大丈夫?」
「あ、あぁ……お前こそ大丈夫か?」
「ほぇ? なんで?」
「だって、今、悲鳴……」
そう。あの声は確かに、リコのものだった。
「悲鳴? 私には聞こえなかったよ?」
「聞こえなかったもなにもお前しかいないだろ」
「何言ってんの。私悲鳴なんてあげてないよ」
しかし彼女は悲鳴などあげていないという。ならば、あの悲鳴はなんだったのだろうか。
「今日結構歩いたし、多分疲れてるんだと思うな。早く休もうよ」
ほらリンゴ、とリコはリンゴを投げた。危うく地面に落ちるところでツルを使う。
――確かに、今日は特訓もしたしな。疲れてるだけかもしれねぇや。
「よし、さっさと飯食ってねるぞ!」
「さんせー!」
夜でも元気な二人だった。
リンゴを腹に流し入れ床(といっても地面だが)についたが、ハルキはやはりあの悲鳴が気になって、なかなか寝付けないのだった。