2‐6
丁度ハルキとリコがヒマナッツ盗賊団を倒した頃、ヒトカゲとカイは、『湿った岩場』を攻略し続けていた。
「えっと……バネブーの真珠が落ちているのがB7階だから、もうそろそろだよな?」
確認のため、カイはヒトカゲに尋ねる。
しかし、ヒトカゲの返事は上の空だ。
「ああ、せやなあ……」
「……どうしたのヒトカゲ?」
その様子を見て不安になったカイは、ヒトカゲの顔を覗き込んだ。
「…………へ?」
そしてそれに気づいたヒトカゲは、間抜けな声を上げる。
「どないしたんカイ」
「それはこっちの
言葉だよ。返事が上の空だったからさ」
「ああ、それな。……一つ、気になっとることがあるんや」
「気になること?」
カイは首を傾げた。
「せや。バネブーの依頼には、『真珠が盗まれた』って書いてあったんやな?」
「うん、確かにそうだよ」
「なら犯人は、その真珠を簡単に落とすのやろか」
ヒトカゲの言葉に、カイが唸る。
「普通なら考えられへんやろ」
「……そうだね」
「せやから、『落ちている』という情報は犯人からの偽情報、それに騙されてノコノコとやってきたバネブーを倒そうとしてんのやないかと思ってん。……まあ、オレの考え過ぎかもしれへんけど」
でもな、とヒトカゲは続ける。すっと彼の目つきが鋭くなった。
「さっきから――変な気配がするんや」
「気配?」
「ああ、ここにおるべきやない奴らの気配や」
辺りを見回すヒトカゲ。
「――そろそろ目的地やな。カイ、気ィつけえや。何がおるんか判らへん」
「おっけー、了解」
二人の警戒モードは、最高潮にまで達していた。
☆☆☆☆
ヒマナッツ盗賊団を開放してから数分後。再出発をしたハルキとリコは、早くも道に迷っていた。それもそうだ、家を出てから、一度も地図を見ていないのだから。
「俺土地勘ないから、リコに頼るしかないんだけど……」
「ちょっと黙ってて」
「へいへい」
見たこともないくらいに真剣な様子のリコ。
「さっきがここで、こっちに進んだから……今がここだと仮定して……うん、解った」
「お、解ったのか?」
「うん。このままの西の方向に行けば森から出られて、更にプクリンのギルドまで行けるよ」
ハルキの問いに対し、リコは自信満々に答えた。
「そっか!」
それを聞いた瞬間、ハルキの表情はぱあっと明るくなる。
「まあ、ギルドまでは結構時間がかかると思うけどね」
「大体どれくらいなんだ?」
「そうだなあ……何回か休憩を挟んだとして、大体丸二日くらいかな」
地図を見ながら、リコが答える。
「むしろたったそれだけなのか? もっとかかると思ったんだけど」
「トレジャータウンまでの距離がそれなりにあるからね」
リコは苦笑するしかない。
「ゆっくり行ってもよさそうだな」
「そうかなあ。少し急いだほうがいいと思うんだけど」
「丸二日程度ならそうでもなくねぇ?」
「冒険を舐めちゃダメだよハルキ」
と、くだらないことで二人の口論が始まってしまった。
旅路はまだまだ長そうだ。
☆☆☆☆
「でっ……出てこいよ、バネブーの大事な真珠を奪った犯人! いるんだろ!」
勇気を振り絞り、カイは叫ぶ。
「いや、犯人は一人やあらへんな。……二人か」
鋭い目つきであちこちを睨むヒトカゲ。どんな凶暴なポケモンでも怖気付くような目つきだ。
そんな目つきに負けたように、
「な、なんでバレた!?」
二匹のポケモンが現れた。
一匹は、青いボディで羽の裏が紫色のポケモン――こうもりポケモンのズバット。そしてもう一匹は、紫色の球体――どくガスポケモンのドガースだ。
「気配や気配。隠すつもりやったんかもしれへんけど、全くと言っていいほど隠しきれてなかったで」
敵を確認し、更に目つきが鋭くなるヒトカゲ。技≠ナある『睨みつける』と同等、いや、それ以上の鋭さだった。
その目つきにズバットとドガース、さらにはカイまで怯んでしまう。
「さて……それじゃ、」
と、突然ヒトカゲの表情が変わった。朗らかで、落ち着く笑顔だ。
「バネブーの真珠、返してくれへん?」
ヒトカゲはニッと歯を見せた。
しかし、これで簡単に返すわけがない――もちろん、それはヒトカゲにも理解できた。
「ケッ、やだね」
唾を吐いて断るドガース。まさに悪人だ。
「……残念やなあ。交渉決裂、か」
「交渉だあ? ヘッ、俺たちにそんなことは求めない方がいいぜ」
「せやな、ようく
解ぅたわ」
「そりゃあどうも」
そう言ってズバットは、体制を変えた。明らかに戦闘態勢だ。
「そんなに返してほしければ、腕づくで取り返してみるんだな!」
そして、ヒトカゲに飛びかかってきた。
☆☆☆☆
ヒトカゲに飛びかかるズバット。
「危ないヒトカゲ!? 『泡』――」
援護のために『泡』を放とうとしたカイだが、やめた。
ヒトカゲの姿が、一瞬にして消えたのだ。
「どっ、どこだ!?」
「どこに消えた!?」
ズバットもドガースも同様を隠しきれないようだ。
刹那、
「――ここや」
ヒトカゲの声が、聞こえた。
彼は、ドガースの真下にいた。
「なっ!?」
「お前ら遅すぎんのや、鍛え直して
来ぃ」
そう言い、ヒトカゲはドガースを真下から“殴った”。ただ殴ったのだ。これは技≠ナはなく、攻撃≠フ部類に入る。
技≠ニ攻撃≠ナは、もちろん技≠フ方が時間がかかる。が、その分威力が高い。
攻撃≠ェ一発程度で倒れるポケモンなど、そうそういない。
「ぐぇっ!?」
「嘘だろっ!?」
しかし、ドガースはその一撃で目を回してしまった。
「カイ、今や!」
「……あっ、うん! 『水鉄砲』!」
それを見て動揺しているドガースに、カイは容赦なく『水鉄砲』を叩き込んだ。
ドガースの方に気を取られていたズバットが気づいたときには、水圧は既に目の前にあった。気づくのが遅かった。
「ぎゃああ!?」
モロに直撃を喰らうズバット。しかし、ギリギリ立ち上がる。
「ヘッ、このくらい何と――もぉおおお!?」
「やから、遅いんやって」
立ち上がると同時に、ズバットの体は宙を舞った。腹をヒトカゲに殴られたのだ。
「ぐぇっ」
地面に落下した時には、既に目を回していた。