2‐5
「はぁ、はぁ……よしっ、ノルマクリアぁ!」
カイはその場にペタンと座り込む。
「お疲れさん、成長したなあ。時間かかったけど」
ダンジョンに入ってから実に五時間。カイは、一対十で戦うことができるようになった。いっぱいいっぱいだが、ちゃんと全員を倒すことができる。
「これでなんとか戦えるな」
「普通に一対一でも戦えると思うけど……」
「一対一だけやったらアカン。囲まれてもうたときに対応ができへんやろ」
「そうそうないでしょ」
「ある」
実際囲まれてしまうことはありえなくない。モンスターハウス≠ニ呼ばれるところに入ってしまえば、すぐに囲まれてしまう。そんな時にしっかり対応できるよう、彼はカイに課題を出したのだ。『一対十で戦えるようになれ』という難題を。
「ま、ええか。そのうち判るわ」
「そうかなぁ……」
といった数日後カイは後悔することになるのだが、それはまた別の話だ。
「ほな行こか」
ヒトカゲはさっさと歩いて行ってしまう。
「ちょっ、ちょっと待ってよヒトカゲ〜!」
カイは急いで彼についていった。
☆☆☆☆
所変わって、こちらはキザキの森。
「
疲れだぁああ……」
バサっと何かが地面に倒れる。彼はフシギダネのハルキ。
「えっと、これで何が使えるようになったっけ?」
それを上から見下ろすのは、ポッチャマのリコだ。
技≠フ使い方を知らないハルキに、リコはみっちりと使い方を教え込んでいたのだ。フシギダネが使える技≠ネど知らないが、それでも参考程度にはなる。それに、現在地は森だ。草タイプのポケモンならたくさんいる、彼らが使う技も参考にすればいい。
と言うわけで特訓を行っていた。
「そうだなぁ、今使えるのは……『体当たり』、『つるのムチ』、『はっぱカッター』と、それから……」
「『鳴き声』だっけ?」
「あ、そうそう! あとは『草結び』くらいだよな」
「ほかにももっとあったような……」
二人が特訓の成果を確かめていると、
「こらぁ、お前らぁ! ここは我ら『ヒマナッツ盗賊団』の縄張りだぁ!」
アホみたいな言葉が聞こえてきた。
気がつけば、彼らは包囲されている。
「『ヒマナッツ盗賊団』?」
「ああ、ここらでコソドロやってるヒマナッツの集団だよ。コソドロと言っても
人を困らせてるし、お姉ちゃんも捕まえようとはしてるんだけど……すばしっこくて、手を焼いてるみたいなんだよね」
だが、冷静に状況を把握する二人。リコに至っては、彼らのことを知っているようだ。
「コ、コソドロだと!? そんなことはやらない!」
「我らはいずれ、この大陸を支配するのだ!」
「「「「「「「「はーっはっはっはぁ!」」」」」」」」
ヒマナッツ達は反論、そしてガキのような台詞を言い放つ。
――なんだぁコイツら、俺よりもバカなんじゃねぇの……?
ハルキの脳裏に、そんな考えがよぎった。
「仕方ないなあ。……ねえハルキ、このコソドロさんたち、私で捕まえちゃわない? 捕まえたらお姉ちゃんに連絡する方向で。幸い、まだそんなに家からも離れてないそさ」
「OK乗った」
「「「「「「「「コソドロじゃなぁあああい!」」」」」」」」
反論し、そしてリコに飛びかかってくるヒマナッツ。相性で有利な彼女から始末しようと考えたようだ。
が、しかし。遅くはなかったが――遅かった。
「リコ、息止めろ!」
「了解っ! はぁー……っぷ!」
リコはハルキの言うとおり息を止めると、彼に向かってウインクで合図をした。
ヒマナッツ達はもう目の前だ。
「よっし。それじゃあ特訓の成果……くらえぇえええ!」
そう言ってハルキは、背中のつぼみから、紫色の粉を噴出した。
ヒマナッツ達はモロに吸い込む。
「ぐっ……ゲホッゲホッ!」
「こ、これはぁ……」
「ど……『毒の粉』……」
そして、バタバタと落下。
そう、ハルキが繰り出した技=Bそれは『毒の粉』だった。相手を毒状態にしてしまう、初心者用だが恐ろしい、立派な技≠セ。
「それじゃ、早く呼んできてくれねぇ? 毒が回らないうちにさ」
「わかった」
リコは走って自宅へと急ぐ。
「連れてきたよっ」
「『モモンの実』が八つも必要とかなんとかって、一体――えっ?」
リコとともに現れたエンペルトは、その場の状況に目を丸くした。
自分があんなに手こずっていた相手が、毒にもがき苦しんでいる状況に。
「あ、エンペルトさん。早く『モモンの実』ちょうだい。毒を消してやらないと、死んじまうじゃん。……あ、毒が消えても逃げないように、とりあえず『痺れ粉』も」
「アンタたち、一体何があったの!?」
「「ふぇ?」」
「大丈夫? 怪我とかしてないわよね?」
「だ、大丈夫だから落ち着いて……」
「落ち着いていられるもんですか!」
「とにかく『モモンの実』をこっちにくれよ! こいつら死んじまうだろっ!」
「……ああ、ごめんなさいごめんなさい。はい、『モモンの実』」
エンペルトが取り乱してしまったが、なんとかヒマナッツ達は『モモンの実』にありつくことができた。だが、逃げられない。『痺れ粉』が効いているようだ。
「彼らは、無罪放免でいいと思うのよ。ジバコイル保安官に引き渡さなきゃいけないほどのことをやったわけじゃないからね。……もう悪さをしないことが前提だけど」
「「「「「「「「もう二度としません」」」」」」」」
ヒマナッツ達は心から反省しているようだった。
「よろしい。じゃあちょっと待ってて、多分家に『クラボの実』がいくつかあったはずだから」
「あ、それだったら私も持ってるよ」
リコはバッグの中から、たくさんのタネを出す。
「まあ、かさばらないように『癒しのタネ』だけど」
そして、ひとつずつヒマナッツ達に配った。
「これに懲りて、もう悪さはしないのよ?」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
結局はエンペルトがまとめてしまったのである。