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プクリンのギルド地下一階。
そこにある二つの掲示板には、様々な依頼が貼られている。
そしてその依頼のなかからいくつか選び、それを受ける。
それが――通常時の探検隊の仕事である。
「オマエ達は初心者だからね。まずはこの仕事をやってもらうよ♪」
彼らは、左側にある掲示板の前に立っていた。
「これは『依頼掲示板』。各地のポケモンたちからの依頼がここに集まっているんだ」
ペラップはわざわざ説明しなおす。
「最近、悪いポケモンたちが増えているのは知っているよな?」
ここで珍しく、ペラップがカイとヒトカゲの二人に問いかける。
「うん。なんでも、時が狂い始めた影響で、悪いポケモンたちも増えてるんだろ?」
二人とも知っていた。
「そのとおり。時の影響だ」
うんうんと頷き、彼は話を続ける。
「悪いポケモンが増えているせいか……この掲示板も最近、特に依頼が増えているのだ」
「…………」
珍しくヒトカゲが黙って聞いている。
「また……これも時の影響なのかどうかは判らないが……」
ペラップの機嫌は悪くないようだ。
「最近各地に広がってきてるのが……『不思議のダンジョン』だ」
決め台詞のようにドヤ顔を決めて、一度説明を切るペラップ。
「お前たちも知っているよな?」
「うん」
「勿論や」
「なら話は早い♪」
同意を得て、機嫌が良くなるペラップ。
「依頼の場所は全て不思議のダンジョンだからな」
カイとヒトカゲは頷いた。
「さて……ではどの依頼をやってもらおうかな♪」
ペラップは彼らに背を向け、掲示板に顔を向けた。
「初心者だし……うん。これがいいかな?」
そして掲示板から一枚紙を剥がすと、カイに渡した。
「えーと、なになに?」
カイとヒトカゲはその紙を覗き込んだ。
『はじめまして。ワタシバネブーと申します。
ある日悪者に私の大事な真珠が盗まれたんです!
真珠はワタシにとって命。
頭の上に真珠がないとワタシ落ち着かなくて、もう何も出来ません!
そんなとき! ワタシの真珠が見つかったとの情報が!
どうやら「湿った岩場」に捨てられていたらしいんですが……
その岩場はとても危険なトコロらしく、ワタシ怖くてそんなトコロ行けませーん!
ですのでお願い。誰か「湿った岩場」B7階に行って真珠をとってきてくれませんか?
探検隊の皆様、お願いします!
バネブーより』 誰がどう見ても簡単で単純すぎる依頼だった。
「ってこれ、ただ落し物を拾ってくるだけじゃ――」
「了解や。引き受けたるわ」
そんな依頼と解って、ヒトカゲはその依頼を引き受けたのである。
☆☆☆☆
「な・ん・で! この依頼引き受けたんだよぉ〜!?」
数分後、『湿った岩場』への移動中。カイは不満をヒトカゲにぶつけていた。
「ただ落し物を拾ってくるだけじゃんか!」
「判ってへんなあ自分。ええか? オレがこの依頼を引き受けた理由は三つ」
そんなカイを諭すように説明をはじめるヒトカゲ。
「まず一つ。やっぱオレら初心者やん? とりあえずは簡単な依頼からこなしていくのが妥当やと思うねん」
「でも簡単すぎるんじゃないかなあ」
「ただ落し物を拾うだけやったらな」
その言葉にカイは首を傾げる。
「違うの?」
「そこで二つ目や。自分、ダンジョン入ったことないやろ」
「うん」
頷くカイ。
「やっぱりな。カイはダンジョンを舐めすぎや」
腕組みをするヒトカゲ。そして、
「カイ。ダンジョンの特徴、言うてみい」
簡単な質問を投げかけた。
「そんなの簡単だよ。入るたびに形が変わったり、ダンジョン内で倒れると道具や持っているお金がなくなったり」
「それや」
「へ?」
カイは再び首を傾げる。
「入るたびに内部が変わるっちゅうことは、マップの予測できへんっちゅうことや。迷子になってまうことも少のうない」
「う……まあ、それはそうだけど……」
迷子、遭難。実際にそうなってしまったら取り返しがつかない。
「で、倒れる。迷って歩き疲れて腹が減ったり、ダンジョン内のポケモンに攻撃されてて体力がなくなるんや」
ヒトカゲは足を止めた。
「攻撃されたとき、それに耐え切れる体力と、対抗できる力があるんか?」
吸い込まれそうになるような
黄緑の瞳。いつになく真剣だった。
「やから、依頼内容はあんまり失敗しいへんよう、簡単にしたんや。ダンジョンの恐ろしさを身に刻みつけぇや。……あ、もちろんピンチの時は助けたるわ。そこまで鬼やないからな」
そんな瞳も一瞬で消えてしまう。
「おっけー、了解。ダンジョンの恐ろしさってのを、身をもって体験してやるよ!」
カイはガッツポーズを決めた。
「ま、簡単かどうかは判れへんけどな……」「ところで、三つ目ってなんなの?」
「ああ、それはペラップの機嫌や。あそこで断ったら折角上機嫌なペラップのへそが曲がるやろ」
「なるほどね」