SPE1‐5
翌朝。
「起きろおおおおおおーーーーーー!! もう朝礼が始まるぞおおおおおおーーーーーー!!」 いつものようにドゴームは弟子を起こして回る。
もちろん、ルビーの部屋にもだ。ドゴームは回っているし、ヘイガニは既に起きて朝礼に向かっている。残っているのはルビーだけだった。
「うぐうっ……誰のせいだと思ってるんでゲスかぁ……」
誰もいない部屋で一人不満を漏らすルビー。しかし、どう考えても自分があの地図を見ていたせいである(ドゴームのいびきは毎晩のことだ)。
起きるのは辛いが、しかし早く起きなければ朝礼に遅れてしまう。ルビーは飛び上がり、急いで朝礼が行われる場所に向かった。
☆☆☆☆
「みっつー! みんな笑顔で明るいギルド!」「さあみんなっ♪ 仕事にかかるよっ♪」
「おぉーーーーっ!!」 朝礼も終わり、みんなバラバラに散らばっていく。
しかし、ルビーだけは、その場にたって残っていた。
「おや? ビッパ、どうしたのだ?」
それを不審に思ったペラップは、ルビーに話しかける。
「ボォーっとしていないで、早く仕事してくれ」
叱咤する彼の声も、考え事をしているルビーの頭には残らなかったが、ペラップが話しかけていることには気づいた。
――ペラップなら、何か知っているのかもしれない。
「……確かペラップって、物知りなんでゲスよね?」
ルビーはそう思って、ペラップに『星の洞窟』について尋ねてみることにした。
「ああ、もちろんだ♪ なんといっても、ワタシは情報屋だからな♪」
ペラップはふふんと自慢げに話す。
「なにか聞きたいことがあるのか? 遠慮なく聞いてくれ♪」
『物知り』と言われたペラップは、誰がどう見ても上機嫌だった。ルビーはホッとする。しかし、
「ただし、手短にな。あんまりだらだらなのはゴメンだよ」
この言葉で少しだけ気分が下がった。なぜなら、短くまとめる自信がルビーにはないからだ。
「ペラップは……『星の洞窟』について何か知ってるでゲスか?」
「『星の洞窟』?」
ルビーの言った場所を反芻し、自分の記憶を
弄る。少しだけ時間を取ったあと、
「……ああ、聞いたことならあるぞ」
と答えた。
「ええ!? ホントでゲスか!?」
「ああ、もちろんだ♪ なんたって、ワタシは情報屋だからな♪」
再びペラップは自慢げに笑った。
「『星の洞窟』は……今もって、どこにあるのか誰も知らない、伝説の場所だ」
「だ、誰も知らないんでゲスか?」
頷くペラップ。
「そうだ。大昔から語り継がれてきたものだからな。
古の中にうもれているのだ」
ペラップの話を、ルビーはいつになく真剣に聞いていた。
「ただ、その言い伝えによると、『星の洞窟』の奥には……幻のポケモンと呼ばれるジラーチが眠っており……」
幻のポケモンが眠っている。ルビーは、それだけで胸が踊るような気分になっていたのだが、
「そのジラーチを起こすと、なんでも願い事を叶えてくれるらしい」
何よりもその情報に、一番驚かされた。
「ええっ!? 願い事を叶えてくれるポケモン……ジラーチでゲスってぇ!?」
あまりの驚きに、又喜びに、思わずペラップの言葉を反芻する。
「コ……コラコラ! あくまで言い伝えだぞ! それに、どこにあるのか誰も知らないって言っただろう!」
ペラップは焦って注意をするが、
「……っておい!」
ルビーの耳には届いていないようだった。
「……おい、ビッパ。ビッパ? どーしたんだ、ビッパ?」
あまりに返事がないのでとうとう心配になり、ペラップは何度もルビーを呼び始めた。
ルビーはというと、考え事をしていた。
――ジラーチに会えば願いが叶う。それはもしかしたら、『一流の探検家になる』という自分の夢も、叶えてくれるかもしれない。しかも、『星の洞窟』の場所が書き記された地図は今、自分の手の中にあるのだ。つまり『星の洞窟』がある場所は、今は自分しか知らない……。そう考えると、嬉しさで頬が緩む。彼は心の中で、ガッツポーズをした。
「おい」
呆れたペラップの声で、ルビーははっと我に帰る。
「大丈夫か、ビッパ? ずっとボーッとしてたんだぞ……途中でニヤニヤしながらな。一体どうしたんだ?」
ドキリ。ルビーがうろたえていることなど、誰にでも見破れそうなほど、彼は焦っていた。
「い、いやいやいやいや! な、なんでもないでゲス! なんにも……何も考えてないでゲスよ〜っ!」
「……そうなのか?」
今のルビーの反論に、訝しげな目を向けるペラップ。
「わざわざ『考えてない』って言うあたり……逆に怪しいな。あのいやらしく
北叟笑んだ顔は、何か考え事をしていた感じだぞ? 変な独り言まで出てたし……」
しまった。そう悔やんでも後の祭りだ。
「実は、自分の中で密かに盛り上がってたりとか……」
「そ、そんなことは!」
「実は、心ン中でガッツポーズしてたりだとか……」
「し、してないでゲスよ!」
――どうしてペラップはこんなに鋭いのか、とルビーは疑問を抱く。
とそこに、
「してたぜーコイツ、心の中でのガッツポーズ」
突如、ルビーの後ろから声が聞こえてきた。
チーム『ミライ』のリーダー、ピカチュウだ。
「ピ、ピカチュウ!? いつからそこに!」
「ワタシも気づかなかったんだが……」
「ペラップが『どーしたんだ、ビッパ』って言ってたあたりから。面白そうな話をしてるなあ、と思って」
ピカチュウは得意気に話す。
「盗み聞きなんて悪趣味だったかな。ごめんね」
ピカチュウのインパクトが強すぎて目に入っていなかったようだが、そばにはリオルもいた。苦笑しながら謝罪を述べる。
最悪だ、とルビーは思った。なぜなら妄想中、ピカチュウが近くにいたからだ。ピカチュウには何故か、近くにいる者のポケモンの考えが手に取るようにわかるのだ。今のペラップなど比ではない。予想ではなく確信を持っているし、百発百中なのだ。
「ところでルビーさん?」
「ははははいっ! なんでゲスか!?」
撫でるようなピカチュウの声に恐怖を感じ、ルビーは萎縮してしまった。
――さっき考えてたことについて詮索されてしまう!
「どうやらキミ、『星の洞窟』の場所――」
「おーい、ビッパ!」
ルビーの思った通りのことをしようとしていたピカチュウの言葉を遮るようにして、ドゴームの呼ぶ声が聞こえてきた。
「はい〜! なんでゲスか〜?」
ルビーはピカチュウからそそくさと逃げ出し、ドゴームの元へ向かう。ピカチュウはとても残念そうだったが、
「オマエにお客さんだ」
ドゴームのこの言葉に諦めた様子を見せた。私欲よりも客が優先だと判断したからだろう。
「ええ? お客さん?」
ルビーは、ドゴームの言葉に驚く。彼が弟子入りしてから、彼を訪ねる者はいなかったからだ(故郷も遠いため、家族がくることもできない)。
「お、お客さんでゲスか? あっしに?」
念のためもう一度確認をすると、ドゴームは頷いた。
「ギルドの入口で待っている。早く行ってきてくれ」