SPE1‐2
ヒトカゲやカイがギルドに弟子入りする数日前まで、ルビーにはもう一組の先輩がいた。
「うっす、グッモーニン」
「おはよう、ルビー」
ピカチュウとリオルの二匹だけで形成される探検隊『ミライ』だ。ピカチュウのしっぽはハート型で、♀だということがわかる。
「おはようでゲス」
挨拶に応えるルビー。
「今日もいい天気だよね」
「そうでゲスね〜。お散歩日和でゲス」
トレジャータウンには、滅多に雨が降らない。だからといってカンカン照りというわけでもなく、ちょうどいい温暖な気候が続く。
「まったく……んなこと言ってるから、ラードもルビーを頼らないんだぞ?」
的確にルビーを指摘するピカチュウ。
「ちょっとのんきすぎるんだよ、ルビー。ダンジョンに挑もうってんなら、もう少しキリッ! とブィシっ! しないと……」
「ピカチュウ、ちょっと言い過ぎ」
ペラペラとルビーの傷つくことを言い続けるピカチュウを止めにかかるリオル。
「いや、いいんでゲスよ、リオル。ピカチュウの言うとおりでゲス」
目には若干涙を浮かべている。しかし、あまりにも正論過ぎて言い返せない。
――本当に情けない。
ずっとそう感じていた。
☆☆☆☆
「みっつー! みんな笑顔で明るいギルド!」「さあみんなっ♪ 仕事にかかるよっ♪」
「おぉーーーーっ!!」 朝礼が終わり、みんながバラバラに散らばっていく。ルビーもそうしようとしたのだが、
「ああ、ビッパ」
ペラップに呼び止められた。
「はいーっ! なんでゲスかー?」
すぐさま(といってもそんなに速くないが)ペラップのもとに戻るルビー。少し期待をしてしまう。
が、期待はずれだと知ることになる。
「今日の仕事だ♪ カクレオンのお店に行って、『オレンのみ』がいくつ売られてるか、見てきてくれ♪」
ルビーの仕事は、在庫調査。そう言い渡されたのだ。
「…………」
ルビーの表情は暗くなる。だが、
「どうした、ビッパ。いつもこなしている仕事じゃないか」
ペラップの言うように、いつものことだった。
「難しいことはないだろう♪」
難しいわけがない。誰でも、それこそ十歳みたない子供でもできる簡単なおつかいなのだから。
「いや、そうなんでゲスが……でも、いつもおつかいみたいな仕事ばっかりだなあって……」
やはり不満があるらしい。
「あっしももっと、探検家っぽい仕事がしてみたいでゲス……」
彼の夢は、一流の探検家になることであった。なのに、やらされる仕事はおつかいばかり。流石に嫌になっていた。
「あっしにも掲示板の仕事とか、やらせてもらえないでゲスか?」
そう提案すると、ペラップは羽をはばたかせて狼狽える。
「そんな! ジョーダンじゃないよ!」
その反応に、ルビーは予想以上のショックを受けてしまった。
「今のお前にそんな仕事をやらせたら……一体どんな失敗をしでかすと思う!? 依頼で頼まれたものをつまみ食いしたりしそうじゃないか!」
「ううっ……」
言われてしまっているが、それも自分が招いたことだという自覚があった(とくに食い意地を心配されているのは予想外だったが)。
「じゃああっしは……一生このまんまなんでゲスかねえ……」
ルビーの様子を見かねたのか、ペラップは言った。
「……ビッパよ。焦ってはいけないぞ。お前はみんなより少し……少し? いや、少しどんくさいだけなのだ」
「うぐぅ……はっきり言うでゲスね……」
だが、まだマシだと思った。少しと思われてないなということは、ルビーも気づいている。
「でも、オマエにも探検隊っぽい仕事ができる日がきっと来る。一流の探検家になるには、下積みが必要なんだ」
このおつかいが下積みなのか、とふと思う。だが、こういう仕事をきっちりこなすことで信頼を得れば、いつか依頼の仕事を任される日が来る……かもしれない。いや、くる。そう騙されておこう。でもやっぱり、気の長い話ではあった。
「それまで頑張って、修行に励んでくれ」
これはペラップなりの励ましだった。もしかしたら、自らが歩んできた道なのかもしれない。それはペラップしか知らないものだろう。
そしてその激励は、ビッパの背を押した。
「わかったでゲス。頑張ってみるでゲス。オレンのみの在庫調査でゲスよね?」
「うん、その粋だ! 頼むぞ!」
「了解でゲス!!」
なんだかんだ言って、ペラップは頼れる先輩だった。