SPE1‐1
「さあ、今日もいくよ♪ 朝の誓いの言葉! はじめっ♪」
「ひとーつ! 仕事は絶対サボらない!」「ふたーつ! 脱走したらお仕置きだ!」「みっつー! みんな笑顔で明るいギルド!」「さあみんなっ♪ 仕事にかかるよっ♪」
「おぉーーーーっ!!」「ヒトカゲ! 今日も仕事頑張ろうね!」
「せやな」
「私たちはさっそく登録にいかなきゃ」
「えー、じゃあオイラ弟子部屋で待ってるよ」
「なんじゃそりゃ」
「ほんまにな」
ヒトカゲ、カイ、ハルキ、リコの四人組は、意気込んでいた。
「ううっ、ヒトカゲたち。今日もはりきってるでゲスね!」
その様子を遠くから眺める、一匹のポケモンがいた。
「あっしも……あっしも負けられないでゲス!」
四人の様子を見て、彼も気合を入れているようだった。
このポケモンはビッパ。名をルビーという。プクリンのギルドの弟子の一匹だ。彼の夢は、このギルドで頑張って修行し、そしていつかは、一流の探検家になることだった。
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彼の夢は、一流の探検家になること。そのためにも、探検家としてとても有名な、プクリンのギルドで修行することに決めた。
「では、行ってくるでゲス!」
数年前。彼は、ギルドに弟子入りをするため、故郷から離れることになった。
「ギルドのみなさんによろしくね」
こういうのはルビーの母、ビーダル。
「あと、体には気をつけて。オマエはがっつきだからねえ。変なもの食べるんじゃないよ」
「わかってるでゲスよ」
ビーダルは心配性だった。時にはそれがウザったく感じたこともあるが、ルビーにとって彼女は誰にでも誇れる親だった。なぜなら、
「あと……くじけたらいつでも帰ってきていいんだよ」
ルビーの知っている中では誰よりも優しく、誰よりも強い母親だったからだ。
「ううっ……か、かあちゃん……」
思わず涙ぐむルビー。彼を後押しするように、ビーダルのそばにいたビッパたち――ルビーの弟と妹も、ルビーにはっぱをかける。
「頑張ってね! あんちゃん!」
「元気でね!」
「ううっ……お前たちも……」
良い家族を持ったルビーは、ここから去ることに抵抗を感じていた。だが、家族は応援してくれている。それに応えたい。応えなければならない。
「大丈夫! 心配はいらないでゲス! 必ず……必ずビッグになって……帰ってくるでゲス!」
そう約束し、ルビーは旅立ったのだ。
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しかし、ギルドの修行はルビーにとって、想像以上に厳しいものだった。
「おーい! まだかー!! 遅いぞ! ビッパ!」
「はいーっ! ただいま!!」
急いでドゴームの元に行く。その背には、あるものが乗っていた。
「はあはあはあはあ……お待たせしましたー! 持ってきたでゲス! 『ふっかつのタネ』でゲス〜!」
ルビーは少し屈み、ころんと種を地に転がす。その種は、『ふっかつのタネ』ではなかった。
「な……なんだあ! これは!? こりゃ『ふこうのタネ』じゃないか!?」
そう。ドゴームの言うとおり、『ふっかつのタネ』ではなく『ふこうのタネ』だったのだ。
「バッカモーーーーーーーーーン!! やり直ーーーーーし!!」
「ひえぇえええっ!!」
あるときは、ドゴームの怒声を浴びたり。
ルビーは、食堂で見つけた、とてつもなくおいしいりんごを食べていた。
「おや? ビッパ? こんなところで何をしているのだ?」
そこに、ペラップがやってくる。
「はい〜?」
りんごの汁を口の周りにべっとりとつけたまま、ペラップの呼びかけに応えるルビー。ペラップはルビーが食べているりんごに目をやると、そこにはとんでもないものがあった。
「そ……それはーーーーーーーっ!?」
それは、プクリン親方の大切な大切な、『セカイイチ』というりんごだったのだ。
「ペラップ。どうかしたでゲスか?」
そんなことを知る由もないルビーは、ペラップをよそに、セカイイチを食べ進める。
ついに食べ終わった。
「ごちそうさまでゲス!」
「ま、まさか……まさか全部食べちゃったのか?」
「はいでゲス!」
その返事に、ペラップの顔はどんどん青ざめていく。
「あ! そっか! ペラップも食べたかったんでゲスね。言っておいてくれれば残しておいたのに〜……」
そして、今度は怒りでどんどん赤くなっていく。
「な……なんてことをしてくれたんだお前は!」「ひえぇえええっ!?」
ペラップの怒声に戦くルビー。
「とんでもないことをしてくれたよ! バツとして夕食抜きっ!! いいねっ!!」
「そ、そんなあ!!」
あるときは食い意地が祟ったばかりに、ルビーの大好きな夕御飯までお預けにされたり。
なにをやってもドジばかり。
ルビーは頑張っているつもりなのだが、本当に何をやるにもうまくいかなかった。
――もしかしてあっしには、探検隊の才能はないんじゃないか……一流の探検かなんかあっしには無理なんじゃないか……。
いつの日か、そう思い始めたのだ。