1‐7
シャクシャクという効果音とともに、リコの手の中のアップルパイは胃袋へと消えてゆく。
「うーん、やっぱり最高!」
本当に満足そうだ。
それとは反対に、
「ったぁ……クッソてめ、幸せそうに食いやがって……」
不機嫌なハルキ。ハルキが不機嫌な理由は簡単、さっきリコにつつかれたからだ。(自称)もとは人間だったとは言えども、今はフシギダネだ。ひこうタイプの技『つつく』をくらって、辛くないほうがおかしい。
「ちったぁ手加減しろよ……タイプ相性考えやがれ」
「
ふぇ、
ふぁーふぃ?」
「ふざけてんのか!?」
ハルキがリコに鶴を伸ばしたところで、
「はいやめ」
エンペルトの邪魔が入った。
「流石にもうそろそろやめましょうね、お二人さん」
「で、でも!」
「
――聞こえないのかしら?」
「申し訳ございませんでした」
地の底から響くような静かな声に、ハルキは簡単に折れてしまった。
女は強いものである。
「で、話を戻しましょう。ハルキの出身地の話」
「ああ、そうそうそうだった」
ようやく3人は話を戻す。
「ハルキの出身地は、ホウエンチホウのカナズミシティってトコでよかったかしら」
「そうだぜ」
「で、そのカナズミシティでは、私たちにはよくわからない開発がされていると」
「さっきリコはそれで混乱したんだよな」
「私混乱してないもん!」
「もう突っ込むのが疲れた」
ため息を付くハルキ。
「でも、私たちはそんなトコ見たことも聞いたこともないのよね」
「私も! ていうかお姉ちゃんが知らないことは私も知らない!」
「それじゃだめだろ」「それじゃだめでしょ」
「ハモらないでよー!」
私だけ仲間はずれにされたみたいじゃない、とリコは騒ぐ。
「まあとにかく、ひとつ言えることは――」
エンペルトはそんな嘆きを遮って一呼吸おくと、こう言った。
「――ハルキは、星すらも違うところからきた、ってことよね」
☆☆☆☆
「え? そんなことできるの?」
落ち着いたリコがエンペルトに尋ねる。その疑問をエンペルトは、
「わからないわ」
ばっさりと切った。
「けど、可能性はありえる」
そう言って立ち上がると、本棚から何かをひっぱりだしてテーブルに広げた。地図だ。
「これはこの星の地図よ。これが、今私たちが住んでいる『イスティオ大陸』」
ど真ん中の大きな大陸を指しながら説明する。
「そしてこれが、『アルティオ大陸』でこっちが『オランティオ大陸』、それからこっちは『ウランティア大陸』、最後にここが『エイシャン大陸』よ」
ぱっぱっと指す位置を変えながら説明する。
ハルキは――ショート寸前といったような顔をしていた。やはり似た者同士である。
そんなハルキを見てか、エンペルトは苦笑しつつこんなことを言った。
「まあ、今は『イスティオ大陸』だけ覚えてればいいわ」
「あ、それだけなら覚えられるや」
「それより、話を戻すわね。ハルキ、私が述べたのは、五大大陸と言われる、この星の――『エイルスティアーナ』の大陸よ。一応、小さな島国はいくつかあるわ」
地図をたたんでハルキに話しかけるエンペルト。
「でも、今はどこにもニンゲンなんて住んでいないの。昔は住んでいたという記述があるけど、本当かどうかもわからない」
「だから俺は星を超えてきたのではないか……ってことか?」
「その通りよ」
地図を直すために本棚によるエンペルト。
「どうやったらそんなことができるかなんて、見当もつかないけどね」
「じゃあ、ハルキはこれからどうするの?」
リコの何気ない一言が、ハルキに容赦なく突き刺さる。
そう。彼が違う星から来たのであれば。すぐに帰れるような問題ではない。しかしこの星に知り合いがいないハルキには、行く宛てがないのだ。
「…………その様子だと、行く宛てはないみたいだね?」
コクリと頷くハルキ。
「……そっか。じゃあさハルキ」
リコは少し自信ありげにハルキの目を見た。
そして、ハルキにこう言い放つ。
「
――私と一緒に、探検隊やってみない?」