1‐6
「で、ハルキ。いろいろと、話して欲しいな。ゆっくりと」
現在、
彼はリコの家にいる。
――何故いるのか。それは、彼のおかしな言動が原因である。
☆☆☆☆
「何でフシギダネぇえええぇっ!?」
彼は絶叫した。
「ふぇっ!?」
リコは驚き、そしてたじろぐ。
「う、うん。フシギダネだけど、それがどうしたの?」
「いやいやおかしいって! 俺ニンゲンだもん!」
「フシギダネ君、メモの準備はいい? とても腕が良いって評判の精神科医を紹介するから」
「別に頭がおかしくなったわけじゃない!」
そこよりポケモンのみの世界に精神科医があることに突っ込んで欲しいが、この際そこには触れないでおこう。
フシギダネは必死に反論する。
「じゃあ、名前は? 名前はなんていうの?」
「名前? 俺の名前は
如月晴樹だ」
さらっと名を告げるフシギダネ、もといハルキ。
しかしリコは、
「ふぅん、キサラギハルキね。とりあえずよろしく、キサラギハルキ」
苗字というものを知らない、知るわけがない。元々ポケモンに苗字なんてものはないのだから。
「如月は苗字! 晴樹が
名前だ!」
そして勿論、ハルキもそのことは知らない。
「なんかややこしい……じゃ、ハルキって呼べばいいんだよね」
「おう。で、えと。お前、名前なんだっけ」
「リコ! まったく、さっき私言ったよ!?」
「ご、ごめん。よろしくなリコ」
苦笑して謝るハルキ。
「とりあえず、俺来たばっかでこの辺の土地勘ないから、いろいろ教えてもらえっかな?」
「あ、私もハルキがニンゲンって言ったことについて、詳しく知りたいな」
ということがあり、リコが『家ならくつろぎながら話が出来る』と言ったのがきっかけでリコの家に行き、冒頭に戻るのである。
☆☆☆☆
「で、ハルキ。いろいろと、話して欲しいな。ゆっくりと。ハルキが話してくれたら、私もこのあたりのこと話すから」
「それって交換条件か?」
「まあ、似たようなものだね」
「めんどくせ」
蔓で器用に頭をポリポリと掻くハルキ。
「とりあえず、話してよ」
「まあまあ、リコも落ち着きなさい」
カタン、という音がし、木のテーブルの上に皿が乗る。
「アップルパイでも食べながら、ゆっくり話したらどう?」
アップルパイの乗った皿を木のテーブルに置いたエンペルトは、その見た目に似合わない微笑を二人に向けた。
「うめぇっ!」
器用に鶴を使い、アップルパイを食べるハルキ。
「当たり前じゃん。お姉ちゃんが作ったアップルパイは世界一だもん!」
そしてぽろぽろとこぼしながらアップルパイをついばむリコ。
「お口に合ったようでよかったわ。ところで――」
美味しそうにアップルパイを食べる二人を嬉しそうに見ながら、エンペルトは一旦言葉を切る。
「――さっきの話はいいの? 実は私もちょっと気になってて」
「「あっ」」
はっと思い出したように食べ進める手を止める二人。
「うますぎて忘れてた」
「食べるのに夢中で忘れてた」
「あらら……」
エンペルトは苦笑いをすることしかできなかった。
この二人、案外似た者同士である。
「そうそう、ハルキのことをいろいろ聞かせてもらおうとしてたところだったよね」
「だな」
「とりあえず、どこから来たの?」
彼女はハルキに出身地を尋ねる。ここから、ハルキにとって最悪の時間が始まろうとは、
「カナズミシティ……って、言ってもわからないよな」
神ですら予測できなかった。
「カナズミシティ? お姉ちゃん、聞いたことある?」
「ないわ。まったく」
首を横に振り、否定するエンペルト。
「ハルキ君、そのカナズミシティってどこの大陸にあるの?」
「大陸? なんじゃそりゃ。地方ならわかるけど」
ハルキは鶴でポリポリと頭をかく。
「大陸も知らないなんて……もしかしてハルキってバカ?」
リコのこの言葉が気に障ったのか、
「ああそーですよバカですよっ!!」
ハルキは少しムキになった。
「ムキにならないの。そしてリコもそんなこと言わない」
「「はーい」」
そこをエンペルトがなだめる。
「とりあえず、カナズミシティは本当に遠い場所ってことね?」
「だろうなと思う」
ハルキはコクリとうなずいた。
「じゃあ、下手したら星すら違うかも。ちなみに、そのチホウって何ていう名前なの?」
「ホウエン地方だぜ。ホウエン地方のカナズミシティ。デポン社本部のビルがあるんだ。モンスターボールとか次々に開発して、結構大変そうなんだぜ」
分からない言葉が続き、リコは、
「ボウエンチホウ? テポンシャ? ピル? モンスターポール?」
おかしくなった。
「待て待て待て待て待て! なんか変なの混じってないかっ!?」
「アハハーセカイハバライロダァー」
――だめだ、突込みが追いつかない。諦めかけたその時、
「あ、まずいわ。リコー、まだアップルパイあるわよー」
エンペルトが魔法の言葉を言い放った。
「モンスターポールっ、テポ――はっ! アップルパイまだ焼いてるの!? 食べる!」
その言葉は効果抜群、リコはすぐに正気に戻る。
「ちょっと待って、今持ってくるから」
そういうとエンペルトは席を立った。
「はぁ……」
「ハルキー」
「あんだ?」
「単刀直入に聞くけどー」
「おう」
「バカなの? 死ぬの?」
「バカだけど死なねぇし! ってかどこからきたんだその台詞!」
「どこからって、知り合いからかなー。テヘッ☆」
「ウインクされても可愛くねぇからな。キモいだけだからな」
「キモいとは失礼な! 『つつく』!!」
「あだあああぁぁぁぁあああっ!!」
質問攻めの後『つつく』を受ける――まさに悪夢である。ハルキにとっては。