1‐5
「――フシギダネ?」
本当に些細なことがきっかけであった。
彼女――リコが散歩中に、彼を見つけたのは。
それは数分前のこと。
「じゃあおねえちゃん、行って来るね」
「いってらっしゃい。草タイプのポケモンには気をつけるのよ」
リコは、林檎を探しに出かけた。今日は珍しく姉がゆっくりできるので、お手製のアップルパイを作ってもらうのだ。もちろん、リコはそのアップルパイが大好きである。
それなりにリンゴも集まった、
「♪〜♪〜〜♪〜〜」
帰り道。
鼻歌を歌い、スキップをしながら楽しげにリンゴが入った籠を振るリコ。誰がどこからどう見ても、普通の♀ポケモンだ。♀で合っているが。
と突然、
「♪〜〜――いたっ!」
彼女は何かに躓き、転んでしまった。
「ったたた……いったい何が――」
起き上がり、振り向くリコ。そこには、
「――フシギダネ?」
仰向けになって眠っているフシギダネがいた。
☆☆☆☆
「おーい。生きてるー?」
リコは近くにあった木の枝でフシギダネの背についているつぼみのようなものをちょんちょんとつつく。
――ちょん、ちょん、ちょん、
ブスッ「
痛ぇえええっ!」
フシギダネは跳ね起きた。
「あ、生きてた。よかったぁ」
「『よかったぁ』じゃねぇっ! こっちはめちゃくちゃ痛かったんだぞ!」
「あはは、やっちゃった☆」
「『やっちゃった☆』でもねぇよっ! 普通は『ご』で始まって『い』で終わる言葉を言うだろっ!」
木の枝を刺したままリコに対して怒るフシギダネ。
「『ご』で始まって『い』で終わる言葉? それって――」
リコは一瞬考え、ぽんと手を叩き、こう答えた。
「――あぁ、『ごっつい』!」
「どこをどうしたらそんな答えがでてくんだよ……」
流石の彼も言葉を失う。
リコは素で言っているようだった。それ故に、これ以上怒る気にはなれなかった。
「で、なんでペンギンが喋ってんの?」
首をかしげ、フシギダネはリコにたずねる。
「ペンギンっ!? 失礼な! 私はポッチャマのリコ! 決してペンギンじゃないもんっ!」
『ペンギン』という単語に反応し、否定する。この際、ポッチャマが『ペンギンポケモン』だということは無視しておくことにしよう。
「ポッチャマぁ? 聞いたことねぇな」
フシギダネは目を細め、リコを観察する。
「……ん? ポッチャマ?」
とそこで、彼は違和感を覚えた。
「どしたの?」
「ポッチャマ、とか言う名前ってことは、ポケモンだよな」
「え常識」
「いや『ごめんなさい』が言えないお前に常識語られたくないし」
彼が鋭い突っ込みを入れる。それは正しいと言わざるを得ないだろう。
「とにかく。俺はポケモンと会話をしてるわけだ」
「何言ってるのフシギダネ君。ポケモンがポケモンと会話するのは当たり前だよ」
「お前こそ何言ってるんだよ。俺はフシギダネなんかじゃ」
「『あわ』っ」
リコは口から泡を出す。その泡は彼を映し出した。
「な、い……?」
映された自分を見て、彼は再び言葉を失った。
「ほら、どこからどう見てもフシギダネじゃん」
勝ち誇ったように腕を組むリコ。泡に映し出された自分を見て小刻みに揺れるフシギダネ。
そして、
「
何でフシギダネぇえええぇっ!?」
フシギダネは、どこぞやの海岸でどこぞやのポケモンが叫んだ変な言葉に酷似した言葉を叫んだのだった。