1‐2
嵐の翌日、
彼は目を覚ました。
まず目に入ったのは、青く澄み切った空。そして、白い雲。
すぐに上半身を起こし、この場がどこか確認する。そしてすぐに、ここは海岸だと理解した。
その後、
彼は違和感を覚える。上半身を起こしたときの目線が異常に低い……と。
立ち上がって(立ち上がったときも違和感を覚えた)海を覗き込むと、海面に橙(オレンジ)色の肌が映し出された。
「………………へ?」
目を覚まして
彼が最初に発したのは、とても間抜けすぎる声だった。
間抜けな声を出した後、何がしたいのかはわからないが、海面をじっと見たまま顔を叩いたり頬をつねったりし始める。そして海面から目を離し、自分の体全体を見た。
体全体が橙色でお腹はベージュ。そして、尾の命の炎。
彼の種族はヒトカゲだ。
自分の手を目の前に出し、グーとパーの動作を繰り返す。
「な……」
彼の体は小刻みに震え始めた。
「何で……」
ゆらゆらとゆれる尾に灯された命の炎。
「
何でヒトカゲぇえええぇっ!?」
彼は、変な台詞を叫んだのだ。
☆☆☆☆
変な台詞を叫んだのはともかく、
彼にとってここは知らない場所。とりあえず探索してみることにした。
まずこの海岸からは、いくつか崖が見える。結構高い。
次にすぐ近くに洞窟がある。そこからは、普通の洞窟ではなさそうな――そんな不思議な何かが感じられた。
そして洞窟の反対側になだらかな坂道があった。その坂道から上の方にいけそうだ。
「…………洞窟以外はけっこー変哲のないトコロやな……」
地元のポケモンが聞いたら怒り出すかもしれないが、事実そうだった。広い砂浜に青い海。洞窟と崖。そして坂。洞窟は滅多にないかもしれないが、崖や坂はどの海でも見かけるものである。確かに何の変哲もない海岸だ。
とそこに、
「ここが変哲のないところだってぇ? にいちゃん失礼な奴だぞー」
地元のポケモンがやってきた。頭と鋏が赤い、さわがにポケモンのクラブだ。
「夕方になると崖におれっちたちクラブが集まって泡を吹き出すのだぞー、そしてここからその泡が見えるのだぞー。その光景が綺麗なんだぞー。最近ちっちゃい
奴が毎日来てるぐらいに綺麗なんだぞぉー」
誇らしげに語るクラブにヒトカゲは、
「ふーん。そんなにエライんか?」
と興味がなさそうに尋ねた。ヒトカゲとクラブの質問合戦開始だ。
「そんなにすごいんだぞー」
「それって夕方しかないん?」
「そうだぞー」
「で、関係ないんやけど今起きたばっかりで時間間隔狂っとるんや。今は朝か? 昼か?」
「お前質問ばっかりだなー。今は昼の丁度太陽が真上にある時間だぞー」
クラブはそういった後、
「もうおれっち質問答えるのつかれたぞー」
ともうギブアップ宣言を発言した。質問合戦はヒトカゲの勝ちで終わった。
☆☆☆☆
「見たかったら夕方、ここに来ればいいんだぞー」
そう言ってクラブは茂みの中へと去っていった。
「クラブって洞窟に生息しとるんやないんか……?」
普通ならばそう考えるだろう。普通ならば。
確かにクラブたちの生息地は洞窟内だ。しかし、彼らはこの時間から崖に上らなければ夕方に間に合わないということを自覚している。その為、この時間から上るのである。
ヒトカゲは少し考えたが、数秒後興味がなさそうな顔をし、
「ま、ええわ。とりあえず、これから忙しくなりそうやから……今のうちに観光でもしにいくか」
何事もなかったように、足取りも軽やかに坂道を上っていった。