「裏」:夕陽色に染まりし臨むもの
ロケット団による完璧というまでの電撃作戦。
人々は新たなる政権に移り変わったことに何の違和感を持していなかった。
常に皆の憧れの存在として実力ある者としてあがめられていたポケモンリーグのチャンピオンがサカキに従うというのなら、それはサカキが凄いということだ。そういった思想連鎖が繰り広げられながら、迅速なテロ対策予防、潤滑な経済扶助効果を見てみれば世界はこのサカキという男を認めざるを得ないのだろう。
自作自演したテロ活動に会社の裏金を用いての賄賂……それは暴露されれば一大事となるかもしれないがそんなことを知る人間などごく僅か。そして今更そのような記事やニュースを持ち上げたとしても、世間は彼を認めてしまっている。ただのガセだとしか思わないだろう。
彼の用意周到さが招いたこの事態。そして彼は一体何を成し遂げようとしているのか?
なぜならこの国を乗っ取ることはまだ彼の計画の第一段階でしかないのだ。
現在進行しているミュウツーの開発、反乱因子の排除、組織の再編成、そうして計画は新たなる段階へとシフトしていく。
人々の間で伝播しているロケット団というイメージはシルフカンパニー社の率いている慈善団体という認識が強まっており、その活動内容はまさしく目を見張るものばかりだ。自然ポケモンの保護、ポケモン医療の促進、地方の町財政の見直し等……今ではどこに行ってもロケット団が全国にはびこっている。
そんな体制を敷いたサカキが成し遂げようとしていることとはなんなのか。
表社会では国に身をささげる献身家として噂され、裏社会では全てを掌握したヘッドとまで呼ばれる彼が成し遂げようとしていること。それは本人のみぞ知る。
「社長、例の三人は始まりの島へとたどり着きました」
ここはシルフカンパニー社の社長室。サカキの秘書が電子クリップボードを参照しながら報告書を読み上げる。
「そうか」
「しかしなぜあの三人を? それほどまでに危険要素も無いように思えますが?」
そう、三人とはジン、ガイ、モモのことであり彼らを島送りにしミュウに排除させよと言ったのはまごうことなき、サカキ本人であるのだから。
それは唐突に本人の口から出た命令であり、それによって彼らは始まりの島へと飛ばされた。
秘書がこういった疑問を投げかけたのは、三人は組織の末端団員であるにも関わらずロケット団設立当初より所属していたという点にある。
そもそもロケット団はサカキを筆頭に、彼が個人的に招集や勧誘をした十人にも満たないメンバーで構成されたものであった。ジン、ガイ、モモ以外のメンバーはそれぞれが幹部であったり、それなりの重役に就いている。各言う、この秘書もその内の一人であるのにもかかわらずあの三人の処遇は首を傾げるものがあるのは当然だった。
そしてここ数年でシルフカンパニー社にて小規模だったロケット団は今やサカキの新たなる代名詞とまでになるほどに膨れ上がり、この国には必要不可欠な歯車としての位置を確立したのだ。
ここまで来たならば彼ら三人にはそれなりの職が与えられるかと思いきやの処分命令とあれば秘書の疑問は全うなものだろう。
「彼らは私に恨みがあるからな。早いうちに越したことはない」
サカキはそう言いながら沈む夕焼けを社長室から眺める。その顔に目いっぱいの夕陽を浴びつつ。
まるでもはや興味がなくなったかのような物言いに秘書は眼鏡を一度持ち上げて、この話題に終止符を打つ。
「そうですか。それでは明日のスケジュールですが……」
後方で必要事項を淡々と述べる秘書の声を聞きながらサカキは夕陽を臨む。
『この世界を後何回苦しめれば、人は気付くのだろうか』
サカキは憂いの表情をつくり、内心で呟く。
彼の成し遂げたいこと、それは果たして……。
第六章:完