ポケモン不思議のダンジョン 探検隊レコード 闇と光と英雄と - 第1章 ポケモンになっちゃった
第3話 慣れない体
なんの準備もなしに飛び込んだ不思議のダンジョン。自分の力はどこまで通じるのだろう?ー



飛び込んだ洞窟は少し進むと広い部屋に出た。海岸らしく潮の香りが強く、時折大きな潮溜まりがあった。
「ふむ、ここが不思議のダンジョンですか。怖くてとてもじゃないけど行けないってほどでもないですね」
勢いよく飛び込んだが、そのままだとペースを崩してしまうためすぐに歩きに切り替えた。これといった脅威らしい脅威も無く、順調に探索は続く。
ああ、この程度なのか。と、レンファが安心した途端、背後から泥が飛んできた。気を抜いてしまっていたため、もろにかぶってしまう。気持ち悪い。
「なるほど。前言撤回、それなりのダンジョンってことにしておきましょう」
レンファは泥を飛ばしてきたカラナクシに迷わず近づくと、瞬時に蹴りを繰り出した。しかし、それは当たらずにカラナクシの前で空振った。
「うわっ!?」
そのまま勢いに負けて転んでしまう。体の記憶が人間の時のままで、距離を誤ったことに気付いた。
「くっ…やっぱりまだ慣れない…」
隙だらけの状態からすぐに立て直し、カラナクシとは少し距離をとった。しかし、カラナクシは追撃しようとしない。よく見たら、目を閉じて震えていた。どうやらあの蹴りは当たるものだと思っていたらしい。
いつまでも来ない衝撃に疑問を持ち、恐る恐る目を開くと少し離れて構えているリオルがいた。何が起こったかわからないが、どうやら攻撃されなかったらしい。
それをラッキーと思ったのかもう一度"どろかけ"を繰り出してきた。もちろん不意打ちでもない限りそうそう当たるものではない。
レンファは上に跳ぶことでそれを避けると、そのままカラナクシの頭に踵を振り下ろした。カラナクシは一撃で目を回してしまい、そのまま倒れた。
「そんなに強くはないですね。これなら大丈夫かな」
右手を開いたり閉じたりすると、違和感のない体と違和感のある体術に疑問を持った。
体自体は動かしにくいとか、バランスが狂うとか見たいな弊害はない。良くも悪くも、記憶をサッパリなくしてしまっているからだと思う。だけど体術は違う。この体で学んだことはまだないのに、先に体が反応した。変な言い方になるが、所謂『体が覚えている』というやつなんだろう。
「(ボクのこの体、___リオルの体はどうやら借り物などではなく自分のものみたいですね。ということはボクは本当にポケモンに…?)」
にわかには信じがたい上に、自分としては出来ることなら信じたくない話だ。もし自分の体が残っているのなら、その体に戻れる可能性はまだある。しかし、その戻るべき体がポケモンに変わってしまっていては、そんな希望もなくなる。レンファはこころなしか気持ちが沈んだ気がした。
「(いいや、そんなことばかり考えてても仕方ない。今ありえない話は今考えるべきじゃない。今はあの布袋を取り返すことだけに専念しよう)」
とりあえず目の前の目的だけ据えると、また深くない洞窟に歩を進めた。まだ一階だが、そろそろ階段を見つけてもいいはず。
その時、前方から話し声が聞こえた。一瞬奴らがたむろっているのかと思ったが、その声は妙に高い。気配も違うし、一人多い。
「怖くない…そうだ、怖くないぞ!こんなダンジョン、早く攻略してやるっ!」
「フラム。右側、敵。大声出すからなの」
「わあああああああ!!チェルぅ!助けてえ!」
「典型的なアホの子だね…うちのリーダーは。はっぱカッター!」
ダンジョンに挑んでいるとは思えないほど気の抜けた会話が遠くから聞こえてくる。それも聞き覚えのある声で。
「みなさん!?なにしてるんです!?」
「はぁっ!?えっ、ちょっと!」
敵がいる延長線上に急にレンファが現れ、それに動揺してチェルの"はっぱカッター"の軌道が暴れるようにブレる。少しでも防げれば、と両腕をクロスさせるが当たったものは一枚たりとも存在しなかった。
「あ、あんた!急に出てこないでよ!驚いたじゃないか………」
「す、すみません…。ですが、なぜあなたたちがここにいるんです?待っててくださいと言ったはずじゃ…」
「たった一人でダンジョンに行かせるわけにはいかないでしょ!」
自慢顔のフラムが胸を張るが、自慢にもならないほど逃げていたのは誰だろうか。
「自慢にもならないほどに逃げていたくせにドヤ顔してるんじゃないの。役に立ってから自慢して欲しいの」
もちろん、それを咎めないわけがない。クオンにそう言われてフラムはしょげてしまった。
「ま、まあ、それは置いといて。あなたたちは早く脱出してください。ここから先は僕一人で行きます」
巻き込みたくないからと一人でこの場所に来たのになぜ巻き込まれに来るのだろう。レンファはそれが今ひとつ分からないでいたが、それを考えるのは後にした。とにかく今はあいつらを追って、あの布袋を取り返さなくてはいけない。
「やだよ。あの宝物は私のものだもん。不思議のダンジョンに日和っちゃったけど…そんなことでも物怖じしてたら私の夢にはいつまでたっても届かない。だからその恐怖を克服するためにここに来たんだ」
さっきまで怯えて隠れていた者とは思えないほどの、強い意志を目の奥に秘めている。流石にその意志を見せられては引かせる理由を見つけられない。
「そうですか…。なら僕もこれ以上口出しはしません。ですが危険だと思ったらすぐ退避してくださいね」
あくまで、安全に、と。視線が飛ぶ。それの答えは首を縦に振ることで知った。四人は今、次の階に進む。



片手で数えられる程度、いや、それ以下の数の階段を上ると、すぐに終わりが見えてきた。どうやらかなり浅いダンジョンらしい。もちろん、行き止まりには意地汚い笑みを浮かべた、ズバットとドガースの二人がいる。
「こっちに気づいていないようですね…。僕があの丸いのを叩きます。お三方には、あのコウモリのようなやつをお願いできますか?」
至極まともな顔で平然と似ているもので呼ぶ。フラムもさすがに苦笑いを見せた。
「ズバットとドガースだよ…。わかったよ。じゃあ、あっちのドガースをお願い」
レンファは「なるほど」と言いながらブツブツと小声で彼らの種族を呟いていた。
「それでは…行きますよ」
目に止まらぬほどの速さで一気に駆け抜けると、ドガースに真上から浴びせ蹴りを食らわせた。ダメージを受けたことさえ分からずに地面に叩きつけられ、ボールのようにバウンドする。
「今です!突撃!」
相方が蹴りを受けて宙を舞う絵を見て、頭が混乱している時にさらに畳み掛けるように襲撃。混乱した頭では簡単なことさえも考えられず、「え!?」という疑問符を浮かべたまま必死に首を振り回している。
「必殺!ムーンサルトキィーック!」
一番についたフラムが飛び上がりながら回転して、強烈な蹴りを浴びせた。その一撃でバランスを崩したズバットはフラフラと紙飛行機のように落ちる。
「ん、んなろぉ〜、よくも…!」
「あたしもいるのさ!よそ見してんじゃないの!」
チェルが頭に映える大きな葉を振ると、三日月型の木の葉の刃がズバットに向かって飛ぶ。取り囲むように放たれるそれは四方からズバットを狙い、攻撃がワンパターンにならないように変化をつける。それをすることで何倍も攻撃が当たりやすくなるのだ。
「くそっ、くそっ!くそおっ!こんな…やつらに!」
「戯れ言を…。あなたみたいなザコが私たちに手を出すことは許されないの。タマゴからやり直してくるの」
クオンがトドメとばかりにサイコキネシスで動きを止めた。
「いいわ、レンファ。お膳立ては済んだの。思い切りブチかましなさい」
ドガースをボールのように弄んでいたレンファはその言葉で大きく蹴り上げると、落ちてくる瞬間にタイミングを合わせて足を振り抜いた。今度は空振ることなく命中した。
吹き飛ばされたドガースは緩めのカーブを描くと空中で止められていたズバットに直撃した。鈍い音が響き、もろとも壁に叩きつけられた。二人はすでに目を回していて、起き上がる気配などはない。
「口ほどにもないですね。本当になんだったんですか?こいつら」
「さあ。今の私にはこいつらがただのザコという以外は知ることはないの。フラム、宝物はあったの?」
「うん、大丈夫。中も傷ついてないし…カンペキ!」
落ちていた布袋をいそいそと首にかけ、中身を確認すると笑顔を見せた。
「さ、出ましょ?こんなところに長居する理由なんてないわ。ホラ、行くよ」
チェルシーが手に持っていた青色の玉を叩き割ると、黄色い光が四人を包んだ。それに気づいた頃には、彼らはもうダンジョンからいなくなっていた。




■筆者メッセージ
先が書けません。北海道在住者です。
ネタ切れってわけじゃないけどコツコツ書くタイプじゃないのでね…
集中しないと書けないので執筆速度が遅いんですよ…
北海道在住者 ( 2016/05/03(火) 18:54 )