第20話(1) 決着、イジワルズ 〜side ティーエ〜
とうとうイジワルズと戦う事になったレオパルドの面々。それぞれの思いを胸に決着を望む。勝つのはイジワルズか、レオパルドかー
鬱蒼と茂る木々の中、森は異様な程静まり返っていた。普通なら、鳥ポケモン達の囀りが聞こえ、虫ポケモン達もおしゃべりをしている時間帯だ。ただ、今日は様子が違った。鳥も虫も、果ては風に流され音を出す草達も、黙り込んでいる。
すると突然、森の外れの隙間から自然が豊かなこの場所では、不似合いな爆発が起きた。煙の柱が立ちのぼり、不規則な地響きが何度も起こる。その全ての原因はとある救助隊同士の衝突に根付いていた。
*
「らぁ!掌雷!」
「ウゲゲッ!あ〜ぶね」
「剣技、十二月が一つ、如月!」
「アラ、見切りよん」
「え〜い!電光石火!」
「あらよっと!残念、おしかった」
突き出した手のひらは難なく避けられ、多数の斬撃波は軽々と見切られる。ティーエの突撃も、そう簡単には当たらなかった
海斗はゲンガーと。
甲賀はチャーレムと。
ティーエはアーボと戦っていた。
〜side ティーエ〜
「あーもう!むかつく!」
さっきから全く攻撃が当たらず、ティーエはイライラしていた。電光石火もシャドーボールも直前で避けられてしまう。なんかこう、にょろーんって感じに。
「お?もう終わりか?ならこっちから行くぜ!蛇睨み!」
蛇睨み__鋭く光る眼光で、相手を痺れさせる技だ。まともに当たってしまえば麻痺状態になるのは避けられない。
黄色く光る威圧的な目を見てしまい、体が動かなくなってしまう。
「く……しまっ…た……」
気づいた時にはもう遅かった。
「さて、トドメだな。毒針!」
ティーエの肩に小さな針が刺さる。急に体が重くなり、徐々に視界が歪んでいく。更に、アーボの”巻き付く”まで加わる。
「悪いな。ここで死んでもらうぜ」
少しずつ巻き付く力が強くなっていく。視界は歪んだ状態から暗くなっていき、抵抗する僅かな力さえも奪われていく。
「まだ……負けない……」
「強気だねぇ。なら、これでどうだ?」
巻き付く力が一気に強くなった。隙間なく私に巻き付き、締め上げる。
「か……は………」
体がもう耐えられないと言っている。骨は軋み、いろんな所が次々に私に限界だ、と、痛みで伝えてくる。
「ティーエ!今助けてやるからな!!」
ああ、カイトの声が聞こえる。必死な声で私に語り掛けてくる。私も必死に目を開け、声が聞こえた方向を見る。カイトに応えようとするが、声はとうに出なくなっていた。
「余所見とは、いい度胸してんじゃねぇか!ケケッ!」
「今はてめぇなんかに構ってらんねぇんだ!」
飛びかかってきたゲンガーに対し、的確にパンチを頬にめり込ませた
「ウゲゲゲゲゲ〜〜!!」
奇妙な声を出しながら飛びかかった方向とは反対側に飛んで行くゲンガー。その時見えた表情は笑っているように思えた。
それはすぐに確信に変わる。
「ぐおああっ!?」
何もされていないのに海斗がいきなり吹っ飛ばされたのだ。
「………!!」
カイトの名前を呼んだはずなのに、かすれた声が出ただけで終わった。
海斗は受け身を取り、本来飛ぶはずだった距離を大幅に減らす。
「でたな。リーダーお得意の戦法が」
そこでアーボ呟いたのだ。
「相手に飛びかかり、気付かれないようにみちづれを仕掛ける。耐久力に自信があるリーダーにしか出来ない芸当だ。みちづれのタイミングも手際も良い」
カイトが殴ったダメージ分だけ、カイトに跳ね返ってきた。だからカイトは吹き飛ばされたんだ。
「カイ…ト……」
とうとう呼吸すらもままならず、苦しさが増す。身動きが出来ず、息も覚束ず、毒に犯され、抵抗する力もない。状況は絶望的だった。
「(もう………だめ…かも)」
次第に、保っている意識さえも薄れて行く。「カイトが助けに来てくれるから」と思い、暗闇に落ちそうな自分を必死に踏みとどめる。
ただ、時間が経つに連れ、そんな考えも消えていく。何時しか、自分が耐えている理由すら分からなくなった。
「(私、誰を待ってるんだっけ。そもそも此処はどこだっけ?………分からないや。取りあえず、眠い。もう寝ちゃおうかな……)」
ティーエが、自ら意識を手放そうとした時だった。
「ティーエー!」
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと熱いよ。ねっぷう!」
遠くから来たポケモンは”ねっぷう”を出してアーボを焼いた。
(普通に書いたけど、絶対に真似しないように。)
「ぎゃあっちぃ!?」
体が熱い風で焼かれ、所々着火する。アーボは火を消そうと躍起になり、ティーエを解放した。
解放され、支えられていた体は力無く地に倒れた。
「ティーエ!大丈夫か?」
ティーエを助けたポケモンは、ティーエに駆け寄り、抱きかかえた。
「ティーエ、いやしのタネだよ。食べられる?」
口元に固い物が触れる感覚がある。私はそれを食べる。タネは外側が固く、中が柔らかい物が多いから、そんなに抵抗はなかった。
体の痺れが消え、歪んでいた視界は一気にクリアになる。呼吸もいつも通りのものに戻った。その時私の目に映ったのは自分の兄であるロイとレイトだった。
「お兄ちゃん!?どうしてここに?」
「プルーフって子供から聞いたのさ。んで、居ても立っても居られないから来た」
思ったよりストレートな答えが返って来たので苦笑いしか出来なかった。
「まぁいいか。それより、ティーエは休んでてね。僕と兄さんはちょっと運動してくるから」
レイトがそう言うと、二人はやっと火を消したアーボに向かって歩き出した。
「さーって、内のかわいこちゃんをいじめたのは誰かな〜」
ロイは首を捻り、コキコキといい音を立てる。レイトもまた、背筋を伸ばしロイと呼吸を合わせる。二人が共通している部分は、どちらも威圧的な笑みと手加減無しの制裁を加えようとしている所だった。
「兄さん、一緒にやるよ」
「おう!いいぜ!」
二人ともアーボに向かって走り出した。当のアーボは恐怖ですっかり固まっている。
「ニトロチャージ!」
技が発動され、レイトの体を炎が覆う。そのままアーボに突撃した。肉が焼かれる嫌な臭いがしたが、レイトは構わず次の行動に移った。
「ファイアッパー!」
頭を振り上げ、アーボをかち上げた。紫色の蛇は為す術無く宙を舞う。
「トドメだ!スパイクボルト!」
ロイはいつの間にか高く飛び上がり、アーボの真上にいた。体を丸め、毛を逆立たせる。それから回転を開始し、アーボを潰し、地面に叩き付けた。毛の生える方向から撫でつけたので、刺傷より切り傷が多い。
「いっちょ上がり。周りの奴らは?」
文字どおりあっという間に倒してしまった二人、レイトの表情はあまり変わらず、ロイはどことなく物足りなさそうであった。
カイトの方を見るとゲンガーがうつ伏せで倒れていた。甲賀もチャーレムには勝利しているようで、剣を向け、下すように睨み付けていた。チャーレムは血が流れる肩を押さえている。
「(よかった、私達勝ったんだ)」
ティーエはその場に腰を下ろし、安堵の溜め息をついた。
勝者、ティーエ、ロイ、レイト。救助隊レオパルド、勝利。