第19話 それぞれの怒り
ストライク達の発言とイジワルズの行動にとうとうキレてしまった海斗。はてさてどうなることやら?ー
〜あやしい もり 最奥部〜
「あーあ、見えなくなっちゃった」
ストライク達と戦ってから走り続けていたので、ティーエはもうヘロヘロだ。隣では甲賀も息を荒げている。
「あの人、いったいどこにあんな体力が……」
二人は海斗を追ってここまで走って来たのだ。当の海斗は既に見えないくらい遠くに行ってしまっている。
「しょうがない、歩こう」
止まっていた歩を進め、海斗の身を案ずる。
「海斗さん、何か怒っていませんでしたか?」
「あ、あれね〜…」
とりあえずストライク達と戦った時の経緯について話した。
「そんな事が………」
話を聞いた甲賀は黙ってしまった。
「救助隊なのに泥棒って酷い話だよね!そいつのせいで、他の救助隊の人達まで示しがつかなくなっちゃうもん!」
まったく、その通りだ。おかげで僕達が襲われたんじゃないか。
………何かムカついてきた。
甲賀の足が自然と早くなる。
「ちょっと、早い、早いってば!待ってよ、コウガ〜…」
どことなく悲しい声が聞こえたのは知らない事にした。
*
「…………………………」
息も切らさず走り続けているのは、一匹のポケモン。海斗だ。
イジワルズのやり方に腹を立て、全力でこの森を抜けようとする。
するとすぐに、光が見えた。出口だ。一層スピードを上げ、木のトンネルをくぐり抜ける。
しかし、トンネルを抜けた先には驚きの光景が海斗の目に映った。
「お、遅かったな弱小救助隊」
なんと、イジワルズが先にあやしいもりを抜けていたのだ。さまざまな考えが浮かんでは消えて行く中、救助失敗の文字がちらつく。
そこで海斗は気づいた。依頼のトランセルがいないことに。
「どけ。最高にお前らをぶっ飛ばしたい気分だが、救助の方が先だ」
そうだ、俺は救助隊。救助隊の本文は誰かを助ける事。争う事が目的じゃない。
自分にしっかりと言い聞かせ、激しく燃える怒りの炎にゆっくりと蓋をした。
しかしイジワルズはどかない。それどころかこっちを嘲笑うような笑みを浮かべている。
「同じ事は二度も言いたくないんだけどな。まあいい、お前ら。どけ」
「ケケッ、どかないねぇ」
海斗は森全てに届くのではないか、というくらい大きな舌打ちをした。
「いい加減にしろ。どうしてこうも絡んで来るんだ?お前らは。いい歳こいて、かまってちゃんなのか?」
ゲンガーは海斗の発言に「違うわ!」と一言ツッコんでから話し始めた。
「あの時言ったろ?俺達は世界征服を企んでるってよ」
そう言うのって言わないほうがいんじゃね?と心の中でツッコむ海斗であった。
「キャタピーちゃんのママからお金をたんまり頂いて、ついでにキャタピーちゃんも仲間にするのさ。世界征服もまた近づくってもんよ」
黙って話を聞いていれば、なんか、こいつらは救いようもない
バカなんじゃないかと思い始めた。
一個人から貰える金額なんてたかが知れてるし、……言っちゃ悪いが、キャタピーもそんなに強くないと思う。
「そのためにお前らの邪魔をするのさ!悪いがくたばってもらうぜ…!」
「ふん、二回も一撃KOされたやつが何言ってやがる」
「う、うるせぇ!あん時ゃ油断してただけだ!」
「ザコの常套句じゃねぇか。今日はテンションが高いんだ。一つしかねぇ命大切にしろよ…!」
一定の距離を保ち、海斗とイジワルズが睨み合う。お互いがお互いの出方をうかがう中、海斗の後ろから突然、紫色の球体と斬撃が飛んで来た。
「ウケゲッ!?」
2つの攻撃はイジワルズに当たるかなにかして炸裂し、土煙を上げる。
「おせーぞ。俺一人で片付ける所だったじゃねぇか」
森の出口に二つの人影が映り、光によって顔が見える。
こういった攻撃をするのは俺の記憶の中じゃ二人しかいない。
「海斗早いよぉ〜。甲賀も先に行っちゃうし……」
「すいません。海斗さんが暴走してイジワルズの連中をボコボコにしてないか、少し心配になって。あんなクズでも、一応生きてますし」
「クズって………」
甲賀の中のイジワルズの評価がとんでもない場所まで行っているのがわかったティーエだった。
「ゴホッ…ゴホッ…」
煙の中咳き込む声が聞こえ、三人は煙を見つめた。少しずつ晴れていき、イジワルズが見えた。
「チッ、生きてたのか………」
甲賀の方から聞こえた言葉は無視する。
「おい、お前ら!不意打ちとは、卑怯だぞ!」
この言葉に一番反応したのはやはり甲賀だった。
「へぇ、そうですか。あなた達が卑怯という言葉を使いますか。その言葉そっくりそのままあなた達にお返しします下衆共が」
「なんだと……」
甲賀の苛烈な言葉責めが始まった。
「あなた方は僕らに卑怯と言いましたね?では問いますが、プルーフ君はあなた方の仲間になりたいと、一言でも言いましたか?言ってないですよね?それなのにかってに話を進めて、プルーフ君が断れない状況にまで持っていった。プルーフ君は優しいから君達の誘いは嫌々ながらも聞いてしまうでしょう。そしてプルーフ君に世界征服という悪の方棒を担がせ、いらなくなったり、都合が悪くなったら簡単に切り捨てる。その時のプルーフ君は自分の優しさの為にやってきた事を悔やみながら生きていくでしょう。それでプルーフ君に残るのは一体何ですか?幸せですか?君達がプルーフ君に残すのは一体何ですか?自分達が償うはずの罪ですか?一生消えない罪の意識と心の傷ですか?違うって言うなら、是非とも教えて貰いたい。第一世界征服とやらが成功する確率は?資金は?人脈は?一体どこにあるのです?それに失敗した時のリスクは?そういったものを全て考えた上で世界征服と言っているんですね?………………ほざくなよ貴様等」
今まで淡々と話していた甲賀はそこでやっと怒りを見せた。
「デカい事言うのは口だけで、蓋を開ければすっからかん。そんな事にプルーフ君を巻き込むな!」
甲賀も海斗に負けず劣らずかなり怒っているようだ。そこで海斗が甲賀を少し抑えた。
「落ち着け甲賀、怒りは動きの全てを鈍らせる。頭も体もな」
甲賀もまた自分の感情に蓋をした。開けるその時まで熱をこもらせる為に。
「ありがとうございます。少し冷えました」
「ならいい。ところで二人共、この人達はどうやら俺達にはくたばってほしいらしい。さあ、どうする?」
そこまで言うと三人は腹黒い笑みを浮かべた。
「それは戦うしかないですね〜、そうでしょう?ティーエさん」
「そうだね〜、通してくれないならしょうがないよね〜」
「…………………………(汗)×3」
海斗も、甲賀も、ティーエさえもイジワルズと向き直る。
「さあ、始めようか。救助隊どうしの戦いを」
海斗の笑みは、イジワルズの三人にとっては薄ら寒いものでしかなかった。