第18話 海斗、キレる
イジワルズ、再度襲来。難なく撃退。キャタピーのプルーフから依頼を受け、あやしいもりに行く一向。二度ある事は三度あると言うがー
〜あやしい もり1F〜
「らぁ!掌雷!」
「…………………!!」
声も無くウリムーは吹き飛ばされ、壁に激突する。
「弱いな。別にいいけど」
突然強い相手が現れ、為す術も無く全滅しましたなんて、笑い話にもならない。
弱い相手が出て来てくれるのは安全に進めるが、それだけレベルが上がりにくいとも言える。
今の隊列は海斗を先頭にティーエと甲賀が横に並んで歩いている。どの方向から敵が来ても迎え撃てるようにと、海斗が考案したものだ。
「急ごう、イジワルズの奴ら負けてらんないもん!」
「落ち着けって、急いては事を仕損じる。こういう時程落ち着いた者勝ちさ」
「うー…」
自分の意見が否定され、ちょっとだけ落ち込むティーエ。そんなティーエに気づかないふりをして、こっそりフォローを入れる。
「次に会ったら、宇宙の果てまでぶっ飛ばしてやる」
この言葉にはティーエも、甲賀さえも頷いた。
〜あやしい もり8F〜
「だいぶ進んだか?」
「結構歩いたよね。そろそろついてもいいと思うんだけど……」
さっきまでの殺伐とした雰囲気はどこへやら、一層のんびりとしている三人。
しかし、その三人を付け狙う、イジワルズとはまた別の影があった。
「お前は向こう、俺はあっちに行く。お前はこの位置を動くあいつらに合わせてキープしろ」
「「わかった」」
「よし、なら解散…!」
声と共に、何かが移動する音が小さく鳴った。
海斗はその音を敏感に感じ取り、自分の斜め上を見つめた。
気のせいだと思ったのか、直ぐに視線を外したが、その視線の先には、影の一つが捉えられていた。
「(バレたか?あいつ感が良いな)」
影に関心させる程、海斗は確かに捉えていた。
〜あやしい もり9F〜
海斗はイライラしていた。
さっきからずっと視線を感じる。階を挟めば消えるだろうと思っていたが、それはしつこく追い掛けて来た。
「チッ………」
「どうしたの?」
そんな事は露知らず、呑気にリンゴを食っているティーエ。
その時、甲賀が近寄って来て、耳元で呟いた。
「どうしますか、ずっと付いて来てますよ」
甲賀も気づいていたらしく、しっかりそう言った。
「今は泳がせろ。広い所に出たらその時は、な?」
「………はい」
この狭い通路で戦うのははっきり言って得策ではない。動きが限られるし、挟まれた後、上から不意打ち。なんてことになりかねない。
「(気を引き締めるか…)」
大きく息を少し溜めてから吐き出す。これに特に意味は無いが、落ち着く…気がする。
それからしばらく歩いたが、思うような広い所は見つけられず、階段のある部屋に辿り着いてしまった。
「結局、でしたね」
「だな」
尾けて来てる奴らにバレないように情報を最小限に留めて会話する。
「なんの為だろうな」
「わかりません。でも、来ないですよね」
「そこなんだよな。うーん………」
端から見れば全く訳がわからない会話をしているが二人の間では通用していた。
「(バレているのか?…まあいい、次で作戦開始だ)」
海斗達に見つからないように手を振って仲間に合図を送る。
「(了解)」
「(了解)」
2つの信号を確認すると誰もいなくなった階段に向けて、影は歩みを進めた。
〜あやしい もり10F〜
階段を上ると、変に開けた場所に出た。多分大部屋と言ったほうが正しいだろう。ちょっと目を遠くにやるだけで階段が見える
しかし、ここから連想する言葉は一つしかない。
__罠。
「みんな、戦闘準備!」
先に仕掛けるつもりだったが、嵌められてしまった。
「(くそっ、俺のミスだ!)」
直後、とても素早い何かが横切った。振り向く間も無く、それは俺の目の前で止まる。
体が緑色で羽の生えた両手が鎌のポケモン、ストライクだ。
「…………………」
「誰だ?あんた」
問い掛けに返答は無く、ストライクは右手をこちらに向けた。
「殺す………」
呟くように言った言葉が届くと同時に相手は襲い掛かって来た。
「速っ…!?」
見えてはいるのだが、目で追えない程のスピードで向かってくる。
「危ない!」
気づいた時にはもう目の前まで迫っていた。体が追いつかず、斬られる事を覚悟したが、甲賀が前に出て剣で鎌の軌道をずらした。
攻撃がガードされたことで警戒し、ストライクは大きく後ろに飛んだ。
「剣を持っている僕が有利です。援護をお願い出来ますか」
そう言われると、海斗は小さくため息を付いた。
「敵は三人いる」
「その意味は?」
「俺にも戦わせろ」
海斗は不適な笑みを顔に写した。どうやらスイッチが入ったようだ。
「1対1と乱闘、どっちがいい?」
甲賀もまた、不適に笑った。
「サシで」
「任せろ」
海斗は後ろを向くと、木に向かって電気を放った。
「!!!!」
「!!!!」
電気が木を穿つ寸前、二つの影が飛び降りた。
影の正体は二人のストライクだ。簡単にこいつらがグルだって事がわかった。
「かくれんぼは終わりだ。さ、一丁やるか!」
この言葉で辺りが静まり返った。真剣な空気が漂い、どちらかが一歩でも動いたら勝負開始だ。そして、ゴングを鳴らしたのは甲賀だった。
「剣技、十二月が一つ、如月!」
剣を逆手に持ち替え、大振りに振り上げた。剣からは大量の真空波が出現し、敵のストライクに向かって行く。しかし、ストライクは動かず、その場で深呼吸をして目を閉じた。
「(何をやっているんだ?)」
ストライクは目を見開き、なんと迫り来る斬撃を自分の鎌で砕いた。
「なっ…!」
見る見るうちに向かう斬撃は砕かれていく。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」
最後の一つを砕くとまた深呼吸し、甲賀を睨み付けた
はずだった。
甲賀は既にそこには居なかった。
「どこへ…?」
焦る様子は無く、余裕を持って辺りを見渡す。
「こっちさ」
声が聞こえたのは背後。瞬間、ストライクの背中に痛みが走った。多分背中を斬られたのだ。
痛みに顔をしかめながらも甲賀を振り払う。
「やるな…」
「ありがとうと、言っておきましょう」
二人は向かい合い、また睨み合いを始める。次の一撃で決着はつくのか。
〜一方海斗の方〜
「電気ショック!」
ストライクに向かい、電気を放つ。しかしよけられ、技後の隙を狙う為に、もう一人のストライクが海斗に接近する。
「忘れないでよねっ!」
紫色のエネルギー体が近づいてきたストライクを確実に射止め、決して小さくないダメージを与える。
「クッ………」
「油断するな。奴ら、出来るぞ」
ストライク達は小さく言葉を交わした後、ある行動に出た。
「こうそくいどう!!」
ただでさえ速い二人は更に加速した。そのまま攻撃してくるかに思えたが、海斗達の周りを飛び始めた。スピードで混乱させようとしているのか。
「ハッ、撃ち落としてやる!電気ショック、放射!」
海斗の周りに電気の膜が出現し、どんどん広がっていく。
唐突の出来事にストライク達は思考と判断力を鈍らせ直撃してしまう。
「ぐああっ!」
「ガ……!」
威力が低いと言っても、効果抜群の技を食らって倒れてしまう。しかし、ストライクはそこで信じられない言葉を口にする。
「くそっ、この泥棒め…」
「泥棒………?」
海斗は腹が立ってきた。いきなり攻撃され、仕方なく返り打ちにしたら泥棒呼ばわりされる始末。
「そりゃいったいどうゆうことだ?」
「惚けるな!昨日の昼、お前が俺達の家宝を盗んだんじゃないか!」
「なっ………」
どうやらこいつらの頭の中じゃ、海斗=泥棒だと思っているらしい。流石に我慢の限界だった。
ストライクの胸倉を掴んで自分と同じ目線まで引き上げる。
「ふざけんな!俺達、救助隊舐めんな!第一どこの世界にそんな…やつ…が…」
言っててピンときた。どういったトリックを使ったかは知らないが、多分__
イジワルズの奴らだ。
ブチッあ、やべ。何か切れた。もういいや、言っちまおう。
ふ、ざ、け、る、な、よ、あ、の、ゴ、ミ、虫、共、が一応、勝者、海斗&ティーエペア
〜一方甲賀の方〜
「せやっ!」
「ふんっ!」
振り下ろす剣と振り上げる鎌が重なり合い火花を散らす。
最初の甲賀の一撃以来ストライクは警戒し、いくら踏み込んでも攻撃が届かないのだ。
しかも度重なるぶつかり合いでお互い体力を消耗している。次の一撃が勝負を決める事になるだろう。
「(この技はあんまり使いたくないんだけどな…)」
そんな事を考えていると、真上から勢いよく鎌が振り下ろされた。
とっさに剣を振り上げ、受け止める。
「あぶなっ!?」
「戦闘中に余所見とは、いい気なものだな!」
どうやら今ので余計に怒らせてしまったようだ。
「(やるしかないか…!)」
鎌を振り払い、十二月の中でも強力な物を準備する。
「………!?」
急激に増えた殺気に、思わずたじろいでしまうストライク。それでも立ち向かおうとはする。
「(どうか生き残ってくれよッ!)」
「剣技、十二月が一つ!神無月」
甲賀はその場で幾度も突きを繰り返した。それは衝撃波となり、大量の刺突の嵐は真っ直ぐにストライクへと向かっていく。
「……………」
ストライクは抵抗をやめた。
強力な爆裂音が鳴り響き、全て命中したことがわかった。本当は当たってはいけないのだが、やってしまった以上どうにもならない。
しかし、砂煙の中に一つの影をみた。
「クッ………」
ストライクは生きていた。顔は苦痛で歪み、ボロボロではあったが生き残ってくれていた。
「俺の……負けだな……」
それだけ言うと、力尽きて倒れてしまった。
「あなたもです。お疲れさまでした」
勝者、甲賀
休もうと腰を下ろすが、本気でキレた海斗の殺気に押され、結局休まず次に進む事になった。