第16話 世界征服
ゴールドランクの救助隊を初めて見た彼等は、改めて気合いを入れた。怪しい影が近くにいたことも知らずにー
「…………………………」
「あ、カイト。おはよう」
何の事は無い、今目が覚めた所だ。って前もおんなじこと言った気がする。
「…ああ、おはよう」
とりあえず、寝ぼけた頭を無理やり起こす為に顔を洗う。簡単なことだ。手で水を掬い、顔にぶつける。その度に、ぱちゃっ、と気持ち良い音を立てる。
顔を洗い終えた俺は、「メガネ、メガネ…」のリズムでタオルを探す。勿論メガネなんかしちゃあいないし、声にも出しちゃあいない。その時、濡れた顔に何か柔らかい物が当たった。
「それで顔を拭くといいよ」
ティーエの声が聞こえた。渡されたタオルで顔に残る水気を取り、ぼやけた視界が、一気にクリアになる。
基地の中にはティーエしかいなかった。
「ん?甲賀とジストさんは?」
「甲賀は外で何かやってる。お姉ちゃんは、ほら、これ」
口頭で説明される物だと思っていたが、どうやら違うようだ。渡された手紙の内容はこうだ。
「また旅に出るわ。他のみんなに連絡はしたから、早ければ明日にでも来るんじゃないかしら。それじゃ、元気でね」
と、書いてある。
「なんだ、行っちまったのか。ジストさん」
「お姉ちゃんは元々放浪癖があるから、気にしないけどね」
そう言うティーエの顔はなんとなく寂しそうに見えた。
「さ、今日も救助頑張ろ!」
「ああ、そうだな」
救助隊基地を踏み出した時だった。
「ここかい?レオパルドってダッサいチームがある所は?」
目の前には、見たこともない奴らが並んでいた。近くに居たのだろう、甲賀も姿を現した。
「なーんもねぇや。つまんねぇの」
「殺風景にも程があるねぇ」
「こんな所で救助やろうなんて奴の気が知れねぇぜ。ケケッ!」
「……………………(怒)×3」
次々と浴びせられる罵詈雑言に怒りを募らせ、静かに、それでいて強烈な殺気を放つ。それに気づいていないのか、奴らは更に近づいてきた。
「なんなんだてめーらは」
「あっ、ポストがあるよ!」
人の話を聞け〜♪ってギャグやってる場合じゃねぇ。
「待てっつーの!」
「ホントだ!中見ちゃおうぜ!」
5分だけでもいい〜♪って勝手に見てんじゃねえ!
「ちょっと待ってよ!なにするの!?」
とりあえず話し合いで解決しようと、ティーエが奴らに食って掛かった。しかし、
「お嬢さんは黙ってな!ケケッ」
紫色の顔から手足が突き出たような奴、ゲンガーに突き飛ばされてしまった。
吹っ飛ばされたティーエを受け止め、奴らを睨み付ける。
「あいつら、ムチャクチャやりやがって…大丈夫か?」
「う、うん…」
この時、俺は気づいてなかった。ティーエを、いわゆるお姫様抱っこをしていることに。無論、絶賛赤面中である。
「おおっ、依頼が入ってる!」
「これは美味しいわねぇ」
そのまんま蛇のポケモン、アーボと、足全体が何かに包まれている、ニッカポッカみたいな、チャーレムというポケモンが言った。
「全部頂くことにするか」
ゲンガーはポストの手紙を全部引きずり出してしまった。三つくらいしか入ってなかったけど。
「もう止めてくださいよ!」
甲賀もまた、奴らに向かって言い放つ。
「その依頼は全て、僕達に充てられたものです!手紙を書いた人達は僕達なら出来るから、手紙をここに送ったんです!言わば手紙は信頼の証し!それを横取りするなんて、悪党のすることですよ!」
「ケッ、知ったことかよ。そんなこと」
ゲンガーは吐き捨てた。
「誰がやったって同じだろ?解決すりゃ、いいじゃねぇか」
「なんだと…?」
「なんだって…?」
「なんですって…?」
彼等はとうとう怒りの臨界点を突破した。その後も、チャーレムが
「あたし達も救助隊なのよ」とか、
「救助隊って建て前があると何かとごまかしが効くだろ?」などと言っていたが、それは火に油どころか、ガソリン、火薬、ニトログリセリンなど、爆発物のオンパレードが大量に彼等の怒りの炎に注ぎ込まれて行く事となった。
途中「世界征服」という言葉が聞こえたが、今の彼等には何の意味もなかった。
「とまぁ、俺達が人呼んで悪の救助隊、イジワルズさ。ケケッ!」
ゲンガーは気付かなかった。彼等の様子がおかしいことに。
「あン?ケッ、コイツ等震えてるぜ。どうちたんでちゅか〜、俺達が怖くなっちゃいまちたか〜。ケケケケケケケッ!!あ〜あ!傑作だ!最高に面白ぇ!!」
「「あはははははははははは!!」」
それが最後の起爆剤となった。
震えは一気に止まり、今度は死んだように動かなくなった。
「あ〜あ、面白かった。ありがとよ弱小救助隊!今日は最高の日になりそうだ!」
甲賀は剣を抜き、海斗は電気を溜め、ティーエは紫色のエネルギー弾を作り出し、それを一度飲み込んだ。全員の戦闘体勢は整った。
「……ろす」
「ん?小さ過ぎて聞こえねぇな。しょうがねぇ、もう一回きいてや__」
「ぶっ殺すって「言ってんだ!」言ったんだ!」言ったのよ!」
溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させ、三人が使える最大の技を放った。
「10万ボルト衝撃波ァ!!」
「シャドーバークアウトォ!!」
「剣技、十二月が一つ!水無月!!」
海斗の手からは、黄色い球体、ティーエの口からは、紫色の光線、甲賀の剣からは水色の真空波が放たれた。
「死ねーーーーーーーーッ!!!!」三人が放った技は途中で合体し、一直線にイジワルズの奴らに向かって行った。
「え…………」
誰の物かわからない悲鳴と、謎の煙の柱が立った事は、ポケモン広場のちょっとした話題になっていた。