第15話 喫茶・鳥の巣
海斗の力と甲賀の力、それは同一の物か。違う物なのかー
時刻は深夜。とある建物の中には四匹のポケモン達が眠っていた。その中の一匹、ピカチュウこと海斗は、なにやら夢を見ていた。
<夢の中>
…また…ここか…
…やっぱり…誰かいる…
……あんたは…誰なんだ…
あ……何だって?…
…人間?…役目?…
!!…待て…消えるな……!
もう少し…話を……
<救助基地内>
「聞かせろっ!」
寝起き開口一番第一声がこんな言葉だと、幾ら清々しい朝でも、結構台無しになりそうな気がする。
周りを見れば誰も起きておらず、時刻もまだ朝早くらしい。
「…いったいなんなんだ…?」
度々見るあの夢は自分の頭の中の悩みを増やすだけだったが、新しく分かった事がある。
「(あいつは確かに、人間、と言っていた。何か関係があるのか…?)」
静かに黙考するが、情報が少な過ぎて何も思い付かなかった。
「(また会えるかな…)」
俺は二度寝することにした。あの夢を見ることは出来なかったが、気持ち良く眠れた。俺が目を覚ました時に、タイミング良くみんなも起きた。
今日は良い事あるかもしれない。
<ポケモン広場>
〜side 海斗〜
朝と昼の間くらいの気持ちいい時間帯のころ、広場を通る四匹のポケモン達がいた。
「今日は何をしようかな♪」
ティーエは何となく嬉しそうだ。いつもなら、「救助、救助〜」って騒ぐくらいだが、今日は鼻歌まで聞こえてくる。
「ティーエ、はしゃぐな。転ぶぞ」
海斗は苦笑いをしながら言った。フラグである。
「大丈夫だよ。飛んだり跳ねたりはしてないから」
ティーエは気づいていなかった。足下にあった小さな石に。
「えっ、嘘っ!」
案の定躓いた。海斗はすぐに駆け寄り、倒れる前にティーエ支えた。
「転ぶって言ったろ。気をつけろよ」
「うん、ありがとう…」
お礼を言うと、照れ隠しで舌をだす。そこで、ティーエの目にあまり見掛けない物が映った。
「あれ?これなに?」
そこには、一枚の看板があった。
「ああ、なになに…?」
ティーエと一緒に看板の内容を読んだ。
「お客様に一時の安らぎを。喫茶・鳥の巣、本日開店…ふーん」
看板から目を離し、店舗を見る。ティーエもちょっと遅れて店舗を見上げる。すると、驚いた表情を見せた。
「ここって、プクリンのお店だよ!!」
「え?」
ティーエの話によると、ここは元々プクリンが経営していた場所だったらしい。俺が見る限り潰れて他の店になったっぽいけど。
「プクリンさん、どこ行っちゃったんだろう…」
「いいじゃないか。それより、早速入ってみようぜ」
俺達は喫茶・鳥の巣へと入って行った。
<喫茶・鳥の巣>
「へぇ、中はこうなってるのか」
内装はレトロな雰囲気で纏められ、彩色の細かいアンティークな小物が所々置いてある。店内には良く合うクラシックな音楽が流れていた。
店内を見渡していると、タキシードに身を包んだ一匹のポケモン、ポッポが話し掛けてきた。
「お客様、こちらの席にどうぞ」
めっちゃ良い声だった。
とりあえずポッポが案内した席に付いた。
「そちらにお品書きがございます。ご注文がお決まりでしたら、そこにあるベルを鳴らして下さい。それでは失礼します」
ポッポは優雅に一礼をし、どこかに行った。
「ここ凄いね。なんか、落ち着く」
最初に口を開いたのはティーエだった。
「そうですね。来たことはありませんか、何となく懐かしい気がします」
「そうね。喫茶って何があるのかしら」
ジストは小さなメニューを取り出した。
メニューには、ブレンドコーヒー、各種ケーキ、モーモーミルクとしか書かれていなかった。
メニューの少なさに驚きながらも、とりあえず何かを頼むことにした。
「店員さん呼ぶやつみたいなの、確かあったよな?」
テーブルの上を見ると、ベルがあったので鳴らす。
硬質な高い音が響くと、さっきのポッポが来た。
「ご注文は?」
紙とペンを手に持ち、いつでもどうぞ、っていった感じに動かなくなる。
「じゃあ、俺コーヒー」
「私はモーモーミルク」
「僕もモーモーミルクで」
「私はコーヒーにするわ」
順番に注文が繰り出される中、ポッポは手際良く書き取っていく。
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってどこかに行こうとするポッポを、ティーエが呼び止めた。
「すみません、各種ケーキって何ですか?」
「あちらにケーキが御座います。お好きな物を選んで、注文していただければ、お持ちいたします。それでは」
また一礼をすると、他の所に行った。開店初日にしては、だいぶ人(ポケモン)が入っていると思う。
改めてソファーに座り直すと、いつの間にかティーエと甲賀がいない。向こうを見ると、展示されたケーキをまるで子供のように見つめる二人がいた。
自分もどんなケーキがあるのか確かめる為に、立ち上がった瞬間だった。
「いてっ!」
「きゃっ!」
立ち上がったら、近くにいた誰かとぶつかってしまった。声音から察するに、女性だろうか。
「すいません、大丈夫ですか?」
ぶつかった瞬間より、ぶつかった後に打った後頭部のほうが痛い。
「あ、はい、大丈夫です」
「すいません、少しボーっとしていて……」
目の前にいるポケモン、アブソルは、頭を下げている。というかアブソルとぶつかったなら、一方的に押されたのもわかる。
「別にいいですよ。大したことありません」
そう言うと、アブソルはほっと胸を撫で下ろした。
「よかった。お詫びと言っては難ですが、これ、どうぞ」
そう言って懐から取り出したのは、一枚の紙切れだ。
「何かあれば、連絡してください。それでは」
アブソルはそのまま外に出て言った。
渡された紙を見ると、「午後7時、掲示板前」と書かれていた。意味はよくわからなかったので、とりあえず無造作にカバンに突っ込む。そして、ティーエ達と一緒にケーキを選ぶことにした。
*
「は〜、美味しかったね!」
「そうですね」
「…………………」
俺達がケーキを選ぶ所までは良かったんだが、食い過ぎたバカがここに居る。俺とジストは、勿論一つだ。甲賀も少し多くて二つ。それなのにティーエは……!!
「食い過ぎだ!バカ!!」
「いたぁ!」
ビシッと音を立て、ティーエの額にチョップをお見舞いする。
「いたたた…何で叩くのっ!?」
「一人で四つも食ってんじゃねぇ!食らえこんにゃろ〜!」
「いたたたた!痛い!痛いよぉ〜!!」
コイツが一人で食いまくるから、わざわざ銀行からポケを引き出さなきゃいけなくなった。
ちなみに、コーヒーが30ポケ、モーモーミルクが25ポケ、ケーキ一つが50ポケだ。
つまり、30×2=60、25×2=50。これで110ポケだ。で、ケーキは、
50×8(1.1.2.4)=400ポケ。内、ティーエが四つ。つまり200ポケ。
400 110=510ポケ。俺は常に500ポケは持っているから、ギリギリ足りなかったのだ。
今、ティーエにこめかみグリグリというお仕置きを実施中だ。言葉通りこめかみをグリグリするだけだが、なかなかどうして、かなり痛い。
数秒間グリグリしたら気が済んだので、手を離したやったら目を回してその場に倒れてしまった。
「銀行から10ポケ引き出す俺の身にもなれ!「本当に10ポケですか?」って言われたんだぞ!」
思い出すだけで悲しくなる。あれ程地味にへこんだのは初めてだ。
その時、広場の中心が妙に騒がしかった事に気づいた。
「あれ?何かあったんでしょうか」
甲賀も気になっているらしい。広場の真ん中で何やらもめているようだ。
「仲間を助けてください!お願いします!」
ひたすらに頭を下げているのは、青い丸に綿毛が三つ付いてるポケモン、ワタッコだ。
「ダメだ!そんなんで引き受けられるか!」
ワタッコの願いを頑なに受けようとしないのは、長い鼻と葉団扇が特長のポケモン、ダーテングだ。
「でも、どうしても風が必要なんです!お願いします!」
海斗は、丁度隣に居たハスブレロに聞いてみた。
「いったいどうしたんだ?」
「ん?あの騒ぎか?」
ハスブレロは騒ぎの方を向くと、続けた。
「ワタッコが救助を頼んでるんだが、断られてんだ」
そこで騒ぎの中心に居るダーテングを指した。
「ほら、真ん中に居るハナの尖った奴。ダーテングのエドゥ・ワイラって言うんだけどさ、アイツのチーム、がめつくてお金をたくさんもらわないと引き受けないんだよ。ワタッコもずっと頼んでるけど、可哀想だよな」
話を聞いている内にティーエが復活したようで、今の話を聞いて怒っている。
「信じられない!困っている人を助けるのが救助隊じゃないか!」
その意見には俺も甲賀も賛同する。
「全くだ。一丁ぶん殴ってやるか」
「殴ったら斬らせてください。血も粉にしますんで」
「じゃ、私はそれを集めて消すわ。証拠陰滅ね」
「みんな、怖いよ!?」
海斗は手に電気を纏い、甲賀はゆっくりと剣を抜き、ジストは目と額の玉が光り始めた。三人共尋常じゃない程の殺気を放ち、今すぐにも襲い掛からんとする表情だ。
「待て!!」
(一部)殺伐とした雰囲気の中、堂々とした声が響いた。反対側を見るとゴツい三匹のポケモンがいる。声の出所はそこらしい。
「お、お前たちはっ!!」
ダーテングがいきなり動揺し始めた。
周りからはひそひそと声が聞こえてくる。その中には、
「おお、あれが……」
「フーディンだ…」
「初めて見た…」
など、様々な言葉が飛び交っていた。言葉の大半が尊敬や憧れを込めた物だった。
フーディンは一歩前に出て、エドゥに詰め寄る。
「おい、可哀想じゃないか。ワタッコの仲間には風が必要なのだ」
フーディンは手に持ったスプーンでエドゥの手を指す。
「お前の葉団扇なら強風を起こせる。お前にとっては造作も無い事だろう。頼みを聞いてやれ」
ダーテングは静かに焦ると、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「………チッ、わかったよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、どこかに走り去っていってしまった。
その様子をバッチリ見ていた海斗達は、一つの大きな疑問を抱いた。
「なぁ、ハスブレロ。いったいなんなんだ?あいつらは…」
徐に尋ねてみたが、ハスブレロは驚いた表情を見せた。
「お前知らないのか!?フーディンのチームを!」
何となくバカにされたように思えたが、とりあえずスルーする。(ダジャレではない)
「ここらじゃ、今一番有名なチームなんだぞ!」
そして、頼んでもいないのにわざわざ説明しだした。
「あいつはリザードン。火炎放射で山をも溶かす!」
「実際にやったら環境破壊で叱られるぞ」
「ま、そうだろうな。否定はしない」
ハスブレロは大きく頷いている。突っ込みを入れてみたが、意外と肯定のようだ。
「で、あっちがバンギラス。鎧の体とパワーが自慢」
「ただ、バンギラスって岩・悪だろ?格闘には弱いんじゃないか?」
「どっこい、そうでもないんだ。この前聞いた話じゃカイリキーと一対一で戦って圧勝したらしいぞ」
「あくまでも噂だろうが、すげぇなそりゃ…」
案外会話がかみ合っている。しかし、聞いた話じゃあのチームはとんでもないチームってことになるな。警戒はしておくか。
「最後に、あれがフーディン。あのチームのリーダーさ」
ここで、一層ハスブレロの目が鋭くなった。
「フーディンは力技を好まず、超能力で勝負する。知能指数5000の頭を持っていて、世の中の出来事を全て記憶しているらしい」
「へえ〜、あのチームのブレーンってことか」
「そう言うことだ」
すると、ワタッコが彼等に近寄って、お礼を言った。
「あ、あの、ありがとうございました」
「難の事は無い。また断られるようなら、ワシに言え。それでは通してくれぬか」
ワタッコは自分がフーディンの邪魔をしていると思い、すぐに道を開けた。
「それでは失礼する」
彼等は歩き出した。そして海斗の近くを通り過ぎた時のこと。
「………!!」
立ち止まったかと思うと、突然こっちを向いた。
あまりの出来事に海斗とジスト意外全員驚く。
「わわっ!?な、なにか…」
ハスブレロは完全に日和ってしまっている。ただ海斗にはわかった。
フーディンは俺を見ていると。
「何か要スか」
「……何でもない。気のせいだ」
そう言うと、フーディンはそのまま向こうに行ってしまった。
ハスブレロは彼等がいなくなってから、自分の思いを吐き出した。
「あ〜、びっくりした!」
ハスブレロはホッと胸をなで下ろした。
「…カ、カッコイイ」
ティーエは目を輝かせている。すると突然、ティーエが自分の頬を叩いた。
「私たちも負けてらんない!さ、行こう!」
「おいっ、引っ張るなよ!」
自分達よりも強い救助隊を目にし、改めてティーエは気合いを入れた。
「待ってくださいよ〜!って、僕こんなのばっかし!」
「うふふ、ああなったら、もう止められないわ」
今日は昨日となり、明日はまた今日になる。四人の明日は希望に溢れていた。
「そうはさせるかよっ!ケケッ!」
光があれば闇もある。それは当然のこと。勿論希望があれば絶望もある。
輝かしい未来を歩む者がいるなら、暗い道に誘おうとする者もいるのだ。