第14話 運命と謎のリング
甲賀の持っていた剣が形を変えた。解放の唄は海斗にしか使えない筈だが?ー
〜side out〜
ハガネやまの頂上では、未だ激しい攻防戦が繰り広げられていた。
振り下ろした剣は避けられ、エアームドは空を飛ぶ。甲賀は”スピードスター”を放ち、エアームドを追撃するが、硬い翼で全て弾かれてしまった。
「くそっ、だったら…」
剣を逆手に持ち、思いっ切り振り上げる。
「ビッグバンスター!」
一発だけだが、先程よりも遥かに巨大な星が現れ、エアームドに向かう。これには怯んだのか、少しだけ動きが止まった。
敵もまた、スレスレで甲賀の攻撃を回避する。
しかし地上には甲賀の姿は無かった。エアームドは空中を旋回し、地上を見渡す。ただし、甲賀はもう、地上にはいないのだが。
「流星斬り!」
空から降りてきた刃は的確にエアームドを斬った。ただ、体に罅が入っただけに見えた。
「グキュアアアアアアア!!!!」
痛烈な叫び声を上げたかと思うと、バランスを崩し、力無く落ちていった。
「スピードスター!」
剣から星弾を出し、地面にぶつけることで着地の衝撃を和らげる。エアームドの方は、ガシャッ、と嫌な音を立て落ちた。
「倒した、のかな?」
近づいて見ると、目を回して気絶していた。
エアームドの翼は生え変わることで復活するが、体の方はそうもいかない。普通の怪我よりも治りが遅いのだ。もう壊されないように強度は上がるらしいが。
「はぁぁぁぁ……疲れたな、さすがに」
足に力が入らない。こういうのを、腰が抜けた、って言うのかな。
その時、剣から淡い光が出て、元の直刀形状の両刃刀に戻った。
「………少し、休ませてもらおう」
甲賀はその場で大の字になり、空を見上げた。
*
〜side ティーエ〜
「ハッ…ハッ…ハッ…」
私はいま走っている。仲間を庇って、重傷を負ったカイトを助ける為に。
「ぐ、はぁ、はぁ」
背中に背負った海斗が気づいたみたい。息使いは荒く、一刻を争う。多分このまま血を流し続ければ、海斗は……
「ッ!………」
嫌な想像を頭を振る事で払い、走る速さを上げる。電光石火を使いたいけど、バランスが悪い上に転んだら危険だ。
「ここまで来れば…」
頂上から十分に離れ、尚且つ、敵が襲って来ない所を見つけ出した。
「どうしよう…血が止まらない…」
生憎、私には医療関係の知識は一切無かった。とりあえず、体力を回復させる為にオレンの実を渡す。
「カイト、これ…」
差し出した物に気づいたのか、無言で受け取って、一口齧り、咀嚼する。時間を掛けて少しずつ食べていき、とうとう全部食べた。
「……すまん、リーダーがこれじゃ…カッコつかねぇな…」
「そんなこと無いよ!カイトは…!」
そこでカイトは手を伸ばし私の口を噤んだ。
「そう言ってもらえると…嬉しいな…」
ハハッ、と軽く笑って、また気を失った。
今度こそ死んでしまったのではないかと、少しびっくりしたけど、体が動いていたから、まだ、生きている。
でも、このままじゃ危険だ。なんとかしないと、本当にカイトは死んでしまうかもしれない。
「いったい、どうすれば…」
こんな時にお姉ちゃんはなんでいないの!
「ティーエ、もう大丈夫よ!」
誰かが遠くから走って来るのが見える。
「お姉ちゃん!?」
なんとジストだった。念力で浮かせているのか、救急箱と一緒に。
「お姉ちゃん、どこ行ってたの!?」
海斗の隣に座り、救急箱を開けるとすぐに中を探る。用途に特化している物が多い為、ティーエが見てもよくわからない物が大半だったが。
「未来予知で少しだけ未来を見たの。だから先に医療道具を取りに行ったのよ」
未来予知__相手の未来を見て、相手がどこに行ったかを見る技だ。どこに行ったかわかるから、そこに念力を飛ばして攻撃する。相手にも予知能力が無ければ絶対に当たる。でも、こういう使い方があるとは思ってなかった。
__さすがだね、お姉ちゃん。
「ふう、とりあえずこれでいいわ」
海斗の体には至る所に包帯が巻かれている。どれ程の傷を負ったのかはわからなかったけど、こんなに酷いとは思わなかった。
「これで、安静にしていれば大丈夫」
「良かった………あれ?」
何故だろう、涙が出てきた。止めたいのに、止まらない。
「あれ?あれ?おかしいな、嬉しい筈なのに…」
この涙を止める術を私は知らない。涙はいろんな時に出る事も知らない。
「うふふ、ティーエはカイトが好きなの?」
「にゃっ………!!??」
いきなり核心を突かれ、しどろもどろになる。
「えっ、そうだけど、そうじゃなくて、あれ、ちょっと、あうーー……」
フリーズ。情報処理能力低下。スリープモードニイコウシマス……
そのままティーエは動かなくなってしまった。
「あらあら、本当に変わらないのね」
少しだけジストは微笑むと、カイトの方を見て呟いた。
「あなたは真実を知っても、ティーエと一緒に居てくれる事を願うわ…」
悲しいような、嬉しいような、様々な感情が絡まったような複雑な笑みを浮かべた。
その後すぐ、お姉ちゃんに起こされ、私はコウガのもとに向かった。
〜side 甲賀〜
「いったいどうしよう………」
どうも、甲賀です。ディグダさんを助けたいけど、手前の所にとんでもなく深い…割れ目?亀裂?クレバス?うーん………!谷!…とはちょっと違うかな………
とにかく。ディグダのいる場所の手前には巨大な崖(コレだ!)があって、ディグダを救助しに行くことが出来ないのだ。
「カイトさんと違って、僕は飛べないしな…」
ピカチュウが飛べること自体おかしいんだけどね。
「うーん……そうだ!」
甲賀はリュック中から道具箱を取り出し、青色の玉を手にした。
「え〜っと…場所変え玉。よし、これだ!」
場所変え玉に目を当て狙いを定める。
場所変え玉は、自分の目の前に居るポケモンと自分の位置を取り替える事が出来る、不思議玉の一種だ。たまに使うのに条件があったりして戸惑うけど、自分の有利になる事が大半だ。
「ディグダくん!ちょっと動かないでね!」
直ぐ「わかりましたーー!」と聞こえ、場所変え玉を発動する。
「発動、場所変え玉!」
手に持った玉が光り、ディグダに向かって飛んで行く。そしてディグダにぶつかると同時に、甲賀とディグダが入れ替わった。
「よし、成功だ」
ただ甲賀は気づいていなかった。自分が居る場所のことを。
「あ…………………」
甲賀は、ディグダと入れ替わった為、身動きが取れなくなってしまった。
「し、しまったあああああああああ!!!!」
崖の向こう側に居るお馬鹿さんの絶叫が辺りに響いた………
〜side out〜
「ふぅ〜っ、助かりました」
「いやいや、どうってことないよ」
無事(?)に救助を終え、5人は今、救助隊基地の前にいる。あの後直ぐティーエが来て、救助隊バッジを使って戻ったのだ。
「しっかし、アホだなー。助けたい気持ちは分かるがもう少し考えろよ」
ぶっきらぼうにそう言い放つのは、体に包帯を巻いた海斗だ。
ジストの話によると、応急処置はしたが、ここまで回復が早いとは思わなかった、とのこと。
「海斗さんは、もう大丈夫なんですか?」
「こんなもん、寝りゃ治る」
「普通は治らないからね?」
「俺が普通じゃねぇ、ってか?」
「そう言う意味じゃないけど……」
そこで海斗が笑った。海斗が笑うと、甲賀も笑った。ティーエもジストも笑った。みんな笑った。いろいろと危険があったりしたけど、今はみんな笑ってる。今回の救助がうまくいった証だ。
「助けてくれて、ありがとうございました」
会話に区切りがついた所でディグダがお礼を言った。
「何でしょう、ずっと高い所に居たせいですか。まだ足が浮いている気がします」
後半の言葉で此処に居る全員が思った
「(あるのか?足が…)」
と。
つい、そう思ってした彼らはきっと悪くない。そんな中、不釣り合いな程大きな声が響いた。
「おおーーーーーーーっ!!無事だったかーーーーーーーっ!!!!」
しかし、辺りには誰もいない。ただ甲賀とジストだけはわかっていた。
「また、姿が見えてないよ。ダグトリオさん。」
少々呆れた様子で甲賀は溜め息をついた。同様にジストも何も言わずに地面を見ていた。
「姿が見えない?……それは失礼しました!」
地面が盛り上がって
「ぐあっ!」
「いたぁ!」
ティーエと海斗の顎に直撃した。
*
「いやー、どうもありがとうございました!!」
「…どういたしまして」
未だひりひりする顎をさすりながら、ダグトリオを睨む。本人は気づいてないらしく、ニコニコしている。
「皆さん、これが依頼のお礼です。ではっ!」
「僕からも、ありがとうございました。父がせっかちですいません。ではっ」
ダグトリオは正に電光石火、ディグダは一言言ってから地面に潜って消えた。
やはり彼等は、あまりの速さに何も言えなかった。
「ねぇ、これなにかな?」
ティーエが手にしていたのは、ダグトリオがお礼だと言って置いて行った、幅の広いリングだ。
「さぁ、腕につけて見れば?」
海斗がそう言うと、ティーエはおもむろに自分の右足にそのリングを着けた。
「似合うかな?」
リングをよくみると、全く汚れておらず、傷一つ付いていなかった。おまけに今まで見た事が無い不思議な紋様が彫られている。
「ああ、似合ってるよ」
「ホント?良かった」
ティーエはそれだけ言うと、救助基地の中に入っていった。
「ああ〜、疲れた。帰って休むか」
「そうですね。いろんなことがありすぎました」
「ちょっといいかしら?」
二人の平凡な会話に割って入ったのはジストだった。
「私はどうすればいいのかしら」
「また泊まればいいじゃないですか。きっとあいつも喜ぶと思いますし」
「……じゃ、そうさせてもらうわ」
ジストは此処に泊まっていくことにしたようだ。
歯車は全てを巻き込んで、さらに速さを増す。運命とは必然か、偶然か。