第8話 二つの依頼
救助依頼を受ける為ペリッパー連絡場に向かう三人。だけど微妙に意見が噛み合わずー
<ペリッパー連絡場>
「ン〜ンンンン〜ンン〜」
何やら楽しそうに掲示板に新しい依頼を貼り付けているペリッパー、パーシバルの元に見覚えのある二人と、見覚えの無い一人が歩いて来た。
向こうもこっちに気づいたようで、手を振っている。適当に手を振り返し、またパーシバルは依頼を貼る作業を続ける。
「ほら、コウガ。あの人がパーシバルさんだよ」
隣に居るワニノコ、甲賀に向かって話し掛けるティーエ。
「あの人が?ふ〜ん」
明らかにどうでもいいと言った感じで言葉を返す。歩き続け、パーシバルの居なくなった掲示板の前に立ち、依頼を見る。自分を助けてとか、道具を持って来てなど、一息に救助依頼と言っても色々な物がある事を知った。
「……これどうだ?」
海斗が手にしている依頼の内容はこうだった。
電磁波の洞窟で、本来いない筈の強敵に出会い、倒されてしまった。と、書いてある。
「私はこっちがいいな」
ティーエが手にしている依頼の内容はこうだった。
小さな森でしか採れない鉱石を取って来て欲しい。と、書いてある。
「俺はこっちがいいけど、どうする?」
「何でわざわざ強敵と戦わなきゃいけなくなるような依頼を選ぶの?」
少し呆れた感じでティーエに言われた。
「じゃあ手分けしてやろうぜ。俺はこの依頼を受けるから、二人はそっちをやってくれ。頼めるか?」
そう言うとティーエの顔が曇った。
「別にいいけど、大丈夫?」
「ああ、多分な」
「じゃあ、先に依頼をクリアして戻って来たら、みんな戻ってくるまで基地で待機する。これでいい?」
珍しくティーエの方から提案してきた。まぁ、悪くない。
「おう、わかった。じゃ、行ってくる」
俺は電磁波の洞窟へと向かった。
「さっ、私達も行こう」
「そうしましょう」
ティーエ達もまた、小さな森に向かった。
<小さな森>
〜side ティーエ〜
「依頼によると、鉱石は鈍く光って物凄く固いんだって」
今私は、依頼を見ながら歩いている。
「ティーエさんって器用なんですね」
「えっ、何で?」
どっちかと言われると、不器用な方だと思うんだけど…
「依頼を足で持ちながら歩けるって凄いと思います」
完全に無意識でやってた。足元を見ると、確かに三本で歩けている。
「あ、本当だ」
「気づいてなかったんですか?」
うん、全く。え?私器用なの?バランスがいいだけなの?
「全然気づかなかったよ」
とても驚いた表情で自分の足を見る。だったらなぜあの時コケたのか知りたいと思ったり思わなかったり。
「ティーエさんって、家族居るんですか?」
「え?うん、居るよ」
突然話題が変わって、戸惑いながら答える。
「お姉ちゃんが四人で、お兄ちゃんが三人居るかな…ってあれ?」
コウガを見ると、明らかに固まってる。今、変な事言ったかな?
「大所帯なんですね。ティーエさんのお家って」
固まった状態から放った言葉はなんとかティーエの耳に届いたようだ。
「まあね。最近会ってないから、みんなが何をやってるかわからないんだよね」
タハハ、と笑うティーエの表情の裏には、寂しさが滲んでいる。
「そうですか…変な事聞きましたね。すいません」
「別に良いよ。一人でいると、広場のみんなによく言われるから」
構わない、と言うような表情を浮かべ更に奥へと進む。うん、大丈夫。お姉ちゃん達は生きているから。
少しだけ気持ちが沈んで、俯きながら歩いてたら急に目に光が飛び込んで来た。
「ひゃわっ」
「どうかしましたか?」
コウガが不思議そうにこちらを見る。右手には元気に光を反射しまくってる白銀の剣が見えた。
自分の目に光が飛び込んで来た理由をすぐに理解し、ちょっと恥ずかしくなる。
「いや、何でもないよ。それより、早く探そう?」
立ち上がり、捜索を優先するようにコウガに言った。
「そうしましょう」
私達は更に森の奥に進んでいった。
〜side カイト〜
「ハァッ、掌雷!」
「ギャウン!」
痛そうな声を出して遠くに吹っ飛んで行く一匹のポチエナ。ちょっとしてからバゴーンと言う、壁に激突する音が聞こえてきた。近寄ってみると完全に目を回して倒れている。
「良し、一発だ」
自分ではよくわからないけど、戦えば戦う程強くなっていく気がした。電気の使い方も少しは上達してる気がするし、さっきの掌雷の威力も上がっていると思う。
「もう少し強い技を覚えてぇな。相手によっては逆にこっちが一発で倒されるだろうし」
あ〜あ、ピカチュウの代名詞。10まんボルトが使えたらいいのに。
因みに今使えるのは電気ショック拡散型、放射型、集中型。それと掌雷くらいか。電磁波は出来そうな気がする。
拡散型は、数匹の敵に対して使う。一匹ずつ狙いをあわせて同時に攻撃する。
放射型は、自分を中心とした周囲に威力の下がった電気を放つ。
集中型は、ちょっと時間がかかるけど、気づかれない程小さな電気を空中に走らせ、空気を切り裂く。その空間に電気を流す事で、電気が空気中に拡散せずに、文字通り相手に直撃する。
でも、勘が鋭い奴だとバレるかも知れない。
「そーいや今何階だっけ」
呟きながら救助隊バッジを取り出す。知ってたか?バッジには地図を映し出す機能が付いてんだぜ。
「地図表示っと」
機械のような音が聞こえると同時に地図が現れた。依頼によると、三階でやられたと書いてあった。
「どれ…」
地図の右上に階層が表示される。どうやら今三階らしい。……ん?ちょっと待て。三階?ここが?
「ふむ、ここか。ハァ〜…気持ち引き締めるか」
腕を回し、体を伸ばしておく。何時強敵とやらとぶつかってもいいように。
「1、2、3、4、5、6、7、8」
世間一般に、良く知られていると思う準備運動を軽くやる。それでも周囲に対しての注意は充分に払っておく。
「早く来ねぇかなー」
のんきな事を言いながら、準備運動を続ける。その背中に不穏な影が近づいている事も知らずに。
「噛みつく!!」
たかがピカチュウ如きに遅れを取る筈は無い。一撃で仕留める
事は出来なかった。
「む…?」
目の前に居たはずのピカチュウは居なくなっており、風が流れるだけだった。しかし、奇襲をかけたそのポケモンは敏感に風を感じ取り、ピカチュウの居場所を突き止めた。
「そこだッ!」
声と共に一本のトゲが打ち出される。道具の一種、鉄のトゲだ。トゲは真っ直ぐに飛んで行き、陰に隠れたポケモンを燻り出した。陰から出て来たのは先程のピカチュウこと、カイトだ。
「チッ、バレたか」
「オレは鼻が利くんでな」
海斗と相対してるのは一匹のグラエナだ。
「(こいつ、強いな…)」
自然と顔に冷や汗が流れる。正直勝てるかどうかはやってみないとわからないけどな。
「おい、お前」
「あ?」
突然グラエナが話し掛けてきた。この展開は予想してなかったから間の抜けた声が出る。
「お前、ただのピカチュウじゃないな?」
「!?」
更に予想もしない事を聞かれた。あの事はティーエにしか言ってない筈だ。
「貴様…何者だ!!」
言うが早いか襲い掛かって来た!相手の”噛みつく”を飛んでかわす。
「お前こそなんだ!いきなり変な事言いやがって!」
着地をしてグラエナに問い掛ける。俺の方に向き直り、睨み合う。
「オレは生き物のオーラを見る事が出来る」
「オーラ?」
聞き慣れ無い単語に対し、ひたすらに首を捻る。…分からん!
「生き物は大体オーラを纏っている。穏やかだったり、気分が良いなら青。その逆は赤、と言った感じにな」
「よく分からないが、そのオーラってやつは生き物の何だ?」
「生き物の生命力その物だ。これが消えれば、それは死んだ事になる」
分かるような分からないような、妙な脱力感があるなあ。
「貴様のオーラは今まで見た事が無い。個人的な分析だが、オーラは実力が大きさ、潜在能力の高さはどれだけオーラの色が濃いかで決まる。貴様のオーラは、ピカチュウにしては大きい方だ」
「そりゃ誉め言葉なのか」
グラエナが小さく頷いた。って誉め言葉なのかよ。
「しかし、オーラの色が有り得ない程濃いのだ。これほどの物は正直、見た事が無い」
確か、オーラの濃さは潜在能力って言ってたな。こいつが今まで見てきた奴らがどうだったかは知らんが、俺どの位強くなれんだ?
「もう一つ、貴様からはオーラが二重に出ているのだ。通常、オーラは一つしか見えない。それが二重になっているんだ。可笑しいと思わない方が可笑しい」
「そんな事言われてもなあ。俺にゃ見えねぇし」
当たり前だ、見える筈がない。つーかさ、何で俺狙われてんの?そうだよ、根本的な所を忘れていた。おまけに俺救助依頼で此処に来てるんだよ?早くしないと駄目じゃん。
「なぁ、あんたは話しがわかる奴だと見た」
交渉時間。
「なんだ?」
あ、すっげー睨み付けてくる。真面目に交渉しねぇと命取られるかも。
「俺は救助依頼を受けて此処に来たんだ。依頼主は三階、つまりこの階で遭難したんだ。依頼主は確か…すまん、ちょっと待ってくれ」
俺は背中に背負ったリュックから依頼の紙を取り出す。ダンジョンだとちょっと待ってって言っても、待ってくれないからなぁ。こんな小さな事が地味に嬉しい。
「あー…、依頼主はエーフィだ。見てないか?」
グラエナの顔が見て分かるくらい曇った。絶対何か知ってるなコイツ。
「………教えてやってもいい。だが条件がある」
「なんだ?言ってくれ」
ん、まぁ大体の事は出来ると思うし。
「オレと戦え」
「はい?」
〜side ティーエ〜
「それでね、お姉ちゃんはね…」
私はコウガに家族の事を話している。会話が無いって寂しいからね。
「ティーエさん、ちょっといいですか?」
「うん?」
「ティーエさんの話、お姉ちゃんお兄ちゃんばっかりで名前とかわからないんですが…」
ありゃ、小さい時からずっとこう呼んでたからなぁ。癖になってるね。
「ごめん、えっとね…」
私は兄弟の皆について説明した。
長女:ルー・クリスタ、 種族:シャワーズ
長男:レイト・クリスタ、種族:ブースター
次男:ロイ・クリスタ、 種族:サンダース
次女:ジスト・クリスタ、種族:エーフィ
三男:クラブ・クリスタ、種族:ブラッキー
三女:リン・クリスタ、 種族:リーフィア
四女:ステン・クリスタ、種族:グレイシア
「こんな感じかな」
家族が多いって、大変だな。紹介するだけで息切れしちゃうし。
「大丈夫ですか?」
「うん、早く依頼の鉱石見つけて帰ろ?」
「あ、はい。それなんですが…」
コウガの顔が曇った。見て分かる程動揺して、気まずそうに「タハハ」なんて笑ってる。よく見ると左手が背中に回ってる。
「取りあえず、両手を見せてくれるかな?」
私は最凶の笑顔をコウガに見せ付けた。コウガの表情が追い詰められた獲物みたいになる。
「いや、あの、これ」
隠された左手から出てきたのは一握り程の小さな石だった。鈍く光っている。
「それって…」
「多分…」
「「依頼の物(かと)だよね」」
詳しく聞くと、
さっき私が転んだ時にあった足下に落ちていた石が、これなんだって。何時言おうかと悩んでたらしい。
「これで依頼達成だね!」
「そう…ですね」
どこか不満そうなコウガと共に、ティーエはダンジョンから脱出した。
二人がいなくなった頃、巨大な鉱石が物も言わずに、ただそこにあった。