第11話 ティーエの家族
海斗が電磁波の洞窟から帰って来て、一向は自分達の基地に戻る。依頼主のエーフィはまだ気を失っていてー
<救助隊基地周辺>
〜side out〜
外はもう歩くには不向きな程暗い。月は申し訳程度にしか出ておらず、夜道を照らすには不十分だった。
広場から少し外れた所にある建物からは、そんな夜に良く似合う控えめの光が漏れていた。
<救助隊基地内>
こざっぱりとした部屋の中には4匹のポケモンがいた。
一匹は藁で作られたベットの上で横になっている。
一匹はベッドの上で横になっているポケモンを心配そうに覗いている。
一匹は座って、天井なんかを見上げている。
一匹は外に出て行って未だ戻って来ていない。
時は海斗が戻って来た所まで遡る。
〜一時間前、同じく救助隊基地内〜
「ねぇ、カイト。お姉ちゃん、大丈夫かなぁ」
「俺に言わないでくれ。不安なのは分かるけど、待つしかない」
海斗が救助してきたエーフィは、なんとティーエの家族の一人、ジスト・クリスタだった。
「……やっと会えたのになぁ。話したい事いっぱいあったのに、どうしてかなぁ。お姉ちゃん……」
「…………………家族か」
人間だった時の記憶が無い海斗は、家族はどんな物かすら覚えてない。ファングの話によると「命に別状はない。気を失ってるだけだ」との事。
ティーエにもその事は教えたが、やはり不安や悲しみは隠しきれないようだ。
「……僕、ちょっと素振りでもしてきます」
この空気に耐えられなくなったのか、甲賀は外に出て行った。誰も止める者はいなかった。
〜今:救助隊基地内〜
「ティーエ………」
「…………………なに?」
涙の浮いた目を海斗に向ける。
「何か食おう。ほら、腹が減ってはなんとやら、って言うだろ?」
場面を考えれば、かなりそぐわない発言だが、ティーエには分かった。
「……うん」
海斗なりに気を使ってくれているのだと。
「あ、ちょっと待ってくれ」
座っていた海斗は立ち上がり、外に居る甲賀を呼んだ。案外甲賀はすぐに来て、三人で食事をした。
「うん、うまい」
「リンゴってやっぱりおいしいな」
「僕はもう少し手を加えてみたいですね」
食事の合間にする何の変哲も無い会話。誰も気づかなかったが、全員が穏やか気持ちになっていた。
「ぷはぁ〜、おいしかったぁ」
「そうだな」
「ええ。そうですね」
ティーエもちょっとは別の事に気が逸れたらしく、沈んだ空気から一転、いつものような明るい雰囲気を纏っていた。
その時だった。
「う……こ、ここは…?」
ジストが起きた。状況が飲み込めずに辺りを見渡している。
「お…お姉ちゃん!!」
ティーエはジストの胸に飛び込んだ。ジストは怪我をしてるにもかかわらず受け止めた。
「ティーエ!?」
「会いたかった、会いたかったよう!!お姉ちゃん!!」
「ティーエ、ティーエ……!!」
ティーエは泣いて喜んだ。ジストの胸に顔を埋め、震えている。
ジストもまた、ティーエとの再開を喜び、抱きしめながら静かに涙を流していた。
「なぁ、甲賀。どうやらお邪魔虫みたいだな」
「はい、そうしましょう」
ティーエ達を二人きりにするため、海斗と甲賀は外に出た。
当然辺りは暗く、星が一層輝いて見えた。まるで二人を祝福しているかのごとく。
「…星が綺麗だな」
「…そうですね」
大した事は話さなかった。一言に込めた思いを、お互いに理解していたから。
基地の中からは楽しそうにな話し声が、途切れること無く彼等の耳に届いていた。
しばらくしてから基地内に入ると、二人共寄り添い合って眠っていた。
海斗と甲賀は、一回だけ頷いて各々のベットに横になった。
暗くなった部屋では寝息だけが静かに聞こえていた。
<???>
……………………
……また…ここか…
………やっぱり…誰かいる…
…?……何か…言っている?……
………駄目だ…聞こえない……
伝えたい事が……あるのか………?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
お?………揺れている………
…でも……たいした事ないな……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
うわっ!…激しくなった!……
キャーーーーーーーーー!!
「ぶわっ!?」
*
〜side 海斗〜
皆さん、おはようございます。今日はとても良い天気ですね。
…簡単に言うと、寝ていた俺にティーエが飛び付いてきた。以上。…と言いたい所だが…
「ティーエさん。何故怒られているか分かりますね」
「はい…」
今、気付いた。睡眠を邪魔されるのが一番嫌なんだな。俺って。
ティーエはかたかたと震えている。本人から言わせれば怖くて訳がわからなくなったとの事。悪気は無いのだから、非常に怒りづらい。
「……もうすんな。以上、お小言終わり」
「はい………えっ?」
もっと怒られると思っていたのか、きょとんとした顔で動かなくなる。
「え?もう終わり」
これで終わったのが信じられないようで、キョトンとしたまま聞いてくる。
「ネチネチ怒るのは嫌いなんだ。パッと言って、パッと終わる。それでいいじゃん」
余りにあっさりとした返答にあっけに取られ、ティーエが少し笑った。
「ごめんね」
「謝んなくていい。もう終わりなんだし」
言うだけ言って、俺はベットに横になった。藁のベットは風通しが良く、長時間眠っても暑くなりにくい。おかげでさっきまで眠っていたベットも既に丁度良く冷えている。
「お休み…ふぁ〜ぁ…」
予定より早く起きていたから、もう少し眠ることにした。
すると、またティーエがくっ付いてきた。
「おい、いい加減に……」
そこまで言って気づいた。ティーエが震えていることに。
俺は、コイツがどれほど地震に恐怖を感じているかは分からない。だが、これだけは分かる。
ティーエは今怯えている。
「しょうがねぇな…特別だぞ」
体を反転させてティーエの方に向き直る。
「へ?………!!」
「少しじっとしてろ」
俺はティーエを抱き締めた。
「………あったかい」
「……良かったな」
今、ティーエの顔は真っ赤だ。多分、俺もそうなっていると思う。
少しして、俺はティーエを離し、また背中を向けた。離した時、小さく「あっ」って聞こえた。
「ありがとう…」
背中の方から、声が聞こえた
「…どういたしまして」
それだけ言って俺はまた眠りについた。