第84話 シバーレルの望み
クラウンという謎のポケモンは、捕まえたティーエを自ら逃した。カエンは倒れ、シバーレルは黒く笑う。交錯する思惑の中、彼等は動き出すー
暗い廊下を走る音が響く。三者三様だが、どれも特徴的な音だ。
「………右よ、曲がって」
暗闇に少し声が響くと、三つの影は突き当たりを右に曲がった。
エレナはもうこの場所の構造を把握したようで、行き止まりにぶつからずにどんどん前に進んでいく。
「…にしても、ティーエさんはどこに行っていたんですか?」
走りながらも一歩後ろにいるティーエに、甲賀は聞いてみた。
「あ、えーっとぉ…説明しにくいから説明しなくてもいいかな?」
若干の苦笑いと共にお茶を濁す発言をした。説明しにくいと言えばしにくいので、一応合ってはいる。もっともな話、誰にも言いたくなかったからだ。
「そうですか。なら聞きません。その代わり、あなたの記憶にあるその何かとのかかわりが少しでも感じる何かが起きたら、すぐに説明してもらいますがいいですね?」
「うん、いいよ。きっと何も起きないから」
ティーエは笑顔でそう答えた。何も知らない甲賀としてはそう言い切られることを訝しく思ったが、そういう以上これ以上の詮索は良くないと思い、甲賀は口を閉じた。
「………もうすぐよ。この扉の向こうに、カエンがいる!」
そうこう話しているうちに、エレナがカエンがいる場所を突き止めた。目の前にある重厚な扉の向こうに、カエンがいるらしい。
「開けてる暇はありませんね。みなさん!ぶち破りますよ!」
甲賀はそういうと、すぐさま剣を構えて力を溜め始めた。
エレナは側頭部の黒色に光る刃に力が集まり、発光し始めた。
ティーエも迷わず電光石火を繰り出す。
「剣技十二月が一つ!睦月!」
「サイコスラッシュ!」
「電光石火!」
三人の技が同時に扉にぶつかり、後ろ側にあった家具もろとも全てを吹き飛ばした。
「カエンさん!ご無事ですか!返事をしてください!」
「いったい…これは!?」
濃い砂埃が晴れると。蹴散らされた家具が散乱した部屋は酷く荒れていた。
「…とにかく、カエンさんを探しましょう。何もないことを祈ります」
この部屋の惨状が彼らのせいであることを、彼ら自身はまだ知らない。
*
「申し訳ありません、シバーレル社長。カエン様がいなくなりました」
テクがそう告げると、シバーレルは顔色を変えた。
「何ィ…?今なんと言った」
「ですから、カエン様がいなくなったと___
テクの首に、シバーレルの"つるのむち"が飛ぶ。
「貴様…その失態、分かっているのだな?もしこれが失敗したとなれば、貴様の首が飛ぶだけでは済まされんのだぞ!」
首に巻きついた"つるのむち"の力が一層強くなった。呼吸が出来ない苦しみで一瞬にして視界と意識が混濁する。
「………カハッ………………!」
「いいか、即刻カエンを見つけ出して捕まえろ!わかったら早く行け!」
"つるのむち"から解放されると、テクが最も欲しかったものが口から入ってくる。
「承知…しました………」
絞り出した声では、そう返すのが精一杯だった。
*
粉砕された家具の一部の下に穴があることがわかり、そこにティーエが入り込んだ。その小さなの奥には、カエンが倒れていた。ティーエはすぐにカエンを連れ出し、カーペットの上に寝かせた。
「カエンさん!カエンさん!!気付いてください、どうしたんですか!」
甲賀が呼びかけるが、反応はない。浅い呼吸を繰り返し、顔色が悪い。
「ねえ、カエンはどうしちゃったの!?」
「おそらく、酸素欠乏症です。脱出用のトンネルに長時間いてしまったせいだと思います。…今の僕たちの手元には、これを改善できる何かがありません。カエンさんの生命力に賭けるしか………」
「そんな…!カエン!戻ってきて、カエン!カエン!!」
ティーエがいくら呼んでも、カエンの身体はピクリとも動かなかった。