第4話 初依頼
救助隊を結成した二人は明日に備えて眠りに付いた。この救助隊を待ち受けるのは希望の光か、それとも、絶望の闇かー
「……………」
日はすでに高く登っていて、窓から降り注ぐ光は救助隊基地の中を明るく照らしている。運良く俺の顔には直撃していなかった。
「(大分…スッキリしたな…)」
さっき起きた時の何かがざわついたような感覚はすでに無く、普通に寝起きの心地よい感じが体を包んでいた。
「そうだ!俺は…」
実は昨日の事は全部夢でした…なんて事は無くてピカチュウのままだった。淡い期待が胸の中にあったので、地味にへこむ。
「(ティーエはまだ寝てるし、娯楽道具の一つも…無いのか)」
ティーエの歳はわからないが一つくらいあってもいいんじゃないか?そんな事を考えながら、なんとなく外に出た。基地から出ると朝特有の気持ち良い光が俺を照らし、あの時の風に良く似た風が横から吹いてきた。体全体で清々しさを感じながら、ポストの中を覗いてみた。単純になんか入ってないかなーって思って。そしたら、なんか入ってた。
「なんだこれ?手紙か?」
差出人の名前は書いておらず、誰の物かはわからなかった。とにかく、手紙の封を切り中を確認する。
「<&。\=*&¥.>@##$/%」
自分のとってハチャメチャな文字列が並んでいて、解読は全く出来なかった。
「……………………」
頭が痛くなったので手紙を戻し、そのまま基地の中に戻って行った。
〜Side ティーエ〜
「……………」
私は目を覚ました。いつもと変わらない日常。起きて何か食べて、特に何かをするわけでも無く平凡に終わっていく日々。早くに起きたら、決まった自分の散歩コースを歩き、無理やりにでも目を覚ます。
そんな毎日の中で、私は非日常に出会った。いつもの散歩コースを歩いていたら、一匹のポケモンが倒れていたんだ。何時まで経っても起きないから起こすと、自分は人間だって言うんだもん。びっくりしちゃうよ。彼と出会った事で、色々とゴタゴタに巻き込まれもしたけど(私が一方的に巻き込んだんだけど)結構充実した日にはなったかな。
「うふふ……はっ」
いけない、昨日の事思い出したら嬉しくなっちゃう。何も無いのににやにやしてたら変な人だもんね。
そんな事を考えながらベットから降り、周りを見る。カイトはすでに起きていてやる事も無くただボーっとしてたんだと思う。だって目が点になってて、口が半開きになってるし。
「…おはよう、カイト」
朝の挨拶をするとこっちを向いた。
「おはよう。昨日は眠れたか?」
「昨日…」
自然と頭の中にあの映像が浮かぶ。昨日はカイトの背中に抱き付いて眠ったんだ。
思い出した途端、一気に体温が上がる。だって今、すっごい熱いもん。
「……………………」
赤くなった顔を手で隠して昨日の事を思い出す。カイトの背中あったかかったなぁ…じゃなくて、救助隊の結成を申請しに行かなくちゃ。
「あのさカイト。ペリッパー連絡場に行かない?」
「そうだな。なら、さっさと行こうぜ」
「うん」
私たちはペリッパー連絡場に向かった。
<ペリッパー連絡場>
「ここがペリッパー連絡場だよ」
「ここが…か…」
どうしたのかな、カイト固まっちゃってるよ。まぁ初めての人にはインパクト大の形してるもんね。ペリッパーさん、自分たちの顔をモデルに作ってるからなぁ。簡単に言うとペリッパーさんの顔をそのまんま建物にした感じ。とっても大きいけどね。
「さ、行こ。救助隊レオパルドの始めの一歩だよ!」
「お、おう」
未だ唖然としてるカイトを引っ張って行く私でした!
<ペリッパー連絡場内>
〜Side カイト〜
「すいませ〜ん…」
「…なんだありゃ…」
中に入るなり言葉を失ったのはこの場では不似合いな格好をしてる者がいたからだ。
「ヘイYO誰だ君達♪ペリッパーとは俺達♪ここにぃ、来るのはいろんな方達♪目の前に居るペリッパーは誰?異様な格好してるのはオレ♪そしてこのテンポ気にいってるコレ♪あんた方がやりたい事どれ?イェー」
妙な口調で話し掛けて来たのは黒いサングラスを掛け、ヘッドフォンをした謎のペリッパーがいた。
「…おー?その姿、もしかしてティーエちゃんじゃね〜?」
「も〜、職場でこんな事やってたら怒られますよ?」
「いいんだYO。この時間帯はほとんど人来ねっし。」
ティーエとコイツはどうやら知り合いのようだ。さっきから楽しそうに言葉を交わしている。
「で、何の用DAY?」
「えっと、新しく救助隊を結成したいんだけど…」
ティーエがそこまで言うとペリッパーは驚いた表情を見せた。
「ナンだって!?救助隊だと!?」
ペリッパーはサングラスとヘッドフォンを取り、何かを噛み締めるような顔になった。すると瞬時に向こうにあった棚から一枚の紙を取り出し、カウンターの上に叩き付ける。バンッ、と力強い音をたててその紙がカウンターに置かれる。
「うわっ、どうしたんですか!?」
「嬉しいぜティーエちゃん!!あんなに怖がりだったのに、今や自ら救助隊に志願して、危険を顧みず誰かを助けに行こうとするなんてよ!!」
気付けばペリッパーは号泣していた。いったいコイツはティーエの何を知っていると言うんだ。
「ちょっと、やめてよパーシバルさん!」
「すまねぇ、でも嬉しくってよぉ…」
どうやらこのペリッパー、名前はパーシバルと言うらしい。
「で?救助隊名とかもう決まってんの?」
泣くのを止め、おもむろに聞いてきた。
「うん、昨日からなるって決めて来たんだ」
と言いながらすらすらと書いていく。相変わらず字は読めなかった。パーシバルも笑顔で見守る。そんな中、急にパーシバルの顔が曇った。
「なぁ、ティーエちゃん。メンバー欄とリーダー枠に書かれてるこの「カイト」ってなんだ?」
パーシバルは今、紙の一部分を指差している。やっぱり俺にはわからなかったが。
「酷いなー、隣に居るでしょ?」
その一言でパーシバルは初めて俺を見る。つーか睨み付けてくる。
「…おはようございます」
とりあえず挨拶してみた。しかし、目は更に鋭くなり今にも攻撃してきそうだ。
「…てめーがカイトか」
如何にも重い口を開き、自分が何者であるかを聞いてくる。俺は挑発的に返した。
「だったらどうします?」
「………………」
変わらず睨み合いは続く。するとパーシバルは急に笑い出し、俺の肩を強く叩いた。かなり痛かったが。
「そうか!てめーがティーエちゃんの救助隊リーダーか!良い目つきしてんなぁ。ティーエちゃんのこと、任せたZE!」
何か気に入られたっぽい。良い事だと思うけど、正直微妙な気分だ。
「………うん!書き終わったよ」
紙を回し、パーシバルにとって見やすいように渡す。
「お?どれどれ…?良しOK!これでティーエちゃんもカイトっちも、今日から救助隊DAZE!!」
「ぶっ!?」
吹いた。本気で吹いた。ちょっと待てぇい!!
「今なんつったオイ!」
「ん?「お?どれどれ…?」の、所か?」
「違う!もっと後!」
「良しOK!、か?」
「違うって!もっと後!」
「それなら「今日から救助隊DAZE!!」かい?」
「おしい、行き過ぎた!少し前!」
「だったら「これでティーエちゃんもカイトっちも…」
「はいそこォ!なんだよカイトっちって!」
「ああ?俺のグッジョブなネーミングセンスにケチつけんのか?」
「問題ありな事は確かだよ!」
「言ったなこのォ!」
「カイトっちはやめやがれ!」
「呼び易いから良いじゃねぇか!」
「呼ばれる方は嫌だつってんだろが!」
「わーったよ!じゃ、「カイサブロウ」で」
「阿呆か!更に駄目だよ!」
「じゃ「カイエモン」てのはどうだ?」
「完全パクリじゃねーか!」
「うるせぇなぁ、「妖怪ポケモンカイ…」
「一辺死ぬか?」
なんて言うやりとりはその後二時間程続けられたそうです。(結局カイトで落ち着いた)
<救助隊基地>
「無駄に疲れた…」
「カイト、パーシバルさんとあんまりケンカしないでよ?」
「わかってるよ」
救助隊登録を済ませたのでとりあえず救助隊基地に戻って来たんだ。
「ところで、パーシバルからもらったこの袋って何が入ってんだ?」
ペリッパー連絡場を出るとき、パーシバルが「これ
餞別」と言って渡してきた。中身は知らない。おまけに開けようとしたら「救助隊基地に戻ってから」とか言ってた。
「これ一体なんなんだ?」
肩に掛けていた荷物を下ろし、じろじろと凝視する。
「それはね、救助隊スターターセットだよ」
「なんだそりや」
「初心者救助隊に必ず渡される物で、まず…」
ティーエはごそごそと袋をあさっている。
「これ!救助隊バッジ!」
ティーエの手には、上半分が白で、下半分が赤のタマゴ形のバッジが握られていた。両脇に翼の飾りが付いてる。
「これはね、ダンジョンの中で救助隊を待ってる人を地上に転送する事ができるの」
自信満々で話すティーエ。俺も聞き入ってしまう。
「それと、道具箱」
ティーエが袋から取り出したのは正六面体、正方形の青い箱だった。サイズは小さく、俺なら片手で持てるだろう。
「文字通り道具を入れる箱でこんなに小さいのに大きさに関わらず二十個も物が入るんだ」
「マジで!?そりゃすげえなぁ…」
こんなに小さいのに驚きだ。
「それと、ポケモンニュース!救助隊にとって便利な情報がたくさん載ってるんだよ」
ティーエの手には新聞のような折り畳まれた紙が握られていた。
「後は依頼とかあれば良いんだけど…」
ティーエはポストの中を見た。俺はもう意味不明の手紙が入っているのを知っている。
「やった!もう手紙が来てる!」
どうやら気づいたようだ、俺も隣に行って再度中身を確認する。しかし、わからない物はわからなかった。
ティーエはそんなカイトに気付き、首を傾げる。
「どうしたの?」
「何でもない。それよりなんて書いてあるんだ?」
正直なんでもないことはない。後でこの世界の文字がどうなってるのか教えてもらおう。
「えっとね…」
かいつまんで言うとこう言う事だ。
4匹のコイルが電磁波の洞窟を通るとその内の2匹が突然発生した奇妙な電磁波によりくっついてしまったそうな。もう2匹のコイルは助けようとしたけど、剥がすことは出来ず、また電磁波が流れるのを恐れて、洞窟を出て、依頼を出したとのこと。因みに俺達の事はキャタピーの親子に聞いたらしい。
「なるほどね。で、どうする?」
「勿論…」
「「行く!!」」
救助隊レオパルドの初めての依頼。意見が一致した所で、俺達は電磁波の洞窟に行く事にした。