第3話 救助隊レオパルド結成
いろいろと大変な事になりながらもどうにかキャタピーの救出を成功させる二人。行き場の無いカイトを自分の家に誘ったティーエの真意とはー
「う……うん………まぶしい……」
太陽が上り始め、辺りが朝日に照らされると同時に自分の顔面に強烈な閃光が浴びせられる。
「此処はどこだ…」
見覚えの無い天井を見つめ、先日あった事をしばらくの間思い返す。
時は昨日まで遡る。
キャタピーを助け出した後、バタフリーにお礼と様々な木の実を貰ってティーエの家に連れて行ってもらった時の事。
「ほら、此処なんだけど…」
あの一本道から少し歩くとちょっと開けた場所に出た。両サイドに道があり、真ん中には、一人暮らしには丁度良い大きさの一戸建てがあった。玄関先にはポストがあり、ごく普通の家と言った感じだ。
ただちょっとイレギュラーなのが後ろの方に謎のフラッグがなびいているのと、玄関に扉が無く、実に開放感溢れる入り口となっている事だ。扉が無ければ鍵も無い。泥棒に入ってくれと言わんばかりである。これがポケモン流なのか?
「………………………」
それだけつっこんだのにも関わらず、なんかわかんないけど言葉が出なくなっている。気分も悪くないのに、体全体が震えてきている。
「どうかな?」
「…最高。」
気が付いたら即答していた。なるほど、俺は今感動しているんだ。
「そっか!気にいってくれてよかったよ」
今、俺の隣にいるティーエはなにやら安堵の表情を浮かべている。
「とにかく、今日はもう休みたい…疲れた」
「あ、うん。じゃあ付いて来て」
ティーエに言われるがまま付いて行き、家の中に入る。思ったより中は広く、テーブルやベットなどの最低限の生活必需品はあるようだ。ちなみにテーブルは木で作られたログ調の物。ベットは布ではなく、藁で作られていた。
「へぇ〜、中は結構広いんだな」
部屋の中をきょろきょろと見渡し、あちこち物をいじり始めるカイト
「ねぇ…ちょっといいかな?」
「んお?どした?」
タンスの棚を開けていたカイトに話し掛けるティーエ。何だか様子がおかしい。何かに怯えているような、弱々しく震えている。
「どうした!?俺、また何かやっちゃったか?」
慌てて駆け寄ったは良いが、何も出来なかった。ティーエは震えたまま続けた。
「あのね、その…カイトに一つだけお願いがあるの」
そこまで言うとティーエの体の震えが止まった。
「私と一緒に救助隊をやってほしいの」
救助隊。 あのキャタピーからも聞いたその言葉はカイトの思考を遅くさせた。読み込みに時間を掛けていると、何を勘違いしたのかティーエは凄く残念そうな顔をしている。
「いきなりこんな事を頼むのは非常識なのかもしれないけど、カイトならやってくれそうな気がして…駄目かな」
カイトの顔は見えず表情がわからない。数秒たっても返答は無く、否定と捉えてしまう。二人の間に沈黙が走る。
「(やっぱり…駄目か)」
ティーエが諦めかけたその時だった。
「別にいいよ」
カイトはサラリとOKしたのだ。
「そうだよね………あれ?」
てっきり断られる物だと思い、気にしないでの一言でも言おうかと思っていたのであっさりと出た承諾の言葉に驚く。
「どうした?何か変な事言ったか?」
未だに呆然とするティーエの顔を覗き込み、目の前で手を振ったりしている。
「え…ほんと?本当に救助隊やってくれるの…?」
言葉が震えるのもお構いなしにもう一度ティーエは聞いてきた。
「ああ、やる。やらせてもらう」
「………やったーーー!!!!!!」
今ティーエが垂直にニメートルくらい高く飛び上がって喜んでいる。飛び上がった瞬間、消えたと思うほど早く飛んだ。
「嬉しいなぁ…救助隊って昔からずっと憧れてたんだ」
「へぇ〜、何で憧れてるんだ?」
「昔、私が不思議のダンジョンに迷い込んじゃった時、救助隊の人達に助けてもらったの。子供ころの事だから顔とか、名前は覚えて無いけどたしか…カイトと同じでピカチュウだったはずなんだ。それで私もその人みたいにいろんな人達を助けてあげたい、って思ってたんだけど…結局、なれなかったんだ」
ティーエは最後に少しだけ悔しそうな顔した。しかし、その顔はすぐに消し、また笑顔になった。
「だから、改めてお礼を言わせて?…ありがとう!」
「…ああ、どう致しまして。」
二人は見つめ合いそれをまた笑顔で返す。そこでティーエが何かに気付いたように、ハッとしてカイトに話し掛けた。
「そうだ、救助隊を結成したなら救助隊名を決めなくちゃ。」
「救助隊名?何となくわかるけど、なんだそりゃ?」
そこでティーエがずっこけた。
「…わかってるなら聞かなくていいじゃん。」
ずっこけた時、床に頭を
強かぶつけた為、ちょっと涙目になっている。
「救助隊名って言うのはとっても大切な物で、自分がどの救助隊に所属しているかを示す物なの」
「ふーん…結構面白そうだな」
「救助隊名何かないかなぁ?うーん…」
「…………………………」
ここで二人はシンキングタイムに突入した。いろんな候補が浮かんでは消え、数分が経過した。そしてとうとう
「レオパルド、って何か良くないか?」
「レオパルド?」
ティーエが首を傾げる。
「確か、豹って意味だ」
「ヒョウ?なにそれ?」
「俺が居た世界でサバンナって所を電光石火のごとく走り回る動物だ。世界一速いと言われていたはずだ」
「へぇ〜…かっこいいね!」
喜ぶティーエを傍目に気にしながら、俺は考え事に移った。何故自分はこんな事を知っていたのか、それが気になったのだ。記憶は全く無くても、知識だけはあるのだろうか。現に言葉が話せる時点で多少なりともおかしいとは思ってはいた。自分に関係する記憶だけが無くなっているのか?
そんな思考はティーエの声によって中断される。
「カイト、どうかしたの?」
「ん、いやなんでもない。それで、救助隊名の件はどうなった?レオパルドで良いのか?」
「私はそれが良いと思ってるよ。だってかっこいいもん」
「じゃ、それで良いか」
「救助隊レオパルド、結成完了だね!」
「これで終わり?」
何かあっさりしすぎてるような…
「いや、本当なら向こう…って言っても見えないね」
ティーエが指を指す方にはなにやら広場があった。ティーエの指(前足)はを見るからにその広場の向こう側を指していた。
「奥にペリッパー連絡場があって、そこで救助隊の手続きをしなくちゃいけないんだ」
「ふーん…で、どうするよ。もう外は暗いぞ」
俺が外を見ると外はすでに暗黒が支配していた。あるはずの月明かりも今は雲で隠されているようだ。
「ありゃ、長く考え過ぎたかな?しょうがない、明日にしよう」
「
了解」
ティーエは寝る用意をし始めた。俺はこの家の事とか知らないから見ている事しか出来ない。
「うんしょ………」
特に関心も無く見ていたら、1人で持つにはあからさまに多い藁束をどこかから持って来た。四足歩行のポケモンが両前足で何かを抱えて歩けば、当然バランスも悪くなる。ティーエはふらふらしていて今にも転びそうだ。
「とっと……わっ!?」
「危ない!」
何て思ってたら案の定転んだ。落ちてくる藁よりも速くティーエに飛び付き、抱えてその場から離脱する。
バサバサバサバサバサッ!!!!
多少軽い音を響かせながら藁は床に落ちた。
「危なかった。大丈夫か?」
「うっ、うん…」
何故かわからないがティーエが俺の手の中で真っ赤になって俯いてる。
「立てそうか?」
「大丈夫だから!早く
降ろして…」
後半はくぐもって聞こえなかったがなんとなくわかったので、その場に立たせてやった。にしても、こいつ何でこんなに赤くなってるんだ?抱えるように持ったのがそんなに恥ずかしかったか?
「全く、1人で何でもやろうとするな。周りに誰かいるなら、遠慮無く頼れ。俺で良いなら、力を貸してやるから」
言いながら落ちている藁を拾い集め、元々ある藁のベットを手本に藁を組み立てる。
「よし、完成」
完璧ではないが、それなりに寝心地が良さそうなベットを作る事ができた。早速横になり、出来栄えを確かめる。
「…うん、良いな、コレ」
ベットに横になった状態でなんとなくティーエを見るとさっきの場所から動かず口だけがもにょもにょと高速で動き続けている。
「どうした?早く寝ろよ」
ただ一言話し掛けただけでティーエは驚いてちょっと飛び上がった。そして気を取り直して俺の隣にあるベットに向かった。顔は俯き、赤いままだったが。
俺は気にしなかったがティーエに背中を向けて寝た。
「そんじゃ、お休み」
「…………………………」
返事は、帰って来なかった。そのかわりに背中に何か柔らかい物が当たった。何事かと思い、出来るだけ首を回して後ろを見ると
ティーエが居た。
顔を真っ赤にしながら、ティーエが俺の背中にくっ付いていた。
俺の顔も自然に赤くなる。いやわかんないけど、赤くなっていると思う。
こんな状況になった事がないので、頭の中が真っ白になる。どうしていいかわからない。とにかく混乱するしかなかった。
そんな頭の中で、苦し紛れに出した答えがこれだった。
「…お休み…」
「……うん…」
特に変わった言葉は無く、それだけで終わった。最初は恥ずかしいやら、なにやらで混乱した頭も時間が経つに連れて落ち着いていき、俺は完全にベットに体を預けた。背中にティーエをくっ付けたままーーー
それが昨日までの俺の記憶だ。日は登ったばかりらしく、俺の顔があった所には、実際にはそうでも無い日光が照らされていた。
「(なんか、もやもやする…)」
時間的には今は早朝と言った所だろう。二度寝しても昼前には起きられるはず、と思いまたふとんに体を預けた。隣にはティーエがいた。
「(ティーエって可愛いな…)」
そんな事を考えながら、カイトは眠りに付いた。
また、カイトが「可愛い」と思った時ティーエの顔が少し笑ったのは、本人はおろか、隣に居たカイトさえも気付かなかった。