第2話 ポケモンになっちゃった
そんなこんなでお互いを知り、改めてキャタピーちゃん探しを開始する二人。だけど簡単にいくはずもなく…
「なんでこうなったんだ…」
え?俺?不運人間海斗だ。今どーなってるかと言うと、ポケモンが現れた所までは良かった。そこまではよかったんだ。俺が道でも聞こうかと思って近づいたらいきなり攻撃してきやがった。
後でティーエから聞いたら、此処は不思議のダンジョンって言う所でいろんなアイテムが落ちてるかわりに、縄張り意識が強く、近づいただけで攻撃してくる奴ばっかり…らしい。やられっぱなしじゃ腹立つから、反撃でもしようかと思った瞬間、今度はティーエがびびって逃げ出しやがった。
俺も仕方なくついていったが、逃げた先で次から次へと敵ポケモンに見つかっちまうんだもんなー。ここまで来ると、どうかしてるゼッ!…すまん、阿呆やった。
それで追いかけられた挙げ句、行き止まりの部屋について身動き出来なくなった。これが今の状況だ。
「俺さ、戦おうって言ったのにさ、なんでこうなってんの?」
「だって、痛いの嫌い…」
「この状況下でよくそんなのんきな事言えるよな…あぶねっ!」
どうやら相談する暇すら与えてくれないらしい。今は敵ポケモンに囲まれ、どこかに少し近づいただけで攻撃を喰らってしまう。ただ、向こうも様子を見ているのか襲って来るのは数匹しかいない。相手はポッポが二匹、ヒマナッツ三匹、ケムッソが一匹、タマタマが二匹だ。逃げ回ってる間に、こんな数になっていたとは驚き、桃の木、サンショの木だ。
敵の強さはそれなりなので、強行突破も出来なくはないが逃げた先で敵にぶつからないとも限らない。それで挟まれでもしたら、それこそ袋の中のコラッタだろう。
「どうにかなんないか…よっ!」
今、向かって来たヒマナッツを殴り飛ばした所だ。本当にどうにかしないと残りの奴らが襲って来るだろう。もしそうなったら一環の終わりだ。
「クソッ、どうする…」
「カイト、ちょっと良い?」
「どうした?元凶」
「その呼び方やめて!?」
こいつをからかえるって、俺余裕だな。現状はかなりデンジャラスだが。
「で、何だ?」
「あのね、こしょこしょ…」
その時だ。周りにいた奴らが襲いかかって来たのは。
<ちいさなもり 最奥部>
「ハァ……ハァ……」
「ゼェ……ゼェ……」
森の中で荒い息をしているのはさっきまで全力ダッシュしてた二人組だ。
「単に…逃げる…だけじゃ、ゲホッゲホッ!…ねぇか…」
「良いでしょ…逃げれたんだから…」
息も落ち着かないうちに会話をする二人。これだけ息を切らしているのを見ると、余程の間走っていた事が伺える。
息を整える為に数分ほど立ち止まった後に、また歩き出した。
「にしても驚いたよ。ティーエってシャドーボール使えるんだな」
「たいした事じゃないよ。覚えたのだって、技マシン使ったし」
とか言いながら何となく自慢げな顔をしてる。当人は気づいて無いようだが。
実は、あの時シャドーボールを地面に撃って土煙の中を逃げる、と言う作戦だった。土煙が舞えば当然、周りは見えなくなる。その為俺は出口となる一本道を覚えなくてはいけなかった。煙の中を走るだけじゃ出られないから、結構重要な役割だと思う。ただちょっと不思議に思ったのは、逃げた後、誰も追って来なかったんだよな。
「どうしたの?ぼーっとして」
「え?」
どうやら知らないうちにうなだれていたらしい。視界には緑の草しか映らず、頭の上の方から声が聞こえて来る。とりあえず顔を上げると不思議そうに俺を見るティーエの顔があった。てか、近い。超近い。
「わわっ!?」
焦ってバランスを崩してしまい、後ろに倒れた。下は草地なので別段、痛くはなかった。
「くすっ、なにやってるのさ。カイト?」
「…うるせぇ!」
「さ、行こう?キャタピーちゃん、早く見つけて上げなくちゃね!」
「…ああ」
転んだ恥ずかしさを頬を少し赤くするだけに抑え、森の奥に向かう。そうするとなんかデカいいもむしっぽい背中が見えて来た。多分間違いないだろう。
「ねぇ、あのこかな?」
「じゃねぇか?」
どうやら同じ事を考えていたようだ。顔を見合わせ頷くと、二人でその背中に近づく。
「う…ひっく…おかあさん…どこ?」
「こんにちは」
「誰!?」
驚いた表情で俺たちがいる後ろをみるキャタピー。当然と言えば当然だろう。辺りを見れば知らない場所。それで途方に暮れていたら、平然と話し掛けくるポケモンが現れたのだから。
「君のおかあさんに頼まれて来たんだ。さ、行こう?おかあさんが待ってるよ」
「…うん!」
キャタピーを救出した俺たちはバタフリーの元に戻ることにした。
余談だが、逃げた時何故襲われなかった理由がわかった。シャドーボールの爆風でみんなノビていたんだ。こいつらが弱かったのか、ティーエが強かったのか…
謎は深まるばかりだ。
<ちいさなもり 入り口付近>
「どうしましょう、キャタピーちゃんを助けてくれるって言ってたあの二人…まだ戻って来ないわ。…もしかしてやられちゃったのかしら。ああ!どうしましょう…オロオロ…」
キャタピーの母、バタフリーは「助けに行く」と言った二人が遅いので自分も行こうかと悩んでいる。その時、遠くからなにやら話声が聞こえた。
「あら?…!!」
遠くを見れば、愛する我が子の姿と、助けに行くと言ったあのピカチュウとイーブイ二人がこちらに向かって歩いて来ていた。
「キャタピーちゃーーーん!!」
バタフリーは涙を流し、我が子の下へ歩み寄った。
*
「本っ当にありがとうございます!キャタピーちゃんを助けてくれて…本当にありがとうございます」
バタフリーは何度も頭を下げ、ティーエとカイトにお礼を言う。
「いいですよ。誰かが困っているなら、助けるのに理由は必要無いと私は思いますよ。」
「(意外とカッコいいこと言うな、コイツ…)」
会話してる二人を置いといて、カイトは空を見上げた。
「(記憶が戻る気配は無いな…)」
なんて事考えていると隣から妙な視線を感じた。何気なく振り返ると、やたら目をキラキラさせたキャタピーがいた。
「カッコいい……」
「………………………」
…何かすげー尊敬の眼差しで見てくるんだけど。でも、悪くないな。誰かから感謝されるって。
「…それではありがとうございました。」
「はい、お気を付けて」
どうやら話が終わったようだ。
「ほら、行かないと置いてけぼりになるぞ。」
「あの…お兄さんみたく強くなるのはどうしたらいいですか。」
…また答えの出にくい質問を…
「人助けでもすれば良いんじゃないか」
ま、ここはちょっと適当にあしらおう。
「それって、救助隊の事だよね…うん、僕頑張るよ!」
「キャタピーちゃん、行くわよー」
「はーい、じゃあね!」
キャタピーは別れを告げるとバタフリーと並んで、どこかに帰って行った。救助隊ってなんだ?後でティーエに聞いてみるか。
「ふぅ、疲れたぁ」
「全くだ。このアホが」
「なんで!?」
「なんで、はこっちのセリフだ。よーく考えれば、なんであの時俺は引きずられなきゃいけねぇんだ」
「だって、一人で行くの怖かったし…」
ティーエは俯いてしまった。なにこれ、俺が悪いの?
「ま、別にいいよ。過ぎた事をウダウダ言うのは嫌いだからな」
「そう、よかった…」
なんでそんなに安心すんだ。お前二秒も聞こえる溜め息って相当だぞ。
あれ?考え事してたらなんか涙出て来たよ!?
「そういえば、カイトってこの先行く宛、あるの?」
「あ、いや、う〜ん…」
よーく考えれば、記憶も無い。行く所も無い。知り合いもいない。住む場所も無い。ナイナイ尽くしじゃん。
「無いな」
「じゃあ、付いて来て。こっちに私の家があるから」
「あ、ほんと?助かったー。…ん?」
俺は気付いた。微妙だが、なんか可笑しい言葉のニュアンスに。
「なぁ、いま私の家って言ったか?」
「うん、それがどうかしたの?」
「…………………………………」
うん、つっこむのもう疲れた。ここはティーエの言う事に従おう。
「…なんでもない。」
「そう?じゃあ早く♪」
なんでそんな上機嫌なんだよ。ほんっと付いてけねー。
カイトは言われるがままついて行った。
その時、ふたりはまだ知らなかった。
この世界に来た時には既に、運命の歯車が急速に回り始めた事に。