第98話 日記
ここにあるのは一冊の日記。書き手はとあるイーブイの女の子。内容は、かつて、非日常をくれた思い人のこと。ー
◯月×日
今日から日記をつけることにした。
カイトがいなくなっちゃって、とても悲しいけど、それを忘れたくないから。例え悲しくても、絶対に覚えてなくちゃいけないことだから。
私だけでも、覚えてなくちゃ。
◯月☆日
今日はみんなと山菜採りに行った。私とルー姉ちゃんとレイト兄ちゃんと一緒に山菜をたくさん運んだよ。私も幾つか見つけたんだけど、それは小さいって言われちゃった。ロイ兄ちゃんもリン姉ちゃんも見つけるのが速くて、少し悔しい。ステン姉ちゃんの山菜料理はやっぱり美味しかった。少しだけ料理を手伝わせてもらったけど、みんな気づいてないみたい。カイトにも食べてもらいたかったな。
◯月△日
今日の救助依頼は二件。
場所は群青の洞窟とハガネ山。
ハガネ山の人達はどうやら迷ってしまったみたいで、仕方なく救助依頼を出したらしい。
群青の洞窟にいたのは子供だった。
「救助隊レオパルドみたいになりたいんだ!」
って、意気込んで入ったはいいけど、敵の方がはるかに強くてどうしようもできなかったんだって。
依頼で私達が来たことを喜んでたけど、とても危険だから真似しないようにと、口を酸っぱくして言ったよ。
「ホンモノだぁ…!」「すごいや!」
とかばっかり言って、聞いてないかもだけど。
◯月◇日
救助隊連盟から手紙が届いた。
内容は、新しいダンジョンの開拓、制覇、及び隕石破壊の功績を評してあなたをプラチナランクに認定します…って書いてあった。
救助隊レオパルドがプラチナランクになったよ。私とカイトがやってきたことは、間違いじゃなかったんだ。
カイトは興味ないかもしれないけど、私はとっても嬉しいよ。
新しいダンジョンの開拓は炎の山、樹氷の森、マグマの地底、天空の塔だって。氷雪の霊峰は誰も行ったことはなかったけど、存在は知られてたから発見じゃなくて探索が評価されたらしいよ。
カイトは喜んでくれるかな?
□月△日
今日はとってもびっくりした。
依頼を終わらせて帰って来たら、ルー姉ちゃんが私達も救助隊をやるって。
「ファミリー」って名前なんだって。もう登録は済ませてるらしい。
「シスターズ」と「ブラザーズ」でケンカしたらしいけど、家族だからってことで「ファミリー」に決まったんだって。私はどっちでもよかったんだけど、私が口を出したら決まっちゃうから…ね。
たまにだけど、まだ夢にカイトが出てくる。カイトが笑顔のまま薄くなって光の粒になって、空に飛んでって消えちゃうの。
泣かないよ。カイトに会えないのはとっても寂しいけど、カイトは私に「泣くな」って言ってくれたから。
私は大丈夫。
□月☆日
今日は大変だったよ。朝起きてポストを見たら、下に手紙が落ちるほどぎっしり詰まってたの!
依頼の数は13件!思わず笑っちゃった。この数はきっと、カイトも笑っちゃうよね?
あまりにも多かったから、みんなで手分けして助けに行ったよ。
戻って来た時にはみんなヘロヘロだった。ここまでヘロヘロになったのはカイトといた時以来だったから、なんか笑えてきちゃった。珍しく甲賀も笑ってたよ。
□月◇日
今日はステン姉ちゃんと料理を作ってみた。
ロイ兄ちゃんとクラブ兄ちゃんは美味しいって言ってくれたけど、ジスト姉ちゃんとレイト兄ちゃんは良くも悪くも普通だって。
うーん、普通かあ。まずくないならとりあえずそれでいいかな。ちょっとずつ上手になっていこう。
ロイ兄ちゃんとクラブ兄ちゃん、ジスト姉ちゃんとレイト兄ちゃんがケンカし出したから、止めるのが大変だったよ。
◇月◯日
以前助けた子からまた救助依頼が来た。今度は炎の山だって。
あれだけ注意したのに、全然反省してなかったみたい。迎えに来てもらったお母さんからこっぴどく怒られてたよ。
憧れるのもいいけど、周りの人に心配かけちゃダメだよね。
って、私も人のこと言えないか。ハハハ…。
◇月×日
カエンが風邪を引いちゃった。しかもそんな日に限ってポストは大盛況。手に取ったもので9件、ポストの中に5件以上…。
途方にくれていると、お姉ちゃんたちが半分以上持ってっちゃった。
本当は良くないんだけど、事情も事情だし、手伝ってもらおう。
おかげでその日のうちに全ての依頼を終わらせることができた。
カエンはまだ辛そうだけど、少し落ち着いたみたい。
リン姉ちゃんが言うには、あと3日くらいで治るって。
◇月▽日
どうしよう…カエンの風邪が治らないよ。リン姉ちゃんも必死に治す方法を探してる。
何か…何かできることは…。
FLBの人達なら、何か知ってるかな。
◇月☆日
風邪なんかじゃなかった!
FLBに聞いたら、草タイプのポケモンが稀にかかる枯草病だって…。
確かに、カエンの背中のタネが少しだけ茶色に変色してる。どうして気づけなかったんだろう。
治すにはオボンの実がたくさん必要だって…今倉庫にある数じゃ全然足りない。
どうにかして集めなきゃ。
△月×日
日に日にカエンが弱っていく…。
オボンの実は珍しいきのみだから集めるのが大変で、まだ2個しか手に入ってない。倉庫のと合わせてまだ4個…。最低でも10個は必要なんだ。
変色した部分が痛々しい…。
どうしよう、どうすれば………
カイト……
△月◇日
カエンの体の2割くらいが茶色に変わってしまった。ノームの話によれば、体の半分以上が茶色になってしまうまでが限界だって、そうなってしまうともう救う手立てはないって…。
まだ、まだ時間はある。救助隊を名乗るのに仲間すら助けられなくてどうするの?
なんとかしなきゃ。カイトなら絶対カエンを助けるもの。私だって、救助隊なんだ。
△月□日
やっとオボンの実が集まった!
あとはこれで薬を作るだけ。変質した細胞を治さなきゃいけないから治るには時間がかかるけど、必ず治るって。
今、コウガが薬を作ってくれてる。甲賀はすごいなぁ。料理に戦闘に作戦、薬まで作れちゃうなんて。
私は…私は何もできなかった。オボンの実だって、結局一つだけ。あとはみんな、お姉ちゃんたちやコウガが集めたもの。
やっぱり、私じゃダメなのかな。カイトがいなきゃ、カイトじゃなきゃ、ダメなのかな。
☆月▽日
ちょっとずつカエンが治って来てる。茶色の部分も減ったし、みんなと話してても辛くならないみたい。
カエンがお礼を言ってきた。みんなありがとうって、助かりましたって。
まだ完全じゃないけど、治ってきたんだなって思う。
でも、ありがとうって言葉は、素直に受け取れなかった。
カエンが助かって嬉しいはずなのに、ずっともやもやする。なんだろう…
☆月◯日
今日、救助依頼でけがをしちゃった。
マグマの地底での依頼だったんだけど、危険だって言ったのに依頼主がついてきちゃった。
戦いに割り込むようなことはなかったけど、やっぱり少しキツかったみたい。敵の不意打ちを庇った際にちょっとね。
私が怪我をしたせいで、お姉ちゃんたちをなだめるのが大変だったよ。
☆月□日
なんでだろう、どうにも調子が悪い。
頭は痛くない、熱もない。風邪じゃないと思う。
でもずっと体がだるい。
………がんばらなきゃ。カイトのようにはなれないけど、カイトのようにふるまうことならできるから。リーダーの肩書きは重いけど、レオパルドの名を汚すわけにはいかないから。
大丈夫、まだ笑顔で居られるから。心配しなくてもいいよ、私は大丈夫だから。
(水滴が落ちたような歪みと滲んでいる文字が書かれている)
好きだよ、カイト
×月◇日
嫌な夢見ちゃった…。
カイトがあの時みたいに隕石を壊しに向かってるんだけど、その隣に私がいないの。それでそのままカイトは隕石を壊して…
カイトはまだ生きてたのに、誰もそのことを知らないで消えちゃうんだ。
ぞっとした。とても怖かった。カイトは世界を守ったのに誰も知らないなんて悲しすぎる。絶対忘れるもんか。カイトが残したものを私が守るんだ。それが…いなくなっちゃったカイトに、私がしてあげられることだから。
×月▽日
最近、カイトのことをよく思い出す。
イスに足を組みながら座るカイト。ポケモンニュースを読んでるときはいつもこの体勢だった。
庭で昼寝をしてるカイト。時々太陽が暑いって、戻ってきたりもしたっけ。
戦っている時のカイト。あの時見ていた背中は、いつもよりとても大きく見えた。
なにか食べてるときのカイト。「食べたことある」と、リンゴをよく食べていたな。多分、人間のカイトの世界にもリンゴがあるんだろう。
楽しかった記憶が、今じゃ絶えず心に刺さる。忘れないってことがこんなにもつらいなんて知らなかった。
会えない、会いたい?会えない…カイトに会いたい。
×月☆日
突然、爆音が聞こえたかと思うと、眩い光が私の視界を包んだ。技の"フラッシュ"とも違うその光は、知ってるような知らないような、不思議な既視感を覚えた。
それに加えて、遥か空の彼方に小さな光の柱が見えていた。多分あれは、天空の塔から放出された光だろう。
今日はもう遅いので行くことはできないが、何があったか気になる。レックウザ、大丈夫かな?みんなと一緒に明日行ってみよう。