第75話 VSグラードン
何もかもが桁違いのポケモンと言う名の怪物。かつて神とも呼ばれたポケモンを倒すことができるのかー
振り回される豪腕は容赦なく海斗を狙う。しかし海斗も右に左へと避け続ける。
「当たらねえぜ!もっとかかってこい!アイアンテールッ!」
攻撃しつつ挑発をした。それを理解したのか、グラードンはさらに海斗に向かって攻撃する。
「海斗さん、すいません………剣技、十二月が一つ!長月!」
甲賀の剣の刀身が水に包まれ、長さが数倍になる。
「剣技、十二月が一つ、水無月!」
畳み掛けるように延びた刀身から、水色の斬撃が飛び、グラードンに命中する。しかしそれはどうしようもないほど効いておらず、グラードンが甲賀に狙いを変えた。
「余所見するな!お前の相手は俺だ!」
海斗から視線が外れた瞬間、カイトがグラードンの横顔に突撃した。右手を突き出してるとはいえ、ほとんど体当たりに近い。
「青は豪雨/赤は猛火/黄は雷電/紫は閃光/黒は混沌/緑は樹木/氷は吹雪/白は勇気/八つの大地の理と/八つの空の始まりよ/今こそ一つの力となりて/契約の名の下に集まれ!発動!
元素流域!」
レオパルドの主な戦闘メンバー全員が神器を解放した。ティーエの体が淡く光り、腕輪の形がリング状に変わり、一つの虹の玉が八つの色の玉に分かれる。
「緑の樹木、我が身を包め!
身体変化!私も………忘れないでねっ!ソーラービーム!」
自らの姿をリーフィアに変え、技の発動に若干のタメがあるソーラービームを放つ。しかし、なぜかティーエは即座に撃てた。あまりのチャージの早さに暴発気味のソーラービームは海斗をかすってグラードンの顔に直撃する。
「あづっ!?おいティーエ!もっと狙って撃て!同士討ちでやられましたなんて、シャレになんねえぞ!」
ソーラービームの直撃に何一つ堪えることもなく、振り向いた海斗のことを"げんしのちから"で追撃する。
「ごっ、ごめん!なんか、チャージが早くて………」
「(チャージが早い…?…そう言えば戦いが始まってからさらに暑くなっている気がする。もしかして……)」
海斗を狙った"げんしのちから"は重力と共に甲賀に降り注いだ。自分に当たりそうなものだけ斬り払いながら甲賀は考える。
「みなさん!グラードンの特性は、『ひでり』かもしれません!」
今の状況に甲賀の記憶で当てはまる何かは、日差しが強い状態。それが可能なのはポケモンの特性の一つである『ひでり』か、技の一つである『にほんばれ』のどちらかだ。しかし、グラードンが『にほんばれ』を使った様子はない。しかも戦闘開始直後にこうなっているのだ。当てはまる答えは一つしかなかった。
「日差しが強いと、なんか悪いことでもあんのかっ!?」
地上の甲賀にも攻撃が行ってるとはいえ、グラードンの主な狙いは飛び回る海斗だ。グラードンからすれば、飛び回る鬱陶しい小虫といったところだろう。そんな海斗に、話す余裕はほとんどない。
「炎タイプの技が強くなり、水タイプの技の威力が弱くなります………!例外として他の技も影響を受けるようになります!ソーラービームがそうです!」
走り回ってグラードンの足を避ける甲賀。お互い余裕がないのは同じだ。
「だったら………」
そう言ってティーエは自分の体に光を溜め始めた。緑の体から白い閃光が発生し、その光は徐々に強くなる。
「フルパワー…ソーラービームッ!」
ネーミングは如何なものだが、その破壊力は凄まじいものだった。太さはさっきのものの数倍に膨れ上がり、光の密度は比べ物にならなかった。
それは一直線にグラードンに向かい、右肩に直撃した。直撃の衝撃でグラードンは仰け反り、やや後ろに下がる。
「やった!少しは効いたでしょ!」
今までにないダメージを与えたのは誰の目にも明らかだった。
しかしティーエが喜んだのも束の間、グラードンはさらに勢いを増して暴れ始めた!振り回される拳は壁や床を容赦なく破壊し、どんどん地形が変わっていく。
「はははっ、ポケモンじゃなくてバケモンだな、こりゃ………」
絶句しかけた海斗がやっとの思いで絞り出した言葉はそれ以外なかった。
「ですが、そのバケモンにケンカを売ったのはあなたでしょう?…相手も見逃してくれそうにないですし」
淡々と言う甲賀は、強く剣を握っている。
「確か、このでかいのを倒さなきゃ、世界がめちゃくちゃになるんだよね………考えたくないなぁ」
ふるふるとゆるく首を横に振ると、ティーエはグラードンを睨みつけた。
引けない。引くわけにはいかない。この世界を守るには、こいつを止めなければならない。
圧されかけた心を立て直し、消えかけた戦意を再び奮い立たせる。
しかし、グラードンとは別のモノが、彼等を既に襲っていた。緊張状態が続く今、冷静な甲賀でさえそのことを忘れていた。そのため、甲賀は通常じゃ考えられないミスをしてしまった。
「あっ………」
甲賀が足元の石に気付かず、躓いて転んでしまったのだ。すぐに立ち上がろうとするが、足が震えてうまく動かせない。甲賀の体を襲ったのは技ではなく、自身に溜まった疲労だった。
「ぐっ、しまっ____
瞬間、容赦なくグラードンの腕が振り下ろされた。それは的確に甲賀を捉え、とっさに動けない甲賀は攻撃を避けることができない。
「甲賀さんッッ!!!」
その時、どこかからルアンが滑り込んできて、"瑠璃の加護"で甲賀を守った。しかし、とてつもない重量が一気に"瑠璃の加護"に集中し、一瞬にして"瑠璃の加護"は砕け散ってしまった。腕の勢いは止まることを知らず、甲賀たちに覆いかぶさる。
「甲賀ーーーーッッ!!!」
「ソーラービームッ!」
海斗とティーエが、手が二人を押し潰す前に側面から攻撃を仕掛けた。大したダメージはないが、大きく狙いをずらすことには成功した。
「今だ!二人とも逃げろっ!」
大きくずれたおかげで甲賀とルアンはつぶされずに済んだ。しかし、攻撃をずらすために突撃した海斗は巨木のような腕に殴られ、壁に叩きつけられてしまった。
「うぐあっ………!」
体のあちこちが嫌な音を立て、衝撃で呼吸すらまともに出来なくなる。背中にあった翼も、元のマントに戻ってしまった。
「海斗さん!」
「カイトォ!」
二人の悲痛な叫びが響く。衝撃から解放された海斗は、重力に任せ力無く地に落ちた。
グラードンは海斗を叩き落としたことで小虫を落としたような満足感を感じた。動かなくなった海斗からまだ動く彼等に狙いを変え、攻撃を続ける。
「ググォ………」
グラードンが一唸りすると、急に地面が隆起し始めた。
「"だいちのちから"です!当たらないように!」
甲賀が技を見抜くと、全員に指示を出した。威力が高く、ステータスが下がる技は何としても避けねばならない。
「そんなこと言ったって………うわっ!?」
完全に避けようとしても、如何せん数が多い上にキリがない。
「ハァッ…!ハァッ…!っく、避けきれない…!」
最初は足元が盛り上がった時点で動いていたが、徐々に反応が追いつかなくなっていく。頭ではわかっていても、疲労で体が動いてくれない。
「こっち!………!?うそっ……___
避けた先の地面が避ける前より隆起し、地の力を爆発させた。全身に嫌という程強烈な衝撃を受けたティーエは即座に気を失った。
「ティーエさん!くそっ………どうすれば!」
まともに戦える者が甲賀一人になり、戦況は一気に不利になる。エースはともかくとして、攻撃技をほとんど持たないルアンや歌韻が戦力になるとは到底思えない。
甲賀の頭の中に、一つ。最悪で最良の選択が浮かんだ。しかし、この作戦はリスクが大きい。いや、寧ろリスクしかないと言ってもいいだろう。だが、甲賀に選択の余地はない。
「皆さん!今すぐ気絶した二人を連れてこの場から離脱してください!」
甲賀は一瞬迷ったが、すぐに決断した。自分が囮になり、他の者を逃すという選択をした。
「えっ…そんなことしたら甲賀さん!あなたは!」
「考えてる余裕も選択の余地もありません!この瞬間に全滅してもおかしくないんですよ!?早くここから逃げて!」
甲賀の言う事にも一理あった。ここで全滅しては、どうする事もできなくなる。甲賀はここで一人欠けることより、他が生き残ることを選んだ。
「甲賀さん………くっ!歌韻!ティーエさんを担いで!僕は海斗さんを運んでくる!」
歌韻はティーエを、ルアンは海斗を担いで、元来た道を引き返した。
ルアンたちの背中が完全に見えなくなると、甲賀は改めてグラードンと向き合った。三人がかりで倒せなかったこの巨獣を倒せるのか。
「(倒せるとか、倒せないとか、そんなこと考える必要は無い。倒さなくていいんだ。今は時間さえ稼げれば…彼等が復活してくれるはず)」
甲賀は前を向いた。自分が相手をしなくてはならない相手を確認するように。
「………ここから先は一歩も通させません。しばらく、僕の遊びに付き合ってもらいますよ。グラードンさん…!」
甲賀は剣を構え、大きく振り上げた。