第65話 クローンVSクローン
クローンから作られたクローン。全てが始まったこの場所で、全ての決着を今、つける時が来たー
光の無い目に、不気味に光る青い体。それは誰の目にも正気ではないことが明らかだった。
「ふぅ〜…もう思い出したくなかったんだけどなぁ」
ルーはため息をつきながら目の前の相手を冷静に見据える。目の前には自分と全く同じ姿のポケモン、シャワーズ。自分を模して作られた人造生命体。それも、かなり強い。
「マスターの命令により、あなたを抹殺します。動かないでください」
気持ち悪いほど冷静に、自分と同じ声を出す目の前の相手に、嫌気がさした。
「嫌よ。まだまだいーっぱいやりたいこともあるし、いーっぱい話したいこともあるもの。あなたなんかに私の命は重過ぎるわ。諦めなさい」
「命…重い…理解不能です。…断るなら力づくでも消させて頂きます。覚悟してください」
「残念、あなたなんかに負けないわ」
そう言うと、ルーはハイドロポンプを繰り出した。相手も同じ技で応戦する。ハイドロポンプ同士がぶつかり合うと、少し時間が経ってから打ち消し合った。
「実力は互角ね…だったら正攻法じゃなくて奇策で攻めようかしら」
ルーは、二度と使うことがないと思っていた、自分の力を解放した。
「さて、こうなった私はもう止められないわよ」
そうは言っても、パッと見さっきとほとんど変わらない。しかし、相手のルーのクローンはその言葉の意味を知っていた。
「リゲルアクア…個体でありながらいつでも液体になることが出来る。厄介ですね」
リゲルアクア。ルーが使える特別な能力。自信を好きな時に固体から液体、液体から個体に変化できる。自分の腕だけを液体に変化させ、武器のように扱ったりも出来る。
「一突きにしてあげるわ」
腕を棘に変え、一気に距離を詰めた。触れるだけで切られてしまうほど鋭い棘を、容赦無く突き出した。しかし、相手はそれを最小限の動きで避け続ける。焦れったくなったルーは、突きから横薙ぎの攻撃に変えた。突然の変化についていけず、ルーの攻撃が相手に何度か掠る。
「水の波動」
さすがに避け難くなってきたのか、水の波動を撃ち、ルーを弾き飛ばした。
「くっ…ハイドロポンプ!」
「ハイドロポンプ」
距離を取られたルーは、ハイドロポンプを撃った。相手も同じ技を使い、またぶつかり合う。
「掛かった!喰らいなさい!」
その時、クローンの足下が盛り上がり、的確にその喉を貫いた。急所を突かれたクローンは、力無く空を舞う。
「だから言ったでしょ、私は負けないって。………ま、死んでないんでしょうけど」
少し呆れたように言い放つ不穏な言葉。その時、クローンが何事も無かったかの様に立ち上がった。
「流石ですね。やられたふりをして不意をついて殺してあげようと思っていたのに」
貫かれた喉からは真っ赤な鮮血、ではなく何処にでもあるような水が溢れている。
「当たり前でしょ。自分の疎ましい能力を履き違えたことは無いわ」
リゲルアクアは、固体から液体へと変えられる。すなわち、斬撃や刺突、物理攻撃の大半が全くと言っていいほど効かなくなる。それでも粉微塵に弾け飛ばされたりすれば、元に戻るのに時間は掛かる。
「さあ、どうしますか。私は無限のパワーを持っています。有限なあなたは私を倒すことはできない。早く負けを認めなさい」
この言い方が、ルーの怒りを買った。
「………ふざけないで。あなたみたいなのに負けを認めるくらいなら今ここで自害した方が一兆倍自分らしいわ。第一この能力は私のもの。あなたなんかには勿体無い」
「強がりはそこまでです。最初からこの勝負は、あなたの負けで決まっていますから」
ルーのクローンは自身を水に変化させ、ルーに襲い掛かろうとした。
「残念。れいとうビーム」
「!!?」
ルーのクローンが完全に液状になる前にれいとうビームを当て、凍らせた。動かせるところ全てが凍らされてしまったため、動くことができない。
「私の能力なんだから弱点を知らないわけないでしょ。この能力が嫌いで、自分の力で戦えるようにはしてるのよ。もちろん、最悪の事態も想定して能力を使った時の当たっちゃダメな技とかも調べ済み」
凍り付いたルーのクローンを、ルーは踏み砕いた。バキィン、と音を立て氷が粉々に砕け散る。
「バイバイ、私のそっくりさん。………次は違う姿で会いに来てね」
酷く虚しい顔をしたルーは、最後の言葉を伝えた。
*
「クソッ、俺がスピードで負けてるだと………!?」
「オラオラ!遅いぜオリジナル!そんなんじゃ一生俺を捉えることなんて出来ねぇぜ!」
ロイと、ロイのクローンとの戦い。押しているのは、ロイのクローンの方だ。
「止まんじゃねえよ!スパーク!」
「がっ………!捉えられねえ…!」
電気を纏った超スピードの体当たりを喰らってしまい、弾き飛ばされる。ロイ本人よりクローンの方が速く、相手の攻撃を避けきることができなかった。
「こんなのが俺のオリジナルかよ!?弱っちいなあおい!」
「ッ………!調子に、乗るなッッ!!!」
このままじゃ負けると思ったロイは、自分の能力を使った。瞬間的に閃光と爆音と発生し、クローンはロイを見失った。
「ああン?どこ行ったあいつ___
「お前の後ろだよ」
振り返る暇も与えずロイは自分のクローンを床に叩きつけた。
「…まさかこの力を使うことになるとは思ってなかったぜ。俺のクローンだから当然って気がするがな」
ロイは手に力を込めた。
「だけどな、俺は、ロイ・クリスタは、俺だけで充分だ!」
倒れているクローンに向かって、思い切り振り下ろした。
「へぇ。だからなんだ?」
振り下ろしたその手は床を大きくへこませただけに終わった。声の発生源は、背後。
「んなっ…」
「大落雷!!」
蹴られたか、弾き飛ばされたか、何をされたかは分からなかったが、自分が空中に放り出されたのは理解出来た。その時、いつ出来たのか、天井にあった黒雲からとても大きな雷がロイに向かって落ちた。
「があぐっ………!!」
「特性が蓄電だろーと、この雷は耐えらんねえぜ!さっさと死んじまいな!」
「ぐあ………く…そっ……!!」
強大な雷の中に囚われ、抵抗することさえ許されないロイ。強烈過ぎる痛みが全身を駆け巡り、まともに考えることさえ出来ないように見えた。
しかし、ロイのクローンが見ていたものは全てニセモノに終わった。
「と、思ったか?残念だったな。今の俺にはどんな技も効かねえぜ!」
雷の中で急に態勢を立て直し、四肢に力を込めるだけで自分を捕らえていた雷を弾き飛ばした。突然のことにクローンの反応が一瞬遅れる。その瞬間を逃さず、ロイは自分のクローンを捕まえた。
「がっ………何故だ、どうしてアレから逃げられた!?間違い無くお前の許容量の上を行く一発だったのに………!」
勝ち誇った笑みを見せ、ロイは厳しい表情で言った。
「バカが…。俺が能力を使ってる時は、どんな電気技を使っても際限無く自分のエネルギーに変えれんだよ。知らなかったか?」
そう言うと、急にクローンが焦り始めた。
「そんなわけあるか!俺のオリジナルの能力は、『瞬間的に閃光を発生させて自分の身体能力を大幅に上げる』だけのはずだ!俺はお前を上回っていた!なのに…!」
「んな数年前の情報、アテにしてんじゃねえよ。あの時から進歩してないとでも思ったか」
「クソォッ、クソォォォ…!」
逃れようともがくが、ガッシリと押さえ込まれているため身体を動かすことさえままならない。
ロイは、体にありったけの電気を溜め込んだ。
「………あばよ、俺。今度戦る時は、もっと相手のことを学んで来い」
「やめ___
「稲妻大切断!!」
雷で巨大な刃を作り出し、クローンの首元に振り下ろした。クローンは、断末魔をあげる暇もなく絶命する。
「……………胸糞悪ぃ。テメェでテメェで殺す日が来るなんてよ………」
返り血を浴びた黄色い体は、一部が鮮やかな赤に染められていた。