第68話 タス…ケテ…
やっとの思いで辿り着いたが、ティーエは洗脳されていた。 ジュリアスはどこまで他人をもてあそぶつもりなのかー
「フハハハハハハハハ!そうだ、その顔だ!絶望しろ!自分達には何も出来ないのだと知れ!恨むなら己の無力さを恨め!さあ行け!ティーエ!殲滅しろ!」
「はい…マスター」
ジュリアスに命令されたティーエは、シャドーボールを撃つ為にエネルギーを溜め始めた。
「どうしたんだティーエ!俺だ!海斗だ!」
「目標……殲滅します」
海斗が何を言っても、機械的なティーエは反応しない。そして、「攻撃開始」という言葉と共に強力なシャドーボールが放たれた。
「海斗さん!避けてください!」
「くそっ、こんなもの………!オラァッ!」
甲賀の注意も聞かず、海斗は自分よりも一回りも大きいシャドーボールを自分の身体を盾として受け止めた。
「バーストボルト!」
一瞬のうちに大量の電気を発電し、蓄電すること無く身体中から一気に放出した。雷が落ちたような轟音が響き、シャドーボールをかき消した。
「すごい………大丈夫ですか、海斗さん」
「大丈夫だ……。頼む、正気に戻ってくれ…ティーエ……!」
今の一撃でかなり消耗したのか、肩で息をする海斗。
「アイアンテール」
答えはなく、さらに追撃してくる。振り下ろされる鋼鉄の尻尾をギリギリで避け、その場から飛び去る。鉄製の研究所の床が、尻尾の形に沿ってへこんでいるのが見えた。
「雷装・拳!」
さすがに応戦しないわけには行かなくなったので、最低出力で雷装を拳に纏う。息を吐く暇さえ無く攻め立ててくるティーエの攻撃を何度も受け流した。たとえそれで出来た隙を突いて攻撃することも無く、ただひたすらに回避行動を取り続けた。
ティーエが正気に戻ることを信じて。
「フッ、中々良い動きをするじゃないか。だが、相手を攻撃しない程度の動きなど、ヌルいだけだぞ!海斗!」
ジュリアスはどこから取り出しのか、何かのボタンを持っていた。そしてそれを、海斗の見ている前で迷わず押した。
「ウッ、グガアアアァァァァ!!!」
野生の獣と間違えるほどの叫びがティーエから発せられた。その顔はとても苦しそうだった。
「てめぇ!ティーエに何をした!?」
「ふん。痛覚神経を最大まで反応するようにしただけさ。今のティーエは、立っているのも激痛なほどにね」
「なにィ………!?」
ティーエは痛みを堪えて海斗を睨み付けている。そして、一歩踏み出した。踏み出した足が地についただけで気が狂うほどの痛みが走る。それでも、ティーエは歩くことをやめない。
「やめろ…やめるんだ、ティーエ…。もう動くんじゃない」
海斗の制止を聞かず、痛みに蝕まれながら近付いてくる。
「………むう。これではさすがに動きが悪いな。じゃあこうしようか」
ジュリアスはそう言うと、また別のボタンを押した。それと同時に、ティーエから苦悶の表情が消え、少し不思議そうに手を振る。
「………今度は何をした」
「簡単なこと。痛みがダメなら痛みを消せばいい。今度は痛覚神経を遮断したのさ」
その時、海斗の視界が瞬間的にブレる。何かと思って見ると、ティーエが自分に突撃してきたことが分かった。
「うおっ!?」
「かみつく」
ティーエは押し倒した海斗の首を狙って、噛み付いてきた。
「ぐっ!?」
「フフフ…そのまま噛み切ってしまえ、ティーエ」
力を込めて噛み付く、ギリギリという音まで聞こえてくる。
「(痛みが遮断されてっから電気を流しても効果はねえ!出来ることなら傷付けたくねえし…どうする!?)」
その時、海斗に妙案が浮かんだ。実行するために息を思い切り吸い込む。
「いったい何をして___
「ウオオォォォォ!!!」自分が出せるだけの声を思いっきり強く、大きく叫んだ。ティーエも一瞬だけ体を硬直させ、力が抜けた。その隙をすかさず狙い、ティーエを押しのけた。
「ほう。考えたな。ならいっそ聴覚神経も遮断しようか?ククク………」
「もう勝手なことはさせませんよ!」
甲賀の一閃がジュリアスを狙った。しかし、寸前で避けられてしまう。
「残念だったな。あと少しだったのに」
「いえ、これで充分です」
ジュリアスが嘲笑うと、甲賀は笑い返した。気付けば、さっきまで持っていたリモコンが真っ二つになって足元に落ちていた。
「なっ、貴様ぁ………!」
「僕の仲間達を傷付けた罪。貴方の場合は死に値します!青龍を主とする四神の武術、その魂に刻み込んであげます!」
「甲賀……………任せたぞ!」
「了解です、隊長」
甲賀は剣を構えた。ジュリアスに断罪の一撃を執行するために。
「遥か遠く/宇宙の果てまで/光の彼方/銀河の端しまで/広がる/希望の光/絶望の闇/表裏一体/黒と白/そのどれにも属さぬ物/数ある無数の星々/内の一つが舞い降りた/破壊の化身と共に/創造の神なり/道を開けよ者共/これより/星の王が通る!目覚めろ!審判の星!」
[解放の唄]を唱えると、何時もの長剣から片刃形状、いわゆるカトラスの様な形になる。しかし、それで終わりではなかった。
「星よ星/審判の星よ/我の願い/叶えたまえ/星よ星/断罪の星よ/我の願い/届けたまえ/かつて神をも/殺めた星よ/その裁きの力を/我が手に/断罪の力を/この剣に/今宵我は/正義の使者となり/この世の罪を/裁く力を手にする!罪の数だけその者に痛みを!断罪!
罪を憎んで人を憎まず!」
第二の[解放の唄]を唱えると剣から淡い黄色の光が放出され始めた。その光は甲賀の手の甲に集まり、六芒星の魔法陣を作り出した。
「な、なんだそれは。そんなもの、私は知らないぞ!」
急に変わった剣を見て、隠そうともせずにうろたえるジュリアス。甲賀は、ジュリアスに剣を向けた。
「ジュリアス・マールハイト。今から貴方を裁きます。この『断罪の剣』で」
形は変わらないはずなのに、さっきまでと明らかに違う威圧感を放っている。甲賀は剣を構え、一気に距離を詰めた。
「た、タダでやられるか!リーフブレード!」
「無駄な抵抗ですね」
甲賀の一撃を技で迎え撃とうとする。しかし、不可思議なことが起きた。剣はジュリアスの攻撃をすり抜け、そのままジュリアスを切り裂いたのだ。
「ぐおおおおおお!?」
切られた場所に手を当て、その場に膝をつく。
「この剣は現世の物を斬らず罪だけを正確に捉えます。どんな攻撃も防御も無意味です」
「そんな物理法則を無視した剣があるか!現世の物と言うなら、この私が斬られることはない筈!なのにこの痛みはなんだ!」
色々と小難しいが、ジュリアスは正しい。ジュリアスが手を離すと、そこは傷一つ無かった。
「傷も無いのに何故こんなに痛みを感じるんだ!くそっ、訳がわからない………!」
「それはあなた自身ではなく、あなたの罪を斬ったからですよ」
急にジュリアスには理解し難いことを言い出す甲賀。
「罪、だと……?」
「人には必ず何かしらの罪があります。僕の剣はその罪のみを捉え、斬ることが出来ます。罪と自分は一心同体。斬られれば痛むのは当然でしょう」
説明を受け、自分の頭を整理する。
「つまり、貴様は私を傷付けずに攻撃して来るわけだな?」
「砕いて言えばそうなります。物分りが早くて結構です」
再び、場が静かになる。甲賀は再度剣を構え、ジュリアスも迎え撃つ気だ。
「喰らえ!剣技、十二月が___
「ティーエ!来い!」
「!!?」
なんとジュリアスは海斗と戦っていたティーエを呼び、自分の盾にしたのだ。
「ティーエさん、うわっ!」
発動しようとしていた技をキャンセルするために、かなり体勢を崩してしまった甲賀。そこにティーエの"アイアンテール"襲い掛かる。
「くっ!」
咄嗟に持っていた剣で防ごうとするが、甲賀にとって予想外のことが起こる。
鋼鉄の尻尾は剣をすり抜けた。気付いた時にはすでに遅し、強烈な一撃が甲賀に直撃した。
「がっ………!!(しまった、今僕の剣は…使えないんだ…)」
あまりにも大き過ぎるダメージで、すぐには立ち上がれない。卑怯なことに、ジュリアスは倒れている甲賀を踏みつけた。
「さっきまでの優勢はどこへ行ったのだろうな?ククク………貴様が這い蹲る姿もなかなかいいな」
甲賀は苦しそうに言った。
「この…卑怯者め…!」
「卑怯?作戦と言ってくれ。使える物は使わないと損だろう?」
ティーエを物扱いし、さらに侮辱する。
「クソッタレがああああああああああ!!!」
手の空いた海斗は、真っ直ぐにジュリアスに向かって行った。
「おっと、遊び相手を奪って悪かったな。そら、ティーエ。存分に遊んできなさい」
「イエス、マスター」
ティーエは命令の通りに海斗の前に立ちはだかった。それでも海斗は走るのをやめない。
「どけぇティーエ!邪魔すんならお前もぶっ飛ばすぞ!」
「シャドーボール」
一直線に走って来る海斗に向かって、"シャドーボール"を撃った。海斗は避けようとせずに突っ込む。
"シャドーボール"が、海斗に直撃した。煙が巻き上がり、視界が一時的に悪くなる。
「海斗さん!このっ、どけっ!」
動けないまま甲賀は剣を振った。しかし、簡単に避けられてしまう。
「癖の悪い手だな。どれ、使えなくしてやるか」
ジュリアスは、力の限り甲賀の右腕を踏み付けた。
「ーーーーーーッッ!!!」
ゴギリ、と嫌な音を立て、甲賀の腕に激痛が走る。
「これでもう剣は使えまい。無様なものだな。さっきまで私に散々生意気な口を利いておいて、今は私に腕を折られ、踏み付けられているのだからな」
ジュリアスが優越感に浸っていると、強い衝撃と共に突然視界がブレた。
「許さねえ!ゼッテー許さねえええええええええええ!!!」
"シャドーボール"で吹き飛ばされたはずの海斗が、いきなり上から降ってきてジュリアスの顔に強烈なパンチをお見舞いした。それを見たティーエはすぐさま海斗に飛び付いてふっ飛ばした。
「いてて…あいつ、まだ生きてたのか」
殴られた頬を押さえながら立ち上がるジュリアス。その目は厳しいものに変わった。少し苦い顔をすると、近くにいたティーエを叩いた。
「ダメじゃないか。ちゃんとトドメを刺さないと。気を付けなさい。いいね?」
「…すいません、マスター」
ティーエは立ち上がろうとする海斗に追撃するために走った。しかし、その前に立ち上がった海斗に首を掴まれて床に叩きつけられた。
「もう動くんじゃねえ…ティーエ。邪魔もするな。ブッ飛ばさなきゃいけねえやつが、目の前にいるからよ………!」
その顔は、一言で表すなら、激怒。今にもはち切れんばかりの怒りを体いっぱいにため、爆発するその時をはかっていた。
「………………………………………」
少しだけ、ティーエの口が動いたような気がした。まさか、と思って耳を近付ける。
「…ワタ…シ……ヲ…コロ…シテ………」